O111血清群の腸管出血性大腸菌(以下、 EHEC)は、O157、O26に次いで多く検出され、非運動性株もしくは鞭毛抗原(H)型別不能株と判定されることが非常に多いEHECである。2011年に富山県を中心に焼肉チェーン店で発生した集団食中毒(死者5名)では、EHEC O111:H8(VT2)が主たる原因菌として報告されている(磯部順子、他:病原微生物検出情報33:119-120、2012)。
愛知県内で分離され一宮保健所で収集した11株のEHEC O111(分離年:96年 1株、04年 1株、06年 1株、08年 4株、12年 3株、不明1株)のH血清型を運動性増強能の高いPAT培地(青木日出美、他:日本臨床微生物学雑誌 22:272-278、2012)を用いて抗原を調製し、国産のH型別用免疫血清キットおよび同キットには含まれていない外国メーカーのH8抗血清によりH血清型別を行った結果、PAT培地により運動性が増強された10株(VT1 9株、VT2 1株)がH8に型別された。
EHEC O111:H8による事例は、国内ではほとんど報告がなかったが、2013年8月~9月に仙台市の保育所で発生した集団事例においても被検者154名中20名からO111:H8(VT1&VT2)が検出されている(国立感染症研究所:病原微生物検出情報35:117-120、2014)。今回、供試株数は多くないが検出年次の異なるEHEC O111保存株が約90%と高率にH8に血清型別されたことから、EHEC O111感染例におけるO111:H8の割合は低くないと推測する。