[ 詳細報告 ]
分野名:自然毒等による食中毒
衛研名:川崎市健康安全研究所
報告者:食品担当 浅井威一郎
事例終息:事例終息
事例発生日:2024/05/24
事例終息日:2024/05/24
発生地域:川崎市
発生規模:家庭内で1名喫食
患者被害報告数:1
死亡者数:0
原因物質:テトロドトキシン
キーワード:ふぐ、テトロドトキシン、動物性自然毒、ショウサイフグ、精巣(白子)
概要:
5月24日、市内医療機関から所管保健所に「ふぐの喫食によると思われる症状を呈した患者がいる」との情報があり探知した。5月23日に患者夫が船釣りにて入手したふぐをショウサイフグと自主鑑別し、皮・内臓等有毒部位を除去して持ち帰り自宅で処理した。患者が白子を塩焼きにして喫食し、約1時間半後に手足・口のしびれを呈した。喫食後7時間経過後も症状が改善しなかったため医療機関を受診した。本事例は医師からの食中毒の届出等もあり、即日、食中毒事件とされた。当所宛て尿及び魚体(身欠き)について検査依頼があり、尿及び魚体からテトロドトキシンが検出された。また、魚体から抽出した遺伝子を検査したところショウサイフグの遺伝子を持つことが判明した。
背景:
ふぐによる食中毒事件は毎年のように起こっており(令和5年の全国での患者数は10名)、死亡事例も報告されている。特に今回のような家庭内食中毒も多数報告されている。
地研の対応:
食中毒事件の病因物質等について科学的根拠を明確にするため、保健所から当所あてに尿検体及び魚体を検体としたテトロドトキシンの検査依頼があった。患者の尿及び患者夫が処理し身欠きにした魚体についてLC-OrbitrapMSによるテトロドトキシンの検出及び定量を行った。また、当該魚体から抽出した遺伝子を対象としたPCR及びダイレクトシークエンスを行った。
行政の対応:
保健所は、医療機関から食中毒患者等届出票が提出されたため、患者の喫食調査を実施した。その結果、原因となるふぐの喫食は5月24日午前3時半頃に患者が喫食した白子のみであった。患者は同日午前5時頃(喫食1時間半後)から手足のしびれを呈した。なお、当該食品は患者夫が5月23日に自ら釣り上げたもので、自宅台所で加工しており、患者夫は当該品を喫食していないことを確認した。病因物質確認のため患者尿並びに魚体(身欠き)を採取した。
原因究明:
尿及び魚体からテトロドトキシンが検出された。今回の魚体は、身欠きの状態であったため、形態的な種鑑別を試みることができなかった。厚生省環境衛生局長通知の「フグの衛生確保について」によると、筋肉及び精巣(白子)は可食とされている。そのため、当初は種鑑別の誤りかと思われたが、PCR+シークエンスで得られた配列をBLAST検索した結果、ショウサイフグの遺伝子と100%一致した。厚生労働省ホームページ「自然毒のリスクプロファイル」にあるショウサイフグの欄には「精巣は『可食』とされているが、同省の調査で毒性(弱毒レベル)を検出している。」との記載があった。フグの毒力は漁獲海域や個体による差が大きいため、患者が喫食したショウサイフグの精巣に、中毒量のテトロドトキシンが含まれていた可能性が考えられる。なお、今回行った遺伝子検査では、ショウサイフグと別のトラフグ属種との雑種か否かの判別はできなかった。
診断:
尿及び魚体よりテトロドトキシンが検出された。これにより今回の食中毒事件の病因物質について裏付けることができた。
地研間の連携:
特になし
国及び国研等との連携:
厚生労働省ホームページ等を参考とした。
事例の教訓・反省:
遺伝子検査でショウサイフグと確認されたものの、精巣(白子)の摂食による症状発現及び魚体からのテトロドトキシン検出と矛盾のある結論となった。これまで当研究所では、LC-TOFMS(現在不所持)でのテトロドトキシン検出及び定量を行った実績はあったが、新たに導入したLC-OrbitrapMSでの実績がなく、検出等に時間と多大な労力を必要とした。
現在の状況:
理化学検査担当及び微生物検査担当の協力体制は整備されており、毒成分の検出推定(理化学検査担当)や遺伝子解析による推定(微生物検査担当)を研究的に実施している。
今後の課題:
自然毒食中毒対応時の既存機器における検査手法並びにふぐ交雑種のPCR検査と遺伝子解析の確立
問題点:
ふぐ交雑種について遺伝子解析・種同定を進めていきたいが、参考とする論文が非常に少ない。
関連資料:
・ 「自然毒のリスクプロファイル:魚類:フグ毒」(厚生労働省ホームページ)
リスクプロファイリング・魚類:フグ毒
・ 「魚介類の毒」(橋本芳郎、学会出版センター)より「谷の日本産フグの毒力表」