[ 詳細報告 ]
分野名:リケッチア感染症
衛研名:富山県衛生研究所
報告者:ウイルス部 谷 英樹
事例終息:事例終息
事例発生日:2023/05/08
事例終息日:2023/06/07
発生地域:富山県
発生規模:小
患者被害報告数:1
死亡者数:0
原因物質:リケッチア ヘイロンジャンジェネシス
キーワード:イスカチマダニ、マダニ刺咬、R. japonica、R. heilongjiangensis、IgM抗体陽性、IgG抗体陽性、発熱
概要:
50歳代女性、散歩後左肩のマダニ刺咬に気付き抜去したものの、翌日37〜38℃の発熱があり、近医受診。数日後に皮疹が出現したためにリケッチア症疑いで大学病院を受診、入院。患者の全血および皮膚片とマダニが持ち込まれ、衛生研究所でPCR検査および抗体検査を行ったところ、患者検体から遺伝子は検出されなかったが、マダニからR. heilongjiangensisの遺伝子が検出された。血清学的診断から日本紅斑熱症例として届け出された。富山県内初症例となった。
背景:
2023年5月7日、50歳代女性散歩後左肩のマダニ刺咬に気付き抜去したものの、翌日37〜38℃の発熱があり、近医受診。5月12日に皮疹が出現したため、5月15日にリケッチア症疑いで大学病院を受診、入院。病院で全血およびマダニ刺咬部位と推定される皮膚を採取され、翌16日に衛生研究所に搬入、詳細に検査することになった。
地研の対応:
当所では、全血と皮膚についてSFTSウイルス、つつが虫病リケッチア、紅斑熱群リケッチアについてリアルタイムPCR検査を実施するも、これら病原体に関しては全て陰性であった。検体と同時に患者に付着していたマダニ(患者家族によって保存されていた)も入手できたため、マダニについても上記病原体のリアルタイムPCR検査を実施したところ、SFTSウイルスとつつが虫病リケッチアは陰性であったものの、紅斑熱群リケッチアが陽性となった。そこで、マダニについて紅斑熱群リケッチアのPCR検査を実施し、陽性となったPCR産物のシークエンスを行ったところ、系統樹解析の結果より、極東紅斑熱リケッチア(R. heilongjiangensis)の遺伝子配列であることがわかった。また、抗体検出用に感染研より日本紅斑熱リケッチア(R. japonica)の抗原スライドを譲渡してもらい、間接蛍光抗体法を実施した。その結果、5月29日採取血清においてR. japonicaに対するIgM抗体の陽転が確認され、この結果から日本紅斑熱症例として医療機関から届け出がされた。後日、6月29日採取血清においてIgG抗体の陽転も確認された。
行政の対応:
富山県内初の日本紅斑熱症例として6月7日に県および富山市のホームページでプレスリリースを行った。
原因究明:
発症前日に患者から抜去されたイスカチマダニからR. heilongjiangensisが検出されていることから、このマダニが感染源であると考えられた。
診断:
リアルタイムPCR法、PCR法、シークエンス解析、間接蛍光抗体法
地研間の連携:
なし
国及び国研等との連携:
国立感染症研究所ウイルス第一部第五室より日本紅斑熱リケッチア(R. japonica)の抗原スライドを分与していただいた。
事例の教訓・反省:
患者検体(血液および皮膚)から病原体遺伝子が検出されなくても、マダニなどの病原体媒介生物が入手できている場合には、積極的に検査することでこちらから病原体遺伝子が検出されることがあることがわかった。病原体が検出されれば、抗体検査など追加検査に発展することもできる。
現在の状況:
SFTSウイルス、つつが虫病リケッチア、紅斑熱群リケッチアの同時検出リアルタイムPCR検査系を整備して、疑似症例について確実に検査できるようにした。
今後の課題:
今回、当所で保管していた抗体検査用の抗原スライドが大変古くに整備したものであり、陽性対照となる血清もなかったため、検査が成立するか不明であると考え、感染研から一部の抗原および検査用の抗原スライドを譲渡していただいた。今後は、衛研でも定期的に更新したものを整備しておく必要があると思われる。
問題点:
紅斑熱群リケッチアには多数の種が含まれているが、遺伝的に相同性が高く、血清交差反応を示すものが多いことから、リケッチア種を特定するためにはPCRや抗体検査だけでなく、遺伝子配列を調べる必要がある。PCRや抗体検査のみで日本紅斑熱として届け出されている症例の中にはR. japonica以外のリケッチアを原因とするものが含まれている可能性もあるが、詳しく検査するには限界があるのも事実である。
関連資料:
行政報告、県ホームページ発表資料