No.23009 オウム病県内初事例ー富山県

[ 詳細報告 ]

分野名:細菌性感染症
衛研名:富山県衛生研究所
報告者:ウイルス部 谷 英樹
事例終息:事例終息
事例発生日:2022/11/21
事例終息日:2023/01/31
発生地域:富山県
発生規模:小
患者被害報告数:4(確定例1名、疑い例1名、可能性例2名)
死亡者数:0
原因物質:クラミドフィラ シッタシ
キーワード:クラミドフィラ(クラミジア)、オウム病、C. psittaci、IgG抗体陽性、ハト、糞、肺炎、発熱、咳

概要:
 同じ会社の2名が同時期に肺炎症状を呈して近医を受診した。会社周辺にハトの糞が多量にあり、毎日掃除をしていたとのことであった。Chlamydia psittaciが原因のオウム病を疑い、衛生研究所に全血、喀痰、咽頭ぬぐい液が搬入された。国立感染症研究所との合同検査の結果、C. psittaciの遺伝子は不検出ながらIgM抗体およびIgG抗体陽性の届出基準を満たすことから、オウム病と診断された。ハトの糞掃除により病原体を吸入したことが原因である可能性が高いと思われた。富山県初症例となった。患者被害報告数:4 名(確定例1名、疑い例1名、可能性例2名)

背景:
 2022年11月21日にA厚生センター(保健所)に医療機関よりオウム病疑いの相談があった。事業所B(A厚生センター管内)の同僚2名が肺炎症状を呈して来院(患者1、2)、事業所周辺にはハトの糞が多量にあり、患者1および2の同僚で他に2名が呼吸器症状を呈しているらしい、との報告。同日、A厚生センターより、衛研でオウム病についての検査が可能か、検体は何を採取すれば良いかについて、問い合わせがあった。 また、医療機関より民間検査会社に患者1(40歳代、女性)の血清が提出され、補体結合試験(CF法)によりオウム病抗体が検出されているとのことだが、この結果を持ってオウム病として届け出して良いかについても問い合わせがあった。

地研の対応:
 A厚生センターから問い合わせがあった11月21日時点では、衛研でオウム病検査体制を整備していなかったため、国立感染症研究所ウイルス第一部第五室に相談し、オウム病検査用のPCRプライマーと陽性コントロールを送っていただいた。また、血清診断については、国立感染症研究所ウイルス第一部第五室より、CF法は属特異的かつ抗体全般を検出するものであり、成人の半数が保有すると報告されている肺炎クラミジアC. pneumoniaeに対するIgG抗体を検出している可能性を否定できないため、オウム病の届出基準を満たす抗体検査法は種特異的かつIgMとIgGを分けて検出可能な間接蛍光抗体法(IF法)であると教示された。A厚生センターに衛研でPCR検査を実施する旨と採取検体の種類について伝え、11月22日に患者2(50歳代、女性)の発症後13日目の検体(全血、喀痰、咽頭ぬぐい液)が搬入された。衛研でPCR検査を行うが、既に症状が消失している回復期の検体であったためか、遺伝子は検出されなかった。
 12月5日に、患者2の発症後23日目の血清も提出されたため、13日目の血清と併せて感染研に送り、IF法による抗体検査を依頼した。1月23日に感染研より、C. psittaciに対するIgG抗体はペア血清で4倍以上の上昇は認められないが、シングル血清で256倍以上、IgM抗体陽性と届出基準を満たすことから、オウム病と診断して良い、との通達を受けた。結果を本庁ならびにA厚生センターに送付した。

行政の対応:
 1月24日に患者2の診断が確定し届出された時点で本庁から県医師会に対し、県内初のオウム病症例が確認されたことと衛研でオウム病のPCR検査が可能であることを情報提供した。
 1月24日にA厚生センターが患者2に聞き取り調査したところ、自宅では動物の飼育はなく、自宅周辺でカラスやスズメをみかけるものの接触はないとのことであった。一方、事業所B内ではハトの糞が多量にある箇所を掃き掃除していたとのことであった。同時期に呼吸器症状を呈していた同僚のうち2名は患者2と同部署で、1名は他部署であったが、事業所Bの清掃担当箇所はローテーション制のため、いずれも患者2と同様、事業所内のハトの糞が多い箇所の清掃を行っていた可能性が高いとのことであった。
 1月26日にA厚生センターが事業所Bに聞き取り調査したところ、患者2以外に2022年11月に呼吸器症状を呈した社員が3名(肺炎2名、原因不明1名)いた。2022年10月以前や12月以降には肺炎等で体調不良の社員はいなかった。数年前よりハトが多くいるため、事業所内でのハト対策(液体の忌避剤の使用、防鳥ネットをかける、防鳥ピンの設置)は実施しているが、現在もハトは飛来しているとのことであった。A厚生センターは事業所Bに対し、ハトの糞を掃除する際には乾燥した糞が舞い上がらないように対策すること、糞の掃除をする際には感染防護具(N95マスクやゴーグル等)を着用すること、他の対策(防鳥ピンを増やす等)も検討すること等を指導した。

原因究明:
 上記のとおり、患者2は自宅周辺では鳥類との接触がないが、勤務先の事業所Bで多量のハトの糞を清掃しており、ハトの糞の清掃時に舞い上がったC. psittaciを吸入して感染した可能性が高いと考えられた。患者2と同様に事業所Bでハトの糞を清掃していた社員3名が同時期に呼吸器症状を呈しており、オウム病の集団発生が起こっていた可能性が示唆された。患者1と2の推定感染時期である2022年10月中旬から11月上旬にかけて富山県内では降雨日が少なかったため、ハトの糞が乾燥して舞い上がりやすくなっていた可能性があると考えられた。患者検体は回復期のものしか得られなかったため、遺伝子による検査診断が出来なかった。患者由来C. psittaciの遺伝子配列を得られれば、ハトの糞などの検体を入手して遺伝子配列を比較し、原因究明につながったものと思われる。

診断:
 ペア血清を用いた抗体検査(IF法)

地研間の連携:
 なし

国及び国研等との連携:
 国立感染症研究所ウイルス第一部第五室との連携(オウム病の概要や検査法に関してメールおよび電話での問い合わせ、直接感染研に訪問しての打ち合わせ、PCR法のプライマーおよび陽性コントロールの供与、IF法による抗体検査の依頼)

事例の教訓・反省:
 当所で対応できない検査については、常時把握し、感染研や他の地衛研に応援要請できる体制を整えておくことが重要と思われた。感染研の対応部署とはこれまでにも連携が取れていたため本件ではスムーズにやり取りできたと思われる。
 飛沫や環境因子などからの気道感染などによる集団感染が疑われる場合、感染拡大を防止するためにも、疑い事例発生の段階で厚生センターが現場に出向き実地調査、聞き取り調査などを実施できる体制が望まれるが、本事例対応時には確定診断がつくまで対応できない状況となっていた。今後、こうした事例に対しては疑いの段階で対応できる体制を構築する必要があると考えられた。

現在の状況:
 当所での遺伝子検査体制の確立、感染研との連携体制の確立

今後の課題:
 感染拡大の可能性がある事例の場合、確定診断を待たず、疑いの段階で聞き取り調査などを開始する体制の構築が必要であると考えられた。

問題点:
 川崎市の福祉施設におけるオウム病集団事例では、換気設備内にハトが営巣したことが推定原因と報告されている(三﨑ら, IASR, 35, 153-154, 2014)。したがって、患者が鳥類あるいは鳥類の排泄物と直接的に接触した覚えがない場合は、換気設備の点検等が必要であると考えられる。今回の事例では、患者がハトの糞を掃除していたことは確定診断後に判明した。もし、川崎市の事例のように直接的な接触がなかった場合には、感染拡大防止のために事業所Bの点検が必要であったことを考えると、患者への聞き取り調査は確定診断を待たずに行う必要があったと考えられた。  

関連資料:
 なし

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