【管内情報】 【保健所健康危機管理事例H25】精神科医療機関における結核集団感染事例(多摩小平保健所)

[作成者]

東京都多摩小平保健所 保健対策課長 鈴木祐子

[発生年月日]

平成22年(2010年)5月29日から現在

[概要]

管内の精神科病院において、約3年の間に、入院患者内に結核患者の集積を認め、東京都より「結核集団感染の発生について」として報道発表されました。その後の経過を、若干の考察と併せて掲載します。

まず、報道発表内容について、下記のページをご覧ください。

東京都『報道発表資料』
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2013/05/20n5l500.htm

[その後の経過]

二次感染発病者の接触者健診も含め、結果的に延548名(入院患者262名、職員等286名)にIGRA検査、胸部レントゲン検査を行い、発病者22名(全て入院患者)、LTBI58名(入院患者50名、職員等8名)の集団感染となった(ただし、発病者のうち13名は、LTBIとして感染症の診査に関する協議会に諮問したところ、画像上の所見により、4剤治療を推奨された)。

平成26年6月末時点での1年後の経過観察が終了したが、新たな発病者は確認されていない。今後も慎重な経過観察が必要である。

[考察]

報道発表資料にあるとおり、初発患者に限らず、今回の事例の各患者は自発的な訴えがほとんどなく、発見が遅れた。患者の特性に応じたきめ細かい健康観察が必要であると思われた。

また、同院は入院患者に対し、半年に1回胸部レントゲン検査を行っていたが、発病者の多くが健診と健診の間で発症していた。定期健診を行っていても、早期発見が困難なケースが重なり患者が集積したと思われた。さらに、定期健診の実施月が患者によって異なっていたため、「今、院内にその他の発病者がいないか?」という病院の全体像を確認することができなかった。現在は、ほぼ全ての入院患者が接触者健診の対象者となっており、同時期に健診が実施されている。さらに、読影の精度管理、有所見時の対応方針については、内科・呼吸器科医での比較二重読影体制が徹底され、所見がある場合、3連痰がすぐに行われる体制となった。

接触者健診については、同病棟以外の患者からも遺伝子検査が一致した患者が発生したため、全病棟の入院患者・職員を接触者と考え、IGRA検査の対象とした。関連のない既感染者を多数検出することが懸念されたが、LTBI治療を徹底して行うことが必要であるという専門家の助言があり、病院の協力を得て実施に至った。結果として、特に入院患者には多数のLTBI治療をすることになったが、院内DOTS によりLTBI治療の完遂することができ、現在に至るものと考えられる。

各患者の発生時は、病院も保健所も、各患者に対し必要な対応は行っていた。しかし、各患者の関連や再発予防策の検討等の病院全体の総括は不十分であり、結果的に結核患者が集積していったと考えられる。本事例の経験により、病院側も結核対策に対する意識が向上し、院内感染対策委員会の活性化など、組織横断的に関与し、総括する体制を構築できた。

本事例のような集団発生の予防のためには、保健所が、精神科病院の特性に配慮し、各病院の感染症対策の実情を見極めつつ、平常時から院内結核対策の強化を支援することが必要と思われた。当保健所でも、本事例を踏まえ、管内精神科病院を対象とした早期発見・治療をテーマとした講演会の開催等の具体的対策を実施している。

公開日:2014年08月22日

カテゴリー: 結核