[ 詳細報告 ]
分野名:原虫・寄生虫・衛生動物
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:千葉県衛生研究所
発生地域:千葉市郊外(1972年2月新築団地)
事例発生日:1972年4月
事例終息日:1972年8月
発生規模:調査戸数234戸中228戸に害虫類発生(その内2割虫咬症の害あり)
患者被害報告数:
死亡者数:
原因物質:茶柱虫、ダニ類
キーワード:茶柱虫、衛生昆虫、不快昆虫、虫咬症、新築団地、畳のダニ、衛生害虫駆除、昆虫の薬剤処理
背景:
チャタテムシ(茶柱虫)は、茶柱虫目(Psocoptere)に属する微細な昆虫であり、穀茶柱虫科(Liposcelidae)に属する翅の退化したLiposcelis属の数種は、家屋内に生息し、乾燥食品類、書籍、標本等にごく普通にみられている。
この昆虫は形態が微小(体長約1㎜=成虫)であることからよくダニと間違えられ、虫咬症を訴える被害者により、その原因虫ではないかと指摘をうけるが、茶柱虫が人体になんらかの虫咬症状を与えたという報告例は少ない。
したがって、茶柱虫と人との結びつきは、乾燥食品、書籍等を食害して、その価値を減ずることに限られ、茶柱虫固有に相応の駆除対策を構ずべきか否かは、衛生動物学上あまり問題視されていなかった。
著者等が実施している衛生動物同定検査のなかに、茶柱虫に対する不快感からこの虫の駆除方法について問われることがあるが、衛生害虫という概念の不明確さから、かかる問題が提起される事例はしばしば経験するところである。
概要:
原因究明:
調査地の概況
K団地は、千葉市郊外に1972年2月に完成、同年3月入居開始。建物は鉄筋コンクリート造2階建の4戸が並列に並ぶ新しいタイプの団地である。
各戸は一般に、1階6帖の和室に合板床のダイニング・キッチン、浴室があり、2階に6帖、4.5帖の和室、洋間もしくはコンクリート床のテラスをもつ形態をとっている。住民が指摘する不快昆虫の発生場所は2階の和室2間にほぼ限られている。
結果
調査家屋の被害状況、駆除方法等について居住者より聴取した。
・虫咬症被害
住民側が指摘をするような虫咬症は5~6月に集中し、団地のほぼ半数以上が経験したと考えられる。しかしながら、調査時点では発生が散発的であった。5~6月虫咬症被害を訴えた家では、スミチオン(フェニトロチオン)乳剤を畳裏に撒布、さらに高周波処理を業者委託しているが効果はなかったと報告されている。ただその後の発生を抑制していることから、必ずしも効果を否定できないだろう。
・茶柱虫発生と住民の被害感覚
住民の被害感の訴えは、ほとんどが茶柱虫をさしていると思われる。調査8戸中7戸で発生。不快と答えた家庭は7戸中4戸。中には隣人、知人から発生をいわれ気がついた家庭もあり、自治会(住民側調査)の234中、228戸に発生したとの数字は実際の被害、あるいは被害感を反映したものではないと推測される。発生した月は各戸とも7月以降に目立ちはじめ、家の中では2階の6帖、4.5帖の和室で、湿度の高い日の夜間に多発する傾向にあった。
・採取したゴミ中の節足動物相
検出されたダニ数は、食塩水浮上法の効率を考慮に入れても少ない数であった。対照の家では検出ダニ数が最も多く、この家が虫の駆除対策を全く行なわなかったことが推測される。一般に新築団地での虫咬症の原因とされるツメダニ類は虫咬症被害の訴えのないAZ家で多くみられ、虫咬症の症状のあったHK,HM家では少なかった。
HK家の採取ダニの中にはチトゲダニ(Haemolaelaps casalis)の生ダニが8固体採取されており、虫咬症の原因虫として注目すべきかもしれない。
室内のゴミ中に茶柱虫がどのくらいの数が見いだされるか報告はない。今回の調査では畳上の平均が133.5固体であった。
茶柱虫に不快を示さなかったIT.AZ家で茶柱虫が多数見いだされたが不快昆虫への受けとめ方が人により異なることが推測できる。
・発生の要因
虫の発生場所は押入、戸棚、畳上、畳下より虫体を採取したが、畳下のゴミから卵、幼虫、成虫の各期がみられた。茶柱虫の食性は書籍、家具、穀類等に生えるカビを食べるとされるが、畳材料の藁にカビが生え、今回このために大発生したことが容易に予測される。この新築団地の畳下には、通気性を維持するために、木屑とセメントを混合して作った空間の多い「木網板」と呼ばれる材料を使用、この建築材料が茶柱虫繁殖に好適な湿度、場所を与えていると考えられる。
・発生に対する対応
住民側が茶柱虫発生により、自衛策として講じた方法は、1)畳裏にスミチオンを撒布、2)木網板に粉剤(成分不明)を撒布し、3)さらに室内に燻煙剤を反復使用するもので、この方法をとったTN家では畳の上、下ともにダニ、チャタテムシ発生数が少ないのが目立つ。対応策として考えられよう。
診断:
地研の対応:
千葉市郊外に新築されたK団地で、1972年8月に茶柱虫が広範囲に発生した。住民側の調査では調査戸数234戸中、228戸に害虫類が発生。その2割については虫刺され様の被害があった。
本調査は、不快害虫発生の事態を重くみた建設業者が、害虫の種類、発生場所、駆除対策等を明らかにするため当所に依頼してきたものである。
当所では、調査は、住民の指摘する不快昆虫はなにか、虫咬症様の被害は明らかなのか等を見極めることを目的とした。
行政の対応:
地研間の連携:
国及び国研等との連携:
事例の教訓・反省:
現在の状況:
今後の課題:
室内のゴミの検索から、具体的に虫咬症の原因になる虫は限定できなかった。
薬剤処理を反復して行なった家屋のゴミ中、ダニ相は貧弱であり、このことから、スミチオン乳剤撒布、高周波熱処理の駆除方法には一応の成果があったと考えられる。
チャタテムシへの効果については、処理時期(駆除処理)と虫の発生時期に約2ヵ月の差があった。虫体の発生時期を確認することが駆除方法する上での大切な作業であろう。
問題点:
関連資料:
1) 素木得一、昆虫の分類、北隆館、1955
2) 朝比奈正二郎ほか、原色昆虫図鑑、北隆館、1965
3) 鈴木猛、緒方一喜、日本の衛生害虫、新思想社、1958
4) 中尾舜ほか、食品害虫、光琳社、1968
5) 堤千里、衛生動物、13、190~196、1962
6) 堤千里、衛生動物、13、160~161、1962
7) 多田茂子、衛生動物、10、35~40、1956
8) 佐々学、ダニ類、東京大学出版会、1965