No.48 広島県におけるエコーウイルス9型及び30型による無菌性髄膜炎の流行

[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:広島県保健環境センター
発生地域:広島市内
事例発生日:1997年
事例終息日:
発生規模:検査対象患者数385名
患者被害報告数:
死亡者数:0名
原因物質:エコーウイルス9型、エコーウイルス30型
キーワード:ウイルス、エコーウイルス9型、エコーウイルス30型、無菌性髄膜炎、地域流行

背景:
無菌性髄膜炎は、頭痛、発熱、髄膜刺激症状を主徴とする中枢神経系のウイルス感染症で、小児に夏季を中心に流行が認められる。一般に予後は良好であるが、まれに不全麻痺や脳炎などの重篤な症状を併発する場合がある。そのため流行したウイルスを詳細に把握しておくことは疫学上重要である。
広島県では広島県結核・感染症サーベイランス事業に基づいて、各種疾病からの病原体検出を実施しているが、無菌性髄膜炎についても対象疾病の一つとして、患者発生状況の把握とともに、定点病院を通じて患者からのウイルス分離を行っている。無菌性髄膜炎患者からの過去のウイルス分離成績をみると、エンテロウイルスが最も多く分離されている。
広島県においては、過去に1989年から1991年にかけてエコーウイルス30型による、また1992年にはエコーウイルス9型による無菌性髄膜炎の大きな流行を認めている。

概要:
広島県内においては、1997年6月から無菌性髄膜炎患者が増加し始め、1997年4月から12月までの間、合計385名の無菌性髄膜炎患者を対象としたウイルス検査の結果、284名からウイルスが分離された。分離ウイルスはコクサッキーウイルスB2型、B3型、B5型、A9型、エコーウイルス9型、25型、30型、エンテロウイルス71型およびムンプスウイルスと多岐にわたるが、最も多く分離されたのはエコーウイルス30型が194名から、次いでエコーウイルス9型が63名からで、それらのウイルスを原因とする無菌性髄膜炎の流行があったことが示唆された。
エコーウイルス9型については、6月からウイルスが分離されるようになり、7月および8月の間に広島県北部地域(三次市、庄原市)の患者から集中して分離されたが、10月以降まったく分離されなくなった。一方、エコーウイルス30型は、やはり6月から分離されるようになったが、10月の63名からの分離をピークに、8月から12月までの間、広島県東部地域(福山市、府中市)の患者から集中して分離されるなど、エコーウイルス9型とエコーウイルス30型とでは、分離された地域および時期に違いが認められた。

原因究明:
無菌性髄膜炎患者からのウイルス分離を実施した結果、広島県において1997年に流行した、主な無菌性髄膜炎起因ウイルスは、エコーウイルス9型とエコーウイルス30型であることが明らかとなった。さらに、それらのウイルスの流行は時期的にも地域的にも異なっていたことも判明した。

診断:

地研の対応:
前述のとおり、広島県では広島県結核・感染症サーベイランス事業に基づいて、検査対象疾病の一つとして、無菌性髄膜炎患者からウイルス分離を実施し、起因ウイルスの動向の把握に努めている。1997年の無菌性髄膜炎の流行に際しても、検査定点病院における患者からのウイルス分離を実施した。

行政の対応:
広島県健康対策課は、広島県感染症予防研究調査会感染症解析評価部会を通して、医師会、保健所等関係機関へ情報を提供した。特に県北部の保健所では、医療機関が少ないこともあって、病院、診療所と積極的に連絡をとり、患者の医療体制の充実を図った。

地研間の連携:
中国、四国各県の衛生研究所においては、2カ月に1回、エンテロウイルスに関して分離状況の情報交換を実施している。

国及び国研等との連携:
感染症検査情報オンラインシステムを通じて、国立感染症研究所ならびに各地方衛生研究所の検査情報について、情報交換を実施している。

事例の教訓・反省:
特になし

現在の状況:
特になし

今後の課題:
広島県結核・感染症サーベイランス事業では、各種疾病からの病原体検出とともに、定点病院からの患者発生状況の把握に努めている。しかし、患者発生状況については、各定点病院により報告の内容にばらつきがあり、必ずしも地域における患者発生の動向を正しく反映していない場合もあるようである。感染症の流行状況を把握するためには、より積極的な患者発生状況の把握と共に、それらの患者からの起因病原体の把握を併せた形での解析が望まれる。

問題点:

関連資料:
広島県におけるエコーウイルス30型による無菌性髄膜炎の流行(1989-1991)、高尾信一ほか、広島県衛生研究所研究報告第39号:37-42(1992)

1992年の広島県における無菌性髄膜炎の流行、高尾信一ほか、広島県保健環境センター研究報告第1号:57-60(1993)