【感染症エクスプレス@厚労省】Vol.513 (2024年5月27日)
8期の柴田和香です。2023年10月より、世界保健機関 西太平洋地域事務局(World Health Organization Regional Office for the Western Pacific、WHO WPRO)にて海外研修を開始しました。
Division of Disease Control(DDC)のVaccine Preventable Diseases and Immunization(VDI)という部署に配属されています(1)。
VDIではワクチン予防可能疾患(ポリオ、麻しん、風しん、B 型肝炎、日本脳炎、ジフテリア、百日咳、破傷風、など)の予防接種事業のみではなく、サーベイランスからアウトブレイク対応まで、他部署と協力しながら幅広く感染症対策を行っています。
2024年は予防接種の仕事に携わっている人にとって特別な年です。
なぜなら、WHOの予防接種プログラム(Expanded Programme on Immunization、EPI)発足50周年の年だからです(2)。
4月24日~30日は世界予防接種週間(World Immunization Week)と制定されていて、この週から50周年のお祝いが正式に始まりました(3)。
EPI発足当初は、子どもを天然痘、結核、ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ、麻しんの7疾患から守ることが目的でした。
現在では、小児期に限らず生涯を通して、17のワクチン予防可能疾患が対象となっています。
この記念すべき節目の年に、EPIの効果を評価した論文も発表され、1974年以降の小児死亡率の改善の40%は、予防接種の恩恵と分析しています(4)。
私は現在、5月下旬に開催予定の麻しん・風しんの追加予防接種キャンペーンSupplementary Immunization Activity(SIA)のサポートでラオス人民民主共和国に来ています。
SIAとは、定期予防接種率の低い国において、定期予防接種を補う形で開催される追加接種キャンペーンであり、今回ラオスでは、全国の9か月から59か月の乳幼児全員に麻しん・風しんワクチンを追加接種することが目標です(5)。
麻しんは特に感染力の強いウイルスであり、95%以上の予防接種率を保たなければ、まん延してしまう恐れがある感染症です。熱と発しんが出て、まれに肺炎や脳炎を合併することもあります。ラオスではCOVID-19パンデミックの影響で、定期予防接種率が低迷しており、GaviやUNICEFなどの支援によりSIAを実施しています(6)。
COVID-19パンデミック中に定期予防接種率が低迷したのはラオスだけでなく、多くの国で同様のことが起きてしまいました。
2023年5月にCOVID-19が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」であるという宣言が終了され、人の動きが再活発化し、世界的に麻しんの感染が拡大しています(7)。ラオスでは2021年以降麻しん症例は確認されていませんが、近隣の中国とベトナム、カンボジア、タイ、ミャンマーでは流行が続いています(8)。
サーベイランス制度も脆弱であり、リスクの高い国です。今回のSIAで対象人口(約63万人)の95%以上にワクチンを届けることを目標としています。
最後に、国内の皆さんへのメッセージです。麻しんは子どもの方が重症化のリスクが高いですが、大人もかかる病気であり、感染すると他人にうつしてしまう恐れもあります。日本国内でも戦後は流行していましたが、
1978年より定期予防接種(1回)が開始となり、2006年から1歳児と小学校入学前1年間の2回接種制度が始まり、報告件数は減少し、2015年に麻しん排除国と認定されました(9)。
上記の通り、昨今は世界的に麻しんの感染が拡大しているため、海外渡航予定で麻しんの予防接種を2回受けていない場合、又は接種既往が不明の場合には予防接種を受けることを検討してください。
【参考資料】
(1) WHO WPRO Vaccine-Preventable Diseases and Immunization
(2) WHO 50th anniversary of the Expanded Programme on Immunization (EPI)
(3) WHO World Immunization Week 2024
(6) Vientiane Times Laos, partners launch campaign to tackle measles and rubella
(8) WHO Global Health Observatory Measles - number of reported cases
(9) 厚生労働省「麻しんについて」