[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:山口県環境保健研究センター
発生地域:全国
事例発生日:2001年11月下旬
事例終息日:2001年12月中旬
発生規模:
患者被害報告数:159名
死亡者数:
原因物質:ソンネ型赤痢菌
キーワード:赤痢、Shigella sonnei、カキ、diffuse outbreak、疫学調査、輸入食品、食中毒
背景:
輸入されたカキがソンネ型赤痢菌に汚染されており、これが原因となり全国的にdiffuse outbreak(散発的集団発生)型の流行が発生した。本事例においては、国及び地方の行政機関、研究機関の連携により、菌学的調査、発生疫学的調査が効果的に遂行され、感染原因の特定と再発防止がはかられた事例である。
概要:
2001年11月下旬から12月中旬にかけて西日本を中心として全国的に赤痢患者(ソンネ型赤痢菌)の発生が報告されるようになった。この中で12月7日、三重県内で発生した散発事例の疫学調査の結果からカキが原因食品とされた。今回の事例においてすべての赤痢患者がカキを喫食したものではないが、特定されたカキの一部は山口県内の2施設で加工されたものであり、その原料は韓国から輸入されたものであることが判明した。また、他府県においてもカキが原因と推定される事例が報告された。これらの調査の結果から、国、地方の行政機関及び研究機関の協力により、加工施設における加工、衛生管理状況の調査及び衛生管理の改善、流通実態の把握、患者からの分離菌株の特徴の解析(主としてPFGE解析)が実施された。又、流通調査の中で同時期に韓国からの輸入されたカキが指定検査機関に凍結保管されていることが明らかとなり、国立医薬品食品衛生研究所の検査の結果、一部の検査試料からソンネ型赤痢菌が分離された。さらに、このカキからの分離菌株と患者からの分離菌株の遺伝子型(PFGE型)が一致したことから、韓国から輸入されたカキが今回のdiffuse outbreak事件の原因と確定され、厚生労働省は2001年12月28日以降、韓国からの生食用カキの輸入を認めないこととした。
原因究明:
1. 国立感染症研究所において患者便から分離された菌株の遺伝子解析(PFGE解析)の結果、患者159名からの分離株の内106株の遺伝子型が一致し、このうちでカキの喫食者84名のうち55名の遺伝子型が一致した。
2. 国立医薬品食品衛生研究所の検査において、患者発生が最も多かった時期に韓国から輸入されたカキからソンネ型赤痢菌が分離され、当該菌株の遺伝子型が患者由来株と一致したことから韓国から輸入されたカキが原因と判断された。
診断:
地研の対応:
関係地研から、患者の発生状況や分離菌株の菌型と特徴に関しての情報の提供を受けるとともに所管の保健所と協同で原因施設となった2カ所の加工施設の施設設備、原料用のカキ、施設の従事者等について菌学的検査を実施した。
行政の対応:
原因となった2加工施設について、再発の防止が図られるまでの間食品衛生法に基づき営業の禁止措置をとり、施設の衛生的管理状況に関する調査、流通販売に関する調査を行うとともに、取り扱い等の衛生管理体制の改善について指導を行い原因究明と再発防止を図った。
また、魚介類販売業等のカキの販売施設の立ち入り調査と指導を行った。
原因が韓国から輸入された生食用生カキであったことから、厚生労働省は、2001年12月28日韓国からの生食用生カキの輸入を認めないこととした。
地研間の連携:
赤痢患者の発生状況、患者からの分離菌株の相互分与、分離菌株の特徴、遺伝子解析(PFGE解析)に関する情報を交換した。
国及び国研等との連携:
患者の発生が全国的であること、原因となったカキが輸入されたものであるという特殊性から国において全国の患者発生状況、疫学的調査等に関する情報の収集と公開が図られるとともに、国立感染症研究所、国立医薬品食品衛生研究所において分離菌株の遺伝子解析、輸入検疫時に保管されていたカキからの分離検査が行われた。また、従来確立されていなかったカキからの赤痢菌の分離方法について、国研、地研等の協力により効果的な分離培養法について検討された。
事例の教訓・反省:
食品が国際的、広域的に流通し、diffuse outbreakの危険性が高まっている。Diffuse outbreakを発見するためには、喫食調査等の精密な疫学解析の体制、食品の加工流通実態の迅速な把握システム、原因菌の特性や遺伝子解析が効果的な連携の基に遂行され、かつ相互の情報が交換、公開されることが原因究明と再発防止に必要である。また、急増している輸入食品に対する安全性確保や検査体制の整備も課題である。
現在の状況:
今後の課題:
1) Diffuse outbreakに対応できる疫学的調査体制、及び関連情報の収集と分析体制の整備、発生動向の把握、菌学的特性(遺伝子解析等)の解析を行うための体制の整備と、これらから得られた情報について国や地方の関係機関間で迅速な情報の交換や公開、及び市民への正確な情報の提供による事故の拡大防止と再発防止を図ること。
2) 病因物質検出法の開発:今回原因となった赤痢菌の食品からの分離培養法、検出法に関しては確立されていなかった。凍結損傷状態や雑菌汚染等の各種の条件からの迅速で効果的な精度の高い分析技術の開発が必要である。
3) 大規模食中毒等発生時においては、個々の試験検査機関での対応は不可能であり他機関からの人的、物的支援体制が必要となる。このような緊急時における危機管理体制を整備しておくことが必要である。
4) 輸入食品の安全性確保:今回の事例は輸入されたカキが赤痢菌に汚染されていたことによるが、このような事例は従来からの想定を越えるものであった。海外での食品の取り扱い方法や、感染症の流行等が直接我が国における健康被害へ及ぼす影響がますます高まっていることから、急増している輸入食品に対する監視体制の整備や輸入先国の公衆衛生学的情報の収集と解析も重要である。
問題点:
関連資料: