[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性食中毒
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:静岡県環境衛生科学研究所
発生地域:静岡県
事例発生日:1998年2月
事例終息日:
発生規模:
患者被害報告数:664名
死亡者数:
原因物質:Norwalk virus (Genogroup II)
キーワード:Norwalk virus、RT-PCR法、仕出し弁当
背景:
1998年2月13日、浜北市の仕出し屋で調理された給食弁当を喫食後に、下痢、嘔吐、腹痛、発熱などの食中毒様症状の発生が確認された。患者はいずれもこの施設の給食弁当の他に共通した喫食食品がなく、喫食者4,500名中644名(発症状率14.7%)の患者発生が認められのでこの施設を原因施設と断定した。
患者の発生期間は、1998年2月13~16日、平均潜伏時間は37時間であった。臨床症状は下痢80%、嘔気70%、嘔吐55%、発熱48%が主で、下痢患者518名の特徴として94%が水様便、平均下痢回数は6回、嘔吐者351名の嘔吐回数は平均3.6回で、発熱者308名中86%が38.5℃以下であった。
原因物質および感染源などを究明するために、患者糞便、施設従業員、原因食品と推定された2月12、13日の給食弁当の残品および食材が所轄保健所で採取され、細菌学的検査を実施したが、既知の病原細菌は検出されなかった。そこでウイルス(NV遺伝子)を対象とした検索を実施したところ、患者糞便および施設従業員従業員の一部糞便からNV遺伝子が検出された。
概要:
原因究明:
検査材料として、患者糞便19検体、施設従業員糞便42検体および原因食品20検体、計81検体を用いてのNV遺伝子の検出を行った。検出には、35/36系、MR3/4系の2種類のプライマ-を用いて1stおよびNestedPCRを行い、目的とするバンドの有無を確認し、SRプライマ-(SR33, 48, 50, 52: Genogroup I、SR33, 46: Genogroup II)による型別試験およびNestedPCRにより検出されたPCR産物の遺伝子解析(国立感染症研究所に依頼)を実施した。その結果、MR3/4系で患者糞便19検体中13検体(68%)、施設従業員糞便42検体中2検体(4.8%)からNested PCRによりNV遺伝子が検出された。検出されたNV遺伝子はSRプライマ-による型別試験で全てGenogroup IIに属し、塩基配列を決定したところ、1995年末に静岡県内の散発患者から検出された株に類似していることが確認された。しかし、原因食品として推定された給食弁当の残品および食材からNV遺伝子は検出されず、ヒト(施設従業員)からヒトへの感染・食品汚染の可能性も少なく、感染源、感染経路を特定することはできなかった。
診断:
地研の対応:
保健所試験検査課において細菌検査を実施した後の検査材料を対象に、当所に搬入された患者糞便、施設従業員糞便および食材からのウイルス検査を行った。
行政の対応:
所轄保健所は、営業者に対して2月18日、営業停止命令の措置を講じ、厚生省「大型調理施設衛生管理マニュアル」の遵守および施設、取扱器具の補修、整備の徹底を指導し、同月24日に営業停止を解除した。
地研間の連携:
国及び国研等との連携:
RT-PCR法によりNV遺伝子が確認されたPCR産物を国立感染症研究所に送付し、NV遺伝子の遺伝子解析を依頼した。
事例の教訓・反省:
NVによる食中毒は、一般的にカキなどの貝類汚染が感染源として重要視されているが貝類に関与しない事例も約半数近く発生し、その発生規模が大規模な場合が多い。感染源、感染経路の原因究明には、迅速な検査材料の採取や現場との情報交換(疫学調査)が重要である。
現在の状況:
現場との情報交換(細菌検査の状況)を積極的に実施するようになった。
今後の課題:
・ ウイルス性食中毒発生時の検査材料の採取についての体制整備
・ 大型食中毒事例における保健所と地方衛生研究所の連携・応援体制の整備
・ 細胞培養法が確立されていない現在、迅速かつ正確な検査が可能となるような最新の設備機器の導入と技術の確保
問題点:
関連資料:
「給食弁当が原因として集団発生した食中毒事例からの小型球形ウイルス(SRSV)遺伝子の検出-静岡県」杉枝正明ほか、病原微生物検出情報19(11)251-252, 1998