【感染症エクスプレス@厚労省】VOL.540(2025年7月25日)
多層的な視点で感染症に向き合う
~感染症の臨床現場での経験からIDESを志すまで~
2025年4月より、第11期IDES生として入省しました米崎駿です。千葉県出身で、幼少期は沖縄およびブラジルといった南国で過ごし、いつかは海外と繋がる仕事がしたいという思いを漠然と持っておりました。筑波大学に進学した後は、自分の知らない世界、海外を自分の目で見てみたいという思いからバックパッカーとして約40か国を訪問しました。各国の文化や人々と接する中で、海外の医療現場に関心を持ち、ベトナムやガーナ共和国でインターンシップをおこないました。中でも、ガーナ共和国でのインターンシップでは、アフリカの持つ広大な大自然、人々の繋がりの強さに感動するとともに、HIVやマラリアなどの感染症で多くの人々が苦しんでいる様子を目の当たりにし、感染症専門家を志す原体験となりました。
ガーナ共和国「ケープ・コースト」にて、子どもと母親たちに手指衛生の指導をしている様子
この1年間で最も深く関わったのは、 Tuberculosis Elimination Among Migrants In The Greater Mekong (TEAM2)プロジェクトです。本プロジェクトは、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)(参考文献2)の支援を受けて、タイ、ミャンマー、ラオス、カンボジア、ベトナムのメコン川流域5カ国において、移民や移動を伴う人々(MMPs)を対象に、結核のスクリーニング検査や健康教育などを提供することで、感染拡大の抑制と死亡率の低下を目指しています。
私はIOMアジア太平洋地域事務局のM&E(モニタリングと評価)を担当し、各国の保健省、IOM各国事務所、NGO、学術機関など18の実施機関と連携して、データの収集・分析・進捗評価を行いました。2024年には、80,610名に健康教育を提供し、105,715名に結核スクリーニングを行い、6,013件の結核症例を特定する成果を得ました。
フィリピン「サンラザロ病院」にて、結核外来の様子
IDES養成プログラムでの経験
IDES養成プログラム参加後は、国立感染症研究所でのFETP初期導入コース、国立国際医療研究センター 国際感染症センターでの外来研修、厚生労働省 感染症対策課での勤務など、異なるレイヤーでの感染症対応を学んでいます。FETP初期導入コースでは、感染症疫学やサーベイランス、アウトブレイク対応の基礎を、講義とケーススタディを通じて体系的に学びました。現場での経験と結びつけながら、国全体での感染症対策への理解を深めることができました。国際感染症センターでは、輸入感染症・渡航後感染症が疑われる患者の診療にあたり、通常の診療では得難い、非常に集中的で刺激的な1か月となりました。検疫所からの紹介や感染研への検査依頼など、関連機関との連携も現場で経験できました。7月からは本省の感染症対策課での業務に従事し、今後は空港や港での検疫所での業務も予定しています。これらの経験を通じて、それぞれ異なるレイヤーでの感染症対応を包括的に理解できる、非常に意義深い研修となっています。
このように、国内の感染症関連機関をローテートしながら、感染症内科医としてかねてから経験してみたいと考えていた分野を短期間で集中的に学べる貴重なプログラムです。感染症診療の経験がある方や、感染症危機管理に関心のある方には、うってつけの内容だと思います。感染症の魅力は、病原体の多様性や地理的分布の違いにとどまらず、適切な介入によって制御が可能である点にあると感じています。IDES養成プログラムで得た知見と経験を礎に、今後は感染症危機管理に携わっていきたいと考えています。
【参考資料】
参考文献
感染症危機管理専門家(IDES)養成プログラム
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/ides_index.html
長崎大学病院 感染症医療人育成センター
https://www.mh.nagasaki-u.ac.jp/kansen/
国立健康危機管理研究機構 実地疫学専門家養成コース(FETP)
https://www.niid.jihs.go.jp/fetp/fetp-about/fetp-about.html
国立国際医療研究センター 国際感染症センター
https://dcc.jihs.go.jp/