[ 詳細報告 ]
分野名:ウイルス性食中毒
衛研名:札幌市衛生研究所
報告者:保健科学課微生物係 菊地 正幸
事例終息:事例終息
事例発生日:2024年12月29日
事例終息日:2025年1月17日
発生地域:札幌市
発生規模:
患者被害報告数:73名
死亡者数:0名
原因物質:ノロウイルス
キーワード:ノロウイルス、食中毒、飲用水、受水槽
概要:
2025年1月4日、市内医療機関の医師より「2024年12月29 日に札幌市中央区内の雑居ビルの飲食店を利用後に体調不良を呈した患者がいる。」との報告があった。また、当該ビルの他の飲食店の利用者に関しても同様の報告があり、札幌市保健所で調査を開始した。ビルの他の飲食店の利用者及び従業員に関しても同様の申出があり、体調不良者への聞き取り調査の結果、有症者の共通食が当該ビルから供給される水だけであったことから、給水施設の状況調査及び管理会社やテナントへの聞き取り調査を行ったところ、2024年12月29日に当該ビルの給水栓水及び地下埋設式受水槽内の水が白濁し悪臭を発生していたこと、同日中に受水槽内の水の入れ替えを行っていたことが判明した。さらに、受水槽の周囲に配置された汚水槽及び雑排水槽の排水ポンプに異常が認められ、受水槽がある地下室内には過去に汚水槽もしくは雑排水槽のいずれかからの汚水が溢れたような痕跡があり、受水槽上部には老朽化に伴う亀裂が確認された。また、有症者便、テナント従事者(無症状者含む)便及び雑排水槽内の水からノロウイルスGII.17が検出された。これらの状況などを総合的に勘案した結果、当該ビルが供給する飲料水を原因とするノロウイルスによる食中毒と断定した。
背景:
ノロウイルスは吐き気、嘔吐、下痢、腹痛等の症状を伴う感染性胃腸炎の原因病原体の一つとして知られており、主要な食中毒原因病原体の一つとしても知られている。ノロウイルスの主な感染経路は経口感染であり、二枚貝や調理従事者の手を介して汚染された食品による食中毒、病院内や施設内での感染者の吐物、排泄物等を介し人体に感染する。その他の感染経路としては飲料水が知られており、井戸水や地下埋設式の受水槽が汚染され、飲料水を起因としたノロウイルスによる食中毒事故が発生している。
地研の対応:
食中毒調査として患者便(2店舗5グループ12検体)及び調理従事者便(5店舗17検体)、原因究明調査として2槽の雑排水槽内の水(2検体)及び給水栓からの水(1検体)についてノロウイルスの検査を実施した。水については、500mLをポリエチレングリコール沈殿法により1mLに濃縮して検査を実施した。検査の結果、患者便12検体すべて、調理従事者便17検体中9検体及び雑排水槽の水2検体において、ノロウイルスGⅡ.17が検出された。
行政の対応(対策委員会等も含む。):
食中毒の原因がビルで供給された飲料水であるため、食品を提供した営業者には食品衛生法に基づく営業停止処分は行わず、ビル所有者に対して水道法第36条第3項の規定に基づいて簡易専用水道改善指示を発出し、抜本的な改善の実施や水質管理の徹底等を指導した。
原因究明:
当該ビルの給水設備は市水をコンクリート式の地下埋設式受水槽(30m3)に貯め、給水ポンプで上階へ給水する構造であり、受水槽の周囲にはコンクリート壁を挟んで汚水槽及び雑排水槽が配置されていた。現地調査の結果、汚水槽、雑排水槽の排水ポンプに異常が認められ、受水槽がある地下室内には過去に汚水槽もしくは雑排水槽のいずれかからの汚水が溢れたような痕跡があり、受水槽上部には老朽化に伴う亀裂が確認された。また、本件発覚時にはすでに受水槽内の水が入れ替えられたため、給水栓水からノロウイルスは検出されなかったが、隣接する雑排水槽内の水から患者と同型のノロウイルス GⅡ.17が検出された。これらの状況から、汚水槽もしくは雑排水槽のいずれかからノロウイルスを含む汚水が上部に溢れ、受水槽上部から汚水が混入し、飲料水が汚染されたと推測した。
診断:
該当事項なし
地研間の連携:
該当事項なし
国及び国研等との連携:
該当事項なし
事例の教訓・反省:
今回の飲料水汚染事故を受け、地下埋設式受水槽の汚染リスクが改めて認識された。いまだ多くの老朽化した地下埋設式受水槽が現存している状況ではあるが、施設の更新には多額の費用を要するため、抜本的な対策をすることは困難である場合が多い。そのため、日ごろからの管理を徹底することで早期に水の異常を察知し、迅速な対応を行うことが被害拡大防止のために極めて重要である。また、感染性胃腸炎などの集団発生時には、施設の給水設備が原因である可能性も考慮に入れ、幅広く調査を行うことが望ましいと考えられる。
現在の状況:
薬剤耐性菌の検査においては、耐性遺伝子等のみならず、菌株の関連を確認するための分子疫学が最も重要であるが、これまで行われてきたPFGE(Pulse Field Gel Electrophoresis)法の機器のサポートが終了しNGSを用いたゲノム解析に移行する必要があるが、地方衛生研究所が行うべき解析技術が必ずしも確立されていない。
今後の課題:
事故後の対応として、飲料水の日常検査の強化のほか、排水ポンプの修繕、受水槽の亀裂の補修及び防水施工、マンホール周囲に塀を設置し万が一汚水が漏水しても受水槽へ混入しないよう改善した
問題点:
該当事項なし
関連資料:
該当事項なし
