[ 詳細報告 ]
分野名:ウイルス性食中毒
衛研名:大分県衛生環境研究センター
報告者:微生物担当・佐々木麻里
事例終息:事例終息
事例発生日:2024年8月4日
事例終息日:2024年8月15日
発生地域:大分県
発生規模:原因食品等を摂食した者の数1,304名、患者数595名
患者被害報告数:4名
死亡者数:0名
原因物質:ノロウイルス
キーワード:ノロウイルス、食中毒、湧水
概要:
2024年8月9日、他の自治体から大分県あて、8月5日に大分県内の飲食店を利用した9名中8名が、8月7日10時頃から発熱、嘔吐、下痢等の症状を呈しているとの通報があった。保健所が調査を行った結果、2024年8月3日から8月12日までに、当該飲食店において提供された料理または湧水を喫食した者1304人中595人が下痢、嘔吐、発熱等の食中毒症状を呈していたことが判明した。当該飲食店で食事をせず、湧水のみを喫食した者も消化器症状を呈している旨の情報提供があり、湧水、湧水の源泉周辺環境(浄化槽放流槽水、土壌)、患者及び調理従事者の便をそれぞれ検査した結果、いずれからもノロウイルスGII遺伝子が検出されたことから、飲食店提供料理及び湧水が原因の食中毒であると推定された。
本事例の調査を実施する中で、当所における水のウイルス検査の課題も浮かび上がった。今後同様の事例が発生した場合に備え、超遠心機を使用することなく、かつ大容量の検体に対応可能なノロウイルス検査体制整備を進める。
背景:
ノロウイルスによる食中毒や感染性胃腸炎は主に冬季に流行するが、近年は夏季でも関係なく発生が見られる。ノロウイルスによる食中毒は、ウイルスに感染した食品取扱者の手指等を介して食品を汚染することが原因となるケースが多い。今回、飲食店で使用する湧水が原因と疑われた、患者数500名を超える食中毒事例が発生したので、報告する。
地研の対応:
患者及び従事者便のウイルス検査を実施し、検出されたノロウイルス遺伝子について塩基配列を解析した。湧水について、細菌検査及びノロウイルス検査を実施した。湧水及びその周辺環境について、民間検査機関において検出されたノロウイルス遺伝子の塩基配列を解析した。
行政の対応:
施設を管轄する保健所は、調査の結果、当該飲食店を原因とする食中毒事件として、営業者に対して営業停止の行政処分を行った。その後、食中毒の再発防止のため、湧水が汚染された原因の調査を行った。湧水及び湧水の源泉周辺環境(浄化槽放流槽水、土壌)のノロウイルス検査を実施したところ、一部の検体からノロウイルスGII遺伝子が検出された。
原因究明:
当該飲食店では湧水を使用したそうめんが名物であり、湧水を使用し調理を行うとともに、敷地内に水汲み場を設け湧水を提供していた。食事をせず、湧水のみを喫食した者からも消化器症状を呈している旨の情報提供があり、湧水、湧水の源泉周辺環境(浄化槽放流槽水、土壌)、患者及び調理従事者の便をそれぞれ検査した結果、いずれからもノロウイルスGII遺伝子が検出されたことから、飲食店提供料理及び湧水が原因の食中毒と推定された。
湧水の直接の汚染経路は特定されていないものの、ノロウイルスはヒトの腸管細胞でのみ増殖することから、源泉付近における局所的なヒト由来の汚染が疑われた。当該飲食店からの排水は、生活排水は未処理のまま、し尿排水は単独浄化槽で処理後に敷地内土壌に排水されており、排水処理に不適切な箇所が見られたことから、当該飲食店からの排水が湧水を汚染した可能性が示唆された。湧水は消毒が行われておらず、定期的な水質検査も実施されていなかったことから、使用水の不適切な管理が本事例につながったと考えられた。
診断:
大分県内の患者6名中6名(湧水のみの喫食者1名を含む)及び従事者3名中3名からノロウイルスGII遺伝子が検出された。湧水5検体中1検体及び湧水の源泉周辺環境検体(浄化槽放流槽水、土壌)4検体中3検体からノロウイルスGII遺伝子が検出された。塩基配列を解析した結果、患者6名、従事者1名及び周辺環境3検体の遺伝子型はGII.7であった。従事者2名及び湧水1検体の遺伝子型は決定できなかった。他自治体による患者便の検査においてもノロウイルスGII.7が検出された。
地研間の連携:
該当事項なし
国及び国研等との連携:
該当事項なし
事例の教訓・反省:
本事例では湧水は消毒が行われておらず、定期的な水質検査も実施されていなかった。湧水等の使用水による食中毒は、大規模事例になりやすく、未消毒の湧水の危険性が当該飲食店事業者に理解されていなかったことが本事例の背景にあると考えられる。本事例を受け、県は県内の食品関係事業者すべてにリーフレットを送付し、井戸水や湧水などを使用する場合には水質検査が必要であることの注意喚起を行った。
また、当所で水のウイルス検査の課題も浮かび上がった(現在の状況を参照)。
現在の状況:
当所では、ウイルス量が少ないと予想される食品等からのノロウイルスの検査には、超遠心機を用いたウイルス濃縮方法(超遠心法)を用いている。本事例の水のように検体量が多い場合、超遠心法では、1度に濃縮可能な検体量に制限があること、遠心時間やそれにかかる作業人員の問題から緊急時の検査が困難であることが明らかとなった。具体的には、当所保有の機器において、1本の専用遠沈管に入れられる検体量は7mLであり、1回に遠心可能な本数は最大32本であるため、一度に濃縮可能な最大検体量は224mLである。1回の遠心時間は4時間であるため、400mLを濃縮するために8時間の遠心時間を要した。また、各遠沈管にショ糖溶液を重層し、専用容器のフタを圧入し、天秤で重量バランスを調整する工程にさらに時間を要し、計4名の作業人員を必要とした。これらのことから、実際に超遠心法による水の検査は1検体しか実施できず、複数検体の緊急検査対応は困難であると考えられる。
今後の課題:
同様の事例が発生した場合に備え、超遠心機を使用することなく、かつ大容量の検体に対応可能なノロウイルス検査体制を整備する。
問題点:
(現在の状況を参照)
関連資料:
・食品衛生学雑誌 第66号第5号(2025)
・食と健康 10月号(2025)
