[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
衛研名:茨城県衛生研究所
報告者:細菌部 石川加奈子
事例終息:事例終息
事例発生日:2023/11/05
事例終息日:2023/11/05
発生地域:茨城県内
発生規模:-
患者被害報告数:18
死亡者数:0
原因物質:腸管出血性大腸菌 O157VT2
キーワード:腸管出血性大腸菌O157、HUS、観光果樹園、試食用りんご、イエバエ、MLVA、全ゲノム解析
概要:
2023年11月13日から11月16日にかけて、県内の複数保健所へ腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症発生届が相次いで提出された。保健所の調査の結果、患者らは11月5日に県内の同一観光果樹園を利用し、試食用りんごを喫食していたことが判明した。そこで同日の同施設利用者を中心に調査を実施したところ、EHEC O157 VT2検出者15名、血清診断での大腸菌O157凝集抗体陽性者2名及び臨床診断された者1名を合わせ、最終的に合計18名がEHEC感染症と診断された。そのうち3名は溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症したが、死亡例はなかった。本事案は、発生が一峰性であったこと、当該施設の試食用りんご喫食以外に患者らに共通する食事や感染症を疑う事象は確認できなかったこと、患者及び従業員から検出したO157の反復配列多型解析(MLVA)法の結果がMLVA complex 23c076で一致したことから、当該果樹園で提供された試食用りんごの喫食による食中毒と断定した。
背景:
EHEC感染症は、ベロ毒素を産生する大腸菌の感染によって起こる。EHECは100個程度の少量の菌数で感染が成立するため大規模な食中毒や感染症を起こしやすく、感染すると腹痛、水様性下痢、血便等の症状が現れ、HUSや急性脳症を引き起こし死に至ることもある。EHECは加熱不十分な牛肉、井戸水、生野菜等、様々な食品から見つかっている。
地研の対応:
保健所の依頼に基づき、有症者便、患者接触者便、施設従業員便、施設内環境拭き取り、施設使用水、りんご(参考品)のEHEC検査を行った。有症者便及び患者接触者便14検体及び施設従業員便1検体からEHEC O157 VT2が検出された。施設内環境拭き取り、施設使用水、りんご(参考品)からはいずれも検出されなかった。確保した15菌株についてMLVA検査を実施し、さらに国立感染症研究所に全ゲノム解析を依頼した結果、今回検出されたすべての株は遺伝的に近縁であることが判明した。また、試食用りんごが屋外で保管されハエが多数付着している状況であったことから、りんご販売所付近で採取したイエバエ71個体についてEHECの保菌検査を実施した結果、O168 VT2及びOg65 VT2が検出された。
行政の対応:
プレス発表を行い、EHECの予防方法等の注意喚起を行った。さらに、当該施設及び県内の観光農園に対し衛生講習会を実施し、食品衛生管理について注意喚起を行った。
原因究明:
EHEC O157 VT2陽性であった従業員1名(無症状保菌者)は試食用りんごの加工に従事していたが、自身も試食用りんごの喫食をしていた。また、他の従業員、施設内環境拭き取り、施設使用水、りんご(参考品)のいずれの検体からもEHECは検出されなかったことから、試食用りんごが汚染された経路は不明であった。
診断:
腸管出血性大腸菌O157 VT2
地研間の連携:
県外在住者について関係自治体に検便検査を含む関連調査及び陽性者菌株のMLVA検査を依頼し、情報を共有した。
国及び国研等との連携:
国立感染症研究所にHUS発症者の大腸菌血清診断、確保できた菌株の全ゲノム解析及び採取したハエの同定を依頼し、結果の還元を受けた。
事例の教訓・反省:
試食用りんごが汚染された感染経路は不明であるが、ハエが傷ついたりんごへEHECを媒介し菌が増殖するとの報告もあり、当所のハエの検査結果からもハエがりんごを汚染した可能性が示唆された。再発防止のためには、従業員や調理工程での衛生管理に加え、食材の保管や使用器具の取り扱い、喫食者の手指衛生についても注意が必要である。
現在の状況:
特記無し
今後の課題:
今後も食中毒原因検査においては保健所と適宜情報共有を行うとともに、迅速な検査体制を維持し技術を継承していくことが必要である。
問題点:
本事案は、保健所が営業者や営業所の実態を把握していない採取業の範疇である観光果樹園の試食品で起きた食中毒であり、監視が十分に行き届いていなかったと考えられた。今後も衛生講習や一般消費者への情報提供を通じ、食中毒の予防啓発が必要と考えられた。
関連資料:
IASR Vol. 45 p77-79: 2024年5月号
茨城県衛生研究所年報第62号(2024年)