No.25009 カルバペネマーゼ(NDM-9)産生E.coli 感染症の発生と対応についてー山口県

[ 詳細報告 ]

分野名:細菌性感染症
衛研名:山口県環境保健センター
報告者:所長・調 恒明
事例終息:事例終息
事例発生日:2024年10月28日
事例終息日:
発生地域:山口県内
発生規模:
患者被害報告数:患者1名、保菌者1名
死亡者数:なし
原因物質:カルバペネマーゼ(NDM-9)産生E.coli
キーワード:カルバペネム耐性、カルバペネマーゼ産生、E.coli、NDM型、NDM-9

概要:
 山口県内の医療機関Aで2024年10月28日に患者aの創傷部位からカルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)が検出され、所管のZ保健所に医療機関Aから当該感染症患者の届出があった。本菌株について山口県環境保健センターで検査を行った結果10月29日に、カルバペネマーゼ産生性を確認、10月31日にはこれまで国内で感染症法に基づく報告のなかった1)、私信カルバペネマーゼ(NDM-9)産生のE.coliであることが判明した。患者aは70代男性で海外渡航歴はない。Z保健所、医療機関A、県庁健康増進課、感染研FETP及び環境保健センターによりWebカンファレンスを3回実施し、情報共有と対応についての協議を行った。
患者aの同室者6名及び患者aが受けた医療行為(内視鏡検査など)に関連して調査対象となった入院患者12名について医療機関Aで入院患者の保菌検査を実施した。また、すでに退院していた患者9名の保菌検査を環境保健センターにおいて実施した。その結果、同室の入院患者bの11月1日採取の便からカルバペネマーゼ(NDM-9)産生のE.coliが検出され、菌株の遺伝子学的検査の結果、患者a由来の菌株との関連性が示唆された。その後、保菌者bの同室者4名の保菌検査で陽性者は確認されなかった。保菌者bは保菌判明前に転院しており、転院先の医療機関Bと連携し検討した結果、追加の保菌検査対象者はなかった。

背景:
 薬剤耐性菌の拡大は、治療の選択肢を限定し、治療費の増加等を招くことから、世界的に重要な課題である。我が国においては2016年にAMRアクションプランが策定され様々な取り組みが行われている。地方衛生研究所では2017年3月厚生労働省より発出された通知、健感発0328第4号「カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症等に係る試験検査の実施について」により「カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症の届出があった際には、地方衛生研究所等での試験検査の実施及び地域内の医療機関等への情報提供を行う」こととなっている。また、その他の五類全数把握の薬剤耐性感染症の検査についても努力義務とされている。
従って、地方衛生研究所では薬剤耐性菌による感染症の原因菌株を収集し、詳細な解析を行い、感染事例間の関連性等を分析、情報提供を行うことにより地域における拡大防止につなげることが重要である。

地研の対応:
 本菌株について山口県環境保健センターで検査を行った結果、カルバペネマーゼ産生性が確認され、メルカプト酢酸Naによる阻害が認められたことから、メタロβ-ラクタマーゼ産生性が示唆された。また、PCR法によりNDM型メタロβ-ラクタマーゼ遺伝子及びClass A β-ラクタマーゼCTX-M-9 group遺伝子が検出された。さらにNDM遺伝子について塩基配列を決定した結果、カルバペネマーゼ(NDM-9)産生のE.coliであることが判明した。NDM-9産生の腸内細菌は公衆衛生上重要である2)、3)、4)ことから、医療機関、保健所に対して、慎重な対応をとる必要があることを提言した。
 保健所により3回開催されたWebカンファレンスに所長が出席し情報提供、助言を行った。
 Webカンファレンスの結果、報告症例の同室者について保菌のスクリーニングを実施することとなり、環境保健センターは1例目と同室で退院済みの患者8名について保菌検査を実施した。また、患者a由来株及び保菌者b由来株についてゲノム解析を実施し、NDM-9、Class A β-ラクタマーゼCTX-M-65、Inc遺伝子等について同一性が確認された。

行政の対応:
Z保健所は、医療機関Aから情報を収集・整理し、県庁及び環境保健センターと共有した。Webカンファレンスを3回開催し、今後の対応方針を決定した。

原因究明:
今回の発生は一応の終息を見たと考えられるが菌の由来は不明である。感染症の報告がなくても、関連医療機関等に保菌者が潜在している可能性は否定できず今後の注意が必要である。宮城県保健環境センター山口らの報告5)では、下水からNDM-9産生菌を含むNDM型CPEが多く検出されており、今後海外渡航歴のないNDM型CPE感染症が増加することが懸念される。

診断:
 患者は70代男性2024年10月に入院、消化器系の手術が施行され、術後の皮膚創部由来の膿を培養、28日CREが検出された。

地研間の連携:
 なし

国及び国研等との連携:
国立感染症研究所薬剤耐性菌研究センター及び山口県から派遣しているFETP研修生(医師、保健師)より、Webカンファレンスにおいて助言を得た。
 

事例の教訓・反省:
 今回の事例については、医療機関と行政とのWebカンファレンスを早期に開催し適切な連携につなげることができたが、その他のIMP型CRE、VRE等についてどの程度このような連携を行うか、予め決めておくことが望ましい。また、他の保健所との情報共有も必要と考えられる。

現在の状況:
薬剤耐性菌の検査においては、耐性遺伝子等のみならず、菌株の関連を確認するための分子疫学が最も重要であるが、これまで行われてきたPFGE(Pulse Field Gel Electrophoresis)法の機器のサポートが終了しNGSを用いたゲノム解析に移行する必要があるが、地方衛生研究所が行うべき解析技術が必ずしも確立されていない。

今後の課題:
 薬剤耐性菌のゲノム解析の方法論の確立、地方衛生研究所への普及、予算の確保が重要な課題である。

問題点:
 なし

関連資料:
1.カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)感染症, 2024年現在、IASR Vol. 46 p23-24: 2025年2月号
2.NDM-9 resistance to taniborbactam.,Le Terrier C, et al., .Lancet Infect Dis. 2023 Apr;23(4):401-402. doi: 10.1016/S1473-3099(23)00069-5.
3.Extremely drug-resistant NDM-9-producing ST147 Klebsiella pneumoniae causing infections in Italy, May 2020. Falcone M, et al., Euro Surveill. 2020 Dec;25(48):2001779. doi: 10.2807/1560-7917.ES.2020.25.48.2001779.
4.Wide dissemination of Gram-negative bacteria producing the taniborbactam-resistant NDM-9 variant: a One Health concern., Le Terrier C, et al., . J Antimicrob Chemother. 2023 Sep 5;78(9):2382-2384. doi: 10.1093/jac/dkad210.
5.下水等に流入する腸内細菌科細菌の薬剤耐性化に関する研究、宮城県保健環境センター年報 第41 号 2023
 

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