[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:愛媛県立衛生環境研究所
発生地域:愛媛県他1府7県
事例発生日:2000年10月
事例終息日:
発生規模:
患者被害報告数:61名
死亡者数:0名
原因物質:赤痢菌(ソンネ菌)
キーワード:赤痢、赤痢菌、食中毒、すし店、集団発生、Shigella sonnei
背景:
人や物の流れが大量かつ瞬く間に行われるようになった現代、腸管出血性大腸菌、サルモネラ、赤痢菌等による腸管感染症の大規模化、あるいは散在的集団発生(diffuse outbreak)が見られるようになった。また、従来、法定伝染病とされていたコレラや赤痢の集団発生事例では、飲食物が感染源となった事例も認められている。このような現況において食品衛生法施行規則が一部改正され、食品を原因とした赤痢は食中毒として扱われる
ようになった。本事例は、赤痢菌に感染した調理者の握った寿司が原因とされ、全国で初めての赤痢菌による食中毒として対応がなされた。
概要:
愛媛県越智郡内の専門学校の生徒7名が平成12年10月16日夜半から17日未明にかけて発熱、下痢、腹痛、全身倦怠感を訴え、10月17日、今治市内の医院を受診(3名が入院)した。診察した医師から、患者全員が市内の寿司店で寿司を食べていたことより食中毒の疑いが高いと判断し、15時40分に保健所に通報があった。保健所は食中毒と推察し、発症した学生4名(入院患者を除く)と寿司店従業員2名の喫食状況等の調査や検便を行うとともに寿司店の調査を実施した。10月18日、保健所は食中毒(疑い)が発生したことを公表し、10月19日に学生、従業員の計6名から赤痢菌(ソンネ菌)が分離されたので、同店を起因とした集団食中毒と断定し、同店を営業禁止とした。
患者の発症状況等から暴露日は14日から19日(16日休業)の5日間と推測したが、報道機関を通じた一般住民への情報提供を行うとともに保健所に相談窓口を開設し、10月1日以降の同店での喫食者の把握と検便及び二次感染防止対策を講じた。その結果、13日までの喫食者からは食中毒患者は認められず、14日から19日の5日間に寿司店で寿司を食べた人数は205名、患者数は103名であった。そのうち50名は県外(1府7県)の患者であった。一方、感染症法に基づく赤痢患者等の届け出は10月19日から10月28日までに61名あり、その内訳は県内43名、県外18名(愛知県1、大阪府1、兵庫県3、島根県4、岡山県2、広島県5、高知県1、大分県1)であった。この61名の内訳は、赤痢患者37名(うち1名は二次感染者)、疑似症患者17名(うち5名は二次感染者。4名については診断後に菌検出。)、無症状病原体保菌者7名であった。
原因究明:
今回の赤痢菌(ソンネ菌)による集団食中毒事例は、患者等の発生状況、喫食調査、細菌学的検査の結果から、赤痢菌に感染した寿司店従業員の握った寿司を喫食することにより発生拡大したことが判明したが、従業員への感染経路については特定することができなかった。
診断:
地研の対応:
衛生環境研究所において、愛媛県、島根県、岡山県、広島県、広島市、高知県で分離された菌株を収集し(各地研に分与を依頼)、12種類の抗菌剤(ABPC、TC、CP、SM、KM、GM、CTX、CPFX、FOM、TMP、ST、NA)に対する耐性パターンを観察したところ、調理者由来株も含め、いずれの菌株とも同じパターン(SM、TC、TMP、ST、4剤耐性)を示し、制限酵素Xba I、Bln Iを用いたPFGE型別においても同一パターンであった。また、コリシン型は13Aであった。
行政の対応:
・相談窓口の開設と予防対策会議の開催
今治中央保健所は、赤痢として届られた10月19日以降相談窓口を開設した。20日には「赤痢感染予防対策会議」を開催し、市町村、医師会、教育事務所、教育委員会等関係者に対し二次感染予防の協力を要請した。また、中四国および全国にも情報を提供した。相談窓口は、10月19日から31日までは8時30分~20時(土・日曜日を含む)、11月1日から17日までは平日(8時30分~17時15分)に開設し、相談、検便を受付け、患者や感染者の早期発見、感染防止に努めた。11月15日に営業禁止処分の解除を行い、17日には窓口を閉鎖終息に至った。
・就業制限
届けられた管内の患者28名全員に就業制限を勧告した。特に飲食物に直接接触する業務を行う者については病原体を保有しなくなるまでの間、休むよう指導した。
・消毒その他の措置
自宅等の消毒は訪問調査の際、消毒液を配布し、患者が手を触れた場所等の消毒するよう指導した。また学校及び調理施設には、その管理者に対して徹底した消毒を指示した。手洗いの励行など二次感染予防も指導した。特に寿司店については、家族の住居を含め徹底した消毒と拭き取り検査を行った。
・治療
管内の患者28名の内、入院者は17名、残り11名は外来治療であった。応急入院の勧告は診断時症状のあった15名におこない全員が入院した。治療は、今治市医師会市民病院を中心に11医療機関が主にホスミシン又はクラビットの経口投与を行い、11月5日までにすべての患者の治療は終了した。抗菌剤投与終了後の陰性確認検査は11月17日までにすべて陰性を確認できた。
・健康診断の実施
聞き取り調査で把握した患者の家族等接触者について、健康状態の確認及び検便を保健所で実施した。11家族36名及び専門学校の生徒、職員85人を対象に延べ約500検体の検便を実施した。これら検査の結果、接触者から1名の二次感染者を発見した。この患者は幼児で、父親が寿司を喫食後発症(菌陽性)し、風呂で感染したと思われる。専門学校の生徒から10月19日に患者7名、疑似症患者1名が発生したことから二次感染防止のため学校の指導を開始した。そして学校内の消毒、衛生管理を指示するとともに、生徒・職員に対し二次感染の予防について徹底した指導及び検便を実施した。また、24日以降生徒7名が疑似症患者として届けられたことや生徒の大部分が学校の敷地内にある寮で生活し、トイレ・風呂が共同使用であったこと、生徒がこの時期に帰省することで感染を拡大させる恐れがあることなどから、二次感染を防止する目的で生徒、教師の計98名に対し、予防的な投薬をすべきとの方針が今治中央保健所赤痢対策本部会議(医師会長、担当医、感染症診査協議会委員、保健所職員)で決定され、医療機関の協力を得てこれを実施した。
地研間の連携:
国及び国研等との連携:
事例の教訓・反省:
瀬戸内海に掛かる本四架橋の開通以来、本州と四国の間には人の移動、物の流れが瞬時に行われるようになった。今回の集団赤痢では愛媛県を含め1府8県に61の患者が発生した。しかし、原因の特定が迅速にされた事で保健所から市町村、医師会、教育委員会、マスコミ等への積極的な情報提供、対応が実施できたことにより、早期の患者発見と治療に結びつき、二次感染は最小限に抑えることができた。また、早期に県外での患者発生が確認されたことは、全国へ向けての情報提供が効果的であったことを意味している。
一方、従来からソンネ菌による赤痢の疫学調査では、疫学マーカーとしてコリシン型や薬剤耐性パターンが用いられている。しかし、コリシン型はプラスミッド支配のため疫学マーカーとして信頼性が少なく、薬剤耐性パターンは偏りがあるため、疫学調査には限界があるといわれている。今回、これら従来からの疫学マーカーを調べる方法に加えて、より詳細な疫学解析を目的に、PFGEによるDNA解析を行った。その結果、今回の集団赤痢に関連したとされる患者から分離された菌株は、県内在住者由来株、県外在住者由来株ともほぼ同一のパターンであった。このことからPFGEによるDNA解析は赤痢の疫学調査にも有用であることが確認され、広域的な集団発生事例ではPFGEを用いた疫学調査システムの構築が必要と思われた。
現在の状況:
今後の課題:
問題点:
関連資料: