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感染症法に基づくBSL4施設の基準
BSL4施設とは
BSL(バイオセーフティレベル)とは、細菌・ウイルスなどを取り扱う実験施設の分類で、病原体を封じ込めるための設備や運営管理体制により1~4に区分されています。この数字が大きくなるほど、施設設備や管理体制のレベルが上がっていくことになり、BSL4施設とは、もっとも高いレベルの安全基準や安全管理体制が取られている封じ込め施設ということになります。
そのためBSL4施設では、エボラ出血熱の原因となるエボラウイルスや、ラッサ熱の原因となるラッサウイルスなどを取り扱うことが可能です。
感染症法に基づく病原体等の管理規制について
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号。 以下「感染症法」という。)においては、生物テロに使用されるおそれのある病原体等であって、国民の生命及び健康に影響を与えるおそれがある感染症の病原体等の管理の強化のため、一種病原体等から四種病原体等までを特定し、その分類に応じて、所持や輸入の禁止、許可、届出、基準の遵守等の規制を設けています(平成19年6月1日から施行)。
具体的には、バイオセーフティ(病原体等の安全な取扱い)及びバイオセキュリティ(病原体等の盗取等の防止)の観点から、施設の構造や設備等のハード面の基準、病原体等の保管、使用、運搬、滅菌等の運用面の基準、所持者の義務等が定められており、特定病原体等所持者は所持する病原体等の種別に応じた基準、病原体等の適切な取扱いや安全管理のための事項を遵守する必要があります。 厚生労働省では病原体等の所持や輸入の許可、届出等のほか、基準等の遵守を含む適正な管理が行われているかを確認するため、報告徴収、立入検査、改善命令等の指導・監督を行っています。
これら一種病原体等から四種病原体等のうち、一種病原体等については全て、BSL4施設で取り扱う必要のある病原体です。
施設基準
具体的には、
- ● 地崩れ及び浸水のおそれの少ない場所に設けること
- ● 建物の主要構造部を耐火構造又は不燃材料で造ること
- ● 地震に対する安全性の確保が図られていること
- ● 管理区域を設定すること(アクセス制限)
- ● 病原体の保管庫は実験室内に設け、施錠すること
- ● 実験室内部は耐水性及び気密性があり、内部表面は消毒や洗浄が容易な構造であること
- ● 実験室に通話装置又は警報装置を備えていること
- ● 実験室内部を観察することができる窓を設けるなど内部の状態を把握できる措置が講じられていること
- ● 実験室内部を常時監視するための装置を備えていること
- ● 実験室の内部に、高圧蒸気滅菌装置に直結している高度安全キャビネット(陽圧防護服を着用する実験室は安全キャビネット)を備えていること
- ● 実験室は専用の前室及びシャワー室を附置すること
- ● 陽圧防護服の消毒・洗浄を行うシャワー室を備えていること
- ● 実験室の出入口にインターロック(二重扉で同時に開かない構造)を設けること
- ● 管理区域内の実験室近くに専用の給気設備、排気設備及び排水設備を設けること
- ● 実験室からの排気が2つ以上のヘパフィルター(高性能フィルター)を通じて排気される構造であること
- ● 陽圧防護服に給気するための装置を備えていること
- ● 実験室の入口から内部への陰圧気流であり、再循環されない構造であること
- ● 排気設備は、排気口以外から気体が漏れにくく、腐食しにくい材料を用いること
- ● 実験室からの排水の排出が、高圧蒸気滅菌装置及び化学滅菌装置を通じてなされる構造であること
- ● 給気設備、排気設備及び排水設備の扉など外部に通ずる部分を施錠すること
- ● 給気設備、排気設備及び排水設備は、稼働状況の確認のための装置を備えていること
- ● 実験室を施錠すること
- ● 実験動物の飼育設備は実験室の内部に設けること
- ● 滅菌設備は、実験室の内部と外部の両面に扉がある高圧蒸気滅菌装置を備えていること
- ● 非常用予備電源装置及び予備の排気設備を設けること
- ● 実験室近くに監視室を設けること
- ● 事業所の境界には、人がみだりに立ち入らないようにするための柵等の施設を設けること
- ● 施設の出入口から実験室の出入口の間に、施錠など通行制限措置が講じられていること
- ● 一年に一回以上定期的に点検し維持すること
- ● ヘパフィルターを交換する場合は滅菌してから交換すること
などが定められています。
保管等の基準
具体的には、
- ● 病原体の保管については、密封できる容器に入れ、かつ、保管庫において行うこと
- ● 保管庫は病原体の保管中確実に施錠するなど病原体をみだりに持ち出すことができないようにするための措置を講ずること
- ● 病原体の使用については、実験室の内部に備えられた高度安全キャビネットにおいて行う(宇宙服型の陽圧防護服を着用する場合には、安全キャビネットにおいて行う)こと
- ● 病原体の使用は2人以上で行うこと
- ● 陽圧防護服を着用する実験室の場合は着用前に異常の有無を確認すること
- ● 実験室から退出する時は陽圧防護服の表面の消毒剤による汚染除去をすること
- ● 排気や汚染可能性のある排水・物品を持ち出す際は全て滅菌すること
- ● 病原体を使用した動物を実験室からみだりに持ち出さないこと
- ● 動物飼育設備には動物の逸走を防止するために必要な措置を講ずること
- ● 実験室の出入口に厚生労働大臣が定める標識を付すること
- ● 管理区域には人がみだりに立ち入らないような措置を講じること
- ● 病原体の滅菌や不活化については、摂氏121度以上で15分以上若しくはこれと同等以上の効果を有する条件で高圧蒸気滅菌をする方法又はこれと同等以上の効果を有する方法で滅菌等をすること
などが定められています。
運用面の基準
BSL4施設の必要性
また、「長崎大学の高度安全実験施設(BSL4 施設)整備に係る国の関与について」(平成28年11月17日国際的に脅威となる感染症対策関係閣僚会議)において、長崎大学が坂本キャンパスに整備を予定している BSL4 施設を中核とした感染症研究拠点の形成による感染症研究機能の強化は、「国家プロジェクトの一つであることから、以下に従い、国策として進める」としています。
さらに、日本での研究の必要性について、BSL4施設の設置主体である長崎大学が平成29年9月に策定した基本構想では、「国内に、研究・人材育成を目的としたBSL-4施設が設置されていないため、国内の研究者はこれまで国外のBSL-4施設で訓練を受けて海外の研究機関と共同してBSL-4病原体等の自然宿主の同定、病原性の解明、診断・治療法の開発などを進めるよりほかなかった。さらには、平成13年の米国同時多発テロ発生以降は、セキュリティ面での懸念から自国の研究者以外のBSL-4施設使用は厳しく制限され、日本人研究者が、BSL-4病原体等を対象とした研究を海外で行うことも困難になってきている。」「我が国におけるBSL-4病原体研究の衰退は、BSL-4病原体の脅威に適切に対応できる人材の枯渇にもつながる。」「したがって、国際社会及び我が国における感染症の制圧のためには、我が国にも、BSL-4病原体に関する研究と人材育成を担う感染症研究拠点が必要であり、この拠点の中核的施設としてBSL-4施設を設置することが必要である。」とされています。
こうしたことを踏まえ、日本においてもBSL4施設は必要であると考えます。
BSL4施設に関する国の取組
この基本計画においては、5つの重点プロジェクトの1つとして、「感染症研究体制推進プロジェクト」が定められており、長崎大学の検討・調整状況等も踏まえつつ、高度安全実験施設(BSL4施設)を中核とした感染症研究拠点の形成に必要な支援方策等について検討・調整することとされたところです。
BSL4施設の地域住民への取組
また、長崎県、長崎市及び長崎大学が平成27年6月17日に締結した「感染症研究拠点整備に関する基本協定」に基づき、長崎大学BSL4施設に関する情報を提供するとともに、地域住民の安全・安心の確保等について協議するため、平成28年5月から長崎大学において地域連絡協議会を設置し、施設の活動状況等についての情報共有や意見交換等の取組が行われているところです。くわえて、長崎大学及び高度感染症研究センターにおける感染症に関する市民公開講座やシンポジウム、住民説明会等の取組が行われています。
よくある質問
Q1.BSL4施設とは、どのような施設でしょうか?
BSL(バイオセーフティレベル)とは、 細菌・ウイルスなどを取り扱う実験施設の分類で、病原体を封じ込めるための設備や運営管理体制により1~4に区分されています。この数字が大きくなるほど、施設設備や管理体制のレベルが上がっていくことになり、BSL4施設とは、もっとも高いレベルの安全基準や安全管理体制が取られている封じ込め施設ということになります。
Q2. どのような病原体を取り扱うのでしょうか?
ウイルス・細菌などの病原体は生物学的な危険度に応じて分類されており、感染性、致死性、ワクチンや治療法の有無、公衆衛生上の重要性等を考慮してBSL1~4に区別し取り扱うこととされています。当該施設は、BSL4でしか扱うことができないエボラウイルスやマールブルグウイルス、ラッサウイルスなども取り扱うことができます。(長崎大学BSL4施設は、政令で定める特定一種病原体等の所持の指定を受けています)
Q3. 施設から病原体が漏れ出ることはないのでしょうか?
施設は、感染症法に基づく耐火・耐震構造であり、万が一の場合にも病原体の外部への漏洩がないよう、実験室は内部の空気が外部に出ないような陰圧となっています。作業者は陽圧防護服を着用し、ウイルスを扱う作業は安全キャビネット内で行い、幾重もの封じ込めの措置がなされています。また、実験室内の空気は高性能フィルター(HEPAフィルター)を二重に通すことにより、ウイルスを含む微細な粒子まで取り除かれた後に外気に放出されます。
Q4. 事故や大地震を含む災害が発生した場合はどのような対応がとられますか?
感染症法に基づき、特定一種病原体等を所持する施設は、耐火・耐震構造等の安全性に関する施設基準のほか、事故や災害時の連絡・通報体制、緊急対応等を含む感染症発生予防規程の策定、作業時の具体的な安全対策や教育訓練等の運用面についても満たすことが求められています。
厚生労働省としては、同法に基づく特定一種病原体等所持者への定期的な立入検査等を通じて監督・指導を適切に行うとともに、万一事故や災害等が発生した際における適切な対応のため、「特定病原体等に係る事故・災害時対応マニュアル」を参考に必要な指導・助言を実施してまいります。
Q5. 大学であり学生も多く、住宅地も近くにありますが、大丈夫なのでしょうか?
諸外国のBSL4施設には、市街地や学校、住宅地の近隣に建てられている施設もあります。感染症法上は、BSL4施設を住宅地に設置しないとの立地規制はなく、また、「我が国のバイオセーフティレベル4(BSL-4)施設の必要性について」(平成26年3月20日 日本学術会議提言)においても、「新施設の建設には、大学等の研究機関がある等、科学的基盤が整備されている場所が望まれる」と提言されており、長崎大学BSL4施設の立地は、これらも参考にしたと考えられますが、厚生労働省としては、設置主体である長崎大学や、内閣感染症危機管理統括庁及び文部科学省と連携し、地域住民の皆様の安全確保に努めてまいります。
Q6. なぜ日本にBSL4施設が必要なのでしょうか?
「国際的に脅威となる感染症対策の強化のための国際連携等に関する基本戦略」(令和5年4月7日国際的に脅威となる感染症対策の強化のための国際連携等関係閣僚会議決定)において「国際的に脅威をもたらす新興・再興感染症に迅速に対応できるよう我が国における感染症研究機能の強化を図る」とされているところであり、BSL4施設は我が国における感染症研究のために必要であると考えています。
Q7. 長崎大学に新たにBSL4施設を設置することになった経緯について教えてください。
設置の経緯については、「高度安全実験施設(BSL4 施設)を中核とした感染症研究拠点の形成について」(平成29年2月17日感染症研究拠点の形成に関する検討委員会)において、
・ 我が国では昭和 56 年に国立感染症研究所村山庁舎に BSL4 施設が建設されたが、感染症法に基づく特定一種病原体等所持施設としての指定がなされるまで、BSL4 施設としての稼働ができない状態が続いていた。また、現在は同施設において BSL4 病原体を扱うことが可能となったが、厚生労働大臣と武蔵村山市長との間の確認事項として、施設の使用は感染者の生命を守るために必要な診断や治療等に関する業務に特化することとされている。
・ 一方、国内における BSL4 施設を活用した基礎研究及び人材育成の必要性が我が国の研究者の間で認識されている。平成 26 年1月には、長崎大学を始めとする9大学によるコンソーシアムが結成され、長崎大学を設置候補とする BSL4 施設を中核とした感染症研究拠点を整備する構想について検討が進められてきた。
・ さらに、同年3月、日本学術会議において提言「我が国のバイオセーフティレベル(BSL-4)施設の必要性について」が取りまとめられ、「我が国が感染症研究の分野で今後も高い研究水準を維持し、国際貢献を継続するには、国内の BSL-4 施設の整備と当該研究の強化は最重要課題の一つである。」、「いつ侵入してきてもおかしくない、あるいは、人為的にバイオテロとして使われるかもしれない BSL-4 病原体から国民の生命の安全を担保するためには、危機管理の観点からも早急に BSL-4 施設を整備する必要がある。」と述べられている。
・ これらの背景を踏まえ、基本計画に基づき、長崎大学の検討・調整状況等も踏まえつつ、BSL4 施設を中核とした感染症研究拠点の形成に関し、必要な支援方策等について、BSL4 施設の活用方策及び BSL4 施設の在り方等の論点を整理して、検討等を進めてきたところである。
とされています。
関連リンク
感染症法に基づく特定病原体等の管理規制について
・ 国家戦略文書
「国際的に脅威となる感染症対策の強化のための国際連携等に関する基本戦略」
(令和5年4月7日 国際的に脅威となる感染症対策の強化のための国際連携等関係閣僚会議)
※以下の2文書の改訂時に1文書に統合し、上記基本戦略として改訂。
「国際的に脅威となる感染症対策の強化に関する基本方針」
(平成27年9月11日国際的に脅威となる感染症対策関係閣僚会議決定)
「国際的に脅威となる感染症対策の強化に関する基本計画」
(平成 28 年2月9日国際的に脅威となる感染症対策関係閣僚会議決定)
・ 感染症拠点の形成に関する文書
「高度安全実験施設(BSL4 施設)を中核とした 感染症研究拠点の形成について」
平成29年2月17日 感染症研究拠点の形成に関する検討委員会
・ 長崎大学基本構想
「長崎大学の感染症拠点の中核となる高度安全実験(BSL4)施設の基本構想」
・ 長崎大学の地域住民への取組み
地域の皆様へ
・ 高度感染症研究センターとは
高度感染症研究センターとは | 長崎大学 高度感染症研究センター
・ 設置までの経緯
設置の経緯 | 高度感染症研究センターとは | 長崎大学 高度感染症研究センター
・ 日本学術会議提言
提言「我が国のバイオセーフティレベル4施設の必要性について」
平成26年(2014年)3月20日 日本学術会議