[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:沖縄県衛生環境研究所
発生地域:沖縄県全域
事例発生日:1985年
事例終息日:
発生規模:
患者被害報告数:推定患者数:9,900名以上
死亡者数:0名
原因物質:コクサッキーウイルスA24変異株(CA24v)
キーワード:コクサッキーウイルスA24変異株、CA24v、急性出血性結膜炎、AHC、EKC、血清疫学、HeLa細胞、中和抗体
背景:
急性出血性結膜炎(以下AHCと略す)は1960年代の終わりに西アフリカと東南アジアに突如出現し流行した新型の結膜炎で、その病原ウイルスはそれぞれエンテロウイルス70(以下EV70と略す)とコクサッキーウイルスA24変異株(以下CA24vと略す)であることが明らかにされている。西アフリカに発生したEV70によるAHCはたちまちにして世界各地に流行したのに対し、CA24vによるAHCは東南アジア地域に限局して流行した。
本邦においても1971年の流行以来各地でAHCの流行はあるものの、その病原ウイルスはEV70によるもののみであった。
1985年7月から11月にかけて沖縄県において未だかってない大規模のAHCCの流行がみられ、その流行の最中の10月に宮古保健所管内のAHC患者の眼ぬぐい液検体からCA24v型ウイルスが本邦において初めて分離同定された。
概要:
沖縄県におけるAHCの患者は、1984年末より1985年6月にかけては散発的な発生であったが、1985年7月の中旬より沖縄本島南部地域でやや流行の兆しがみられた。夏休み明けの9月より県下各地に爆発的な流行が起こった。眼科医院の前には早朝から患者が列をなし、学校においては学級あるいは学校閉鎖等の処置がとられた。
沖縄県感染症サーベイランス情報によると、1985年発生患者の総数は9,900人を超え、沖縄県の人口の0.8%以上に達し、眼科定点当たりの最高患者数は484人にのぼる大流行であった。
アンケート調査の結果から、主な推定感染場所は学校で、次いで家庭の順であった。初発症状は両眼同時の発症するものが多く、次いで片眼から両眼へ、片眼のみの発症も10%前後あり、その眼症状としては、結膜の充血、出血、眼痛、異物感等であった。
小中高校施設における流行の推移を調査すると、初発患者の発生からピークに達するまでの日数は平均21日前後で、終焉に至る日数は40~50日であった。
年齢階級別の罹患状況は学童年齢層(5~19歳)が比較的に高率で約18%前後で、成人年齢層では6~8%程度であった。
さらに血清疫学調査の結果から8.5%前後の侵淫率で終息したことが判明した。
原因究明:
1985年に沖縄県において大流行したAHC患者の眼ぬぐい液からEH24v型ウイルスが国立予防衛生研究所(現国立感染症研究所、以下感染研と略す)で分離された。また、血清疫学調査の結果からも本流行はCA24v型ウイルスによるAHCであることが感染研によって確認された。一方、一部地域においてはEV70に対しても若干抗体の上昇がみられ、CA24との混合感染も示唆された。
また、日本国内の他地域からのAHCの報告はなく、さらに沖縄県以外の他地域住民の血清疫学調査では、本ウイルスに対する抗体は全く検出されなかった。
従って、CA24v型ウイルスの日本国内への侵入は沖縄県において始めてで、しかも沖縄県のみに限局して流行したものであることが確認された。
診断:
地研の対応:
県下各地にて健康診断のため採取され、沖縄県衛生環境研究所内に保管されている保存血清を用いて血清疫学調査を実施した。
他方、沖縄本島中南部及び宮古地区の6校の小中学校を通じ、それぞれの校区における世帯内感染調査をアンケート法(父母記載)により調査した。設問項目は23問で、3,035世帯に配布回収し、パーソナルコンピュータにて解析した。
行政の対応:
感染症サーベイランスの情報を整理し、感染予防のための広報活動を実施した。
地研間の連携:
実務的な連携はなかったが、各地研から提供された血清が活用された。
国及び国研等との連携:
沖縄県から提供した検体から感染研がCA24v型ウイルスを分離した。また各地研から集められた血清銀行の血清を用い、感染研が全国各地の血清疫学調査を行った。
事例の教訓・反省:
本件の流行が爆発的に広がったのは、小中学校の夏休み以後、運動会のシーズン中であった。流行の兆しをいち早く察知し、学校における流行の拡大を阻止する対策が望まれる。
現在の状況:
感染症サーベイランス情報によると沖縄県では、毎年流行性角結膜炎(EKC)の流行が全国平均より高いが、AHCの患者報告はあまり多くない。
1994年の9月頃から12月にかけてかなり流行して、多くの患者数が報告されたが、1985年のような爆発的な流行ではなかった。原因ウイルスは分離できなかったが、EV70と推定された。
今後の課題:
毎年、EKC及びAHCは、大なり小なり各地で流行し患者が発生している。しかし、AHCの原因であるEV70は、日本では1984年以降ウイルス分離はされておらず、沖縄県では1994年に流行したときもウイルスは分離できず、RT-PCRによりEV70の核酸が確認されただけであった。このように、ウイルスの変異により現株化細胞で分離困難なウイルスに対して、今後はPCRR法やハイブリダイゼーション等を用いてウイルスの検出同定の技術を確立していかなければならないであろう。また、同時に分離困難なウイルスに対して感受性の高い株化細胞の開発も早急に望まれる。
問題点:
関連資料:
1) K. MIYAMURAetal; The first epidemic of acute hemorrhagi cconjunctivitis due to acoxackie virus A24 variant in Okinawa, Japan, in 1985-1986.
2) 福村圭介、他;コクサッキーA24変異株による急性出血性結膜炎の疫学、沖縄県公害衛生研究所報、第20号、39ー43(1986)
3) 宮村紀久子;EH24株の分離と血清疫学、衛生微生物技術協議会第7回研究会口演要
旨集、76(1986)
4) 原微生物検出情報、7(4)、2(1986)
5) 荻野利夫、他;急性出血性結膜炎ウイルス(コクサッキーA24変異株)の血清疫学、医学のあゆみ、139(10)、833(1986)