[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:大阪府立公衆衛生研究所
発生地域:大阪府門真市、大阪府枚方市、京都市、宇治市、京都府八幡市、滋賀県八日市市、滋賀県甲賀郡土山町、水口町、甲西町、広島市、広島県佐伯郡沖美町
事例発生日:1992年4月28日
事例終息日:1992年5月8日
発生規模:摂食者数:6,235名
患者被害報告数:患者数:3,606名
死亡者数:
原因物質:Salmonella Enteritidis
キーワード:Salmonella Enteritidis、卵製品(目玉焼き、だし巻)、昼食弁当
背景:
厚生省統計情報部の「食中毒統計」によると、近年の細菌性食中毒のうち、サルモネラによる事件数、患者数は増加の傾向を示している。このような国内の状況は世界的なサルモネラ感染症の増加と密接に関連していることが指摘されている。特にわが国では1989年以降、それまでSalmonella Typhimuriumがサルモネラ食中毒原因物質の主流であったものが、次第に減少し、Salmonella Enteritidisがその第1位を占めるに至り、現在も続いている。
米国においては1976年から1986年の間にS. Enteritidisによる感染者はそれまでの6倍ないし10倍にも増加したことがS. Enteritidisワーキンググループによって報告され、この中で食中毒の約半数は鶏卵に関連していたことが指摘された。英国では1988年サルモネラによる食中毒事例の50%はS. Enteritidisによるものされ、ファージ型による解析の結果、鶏卵が汚染源であることが証明された。
わが国においても1989年、複数県にまたがる一連のS. Enteritidisによる食中毒が発生したが、その原因は一養鶏場の卵によると考えられた。また、1990年、洋菓子のテイラミスによる大規模なS. Enteritidisによる食中毒が発生した。この事件でも、卵白からS. Enteritidisが分離された。さらにその後に発生しているサルモネラによる食中毒事件でも多くの場合原因食品として卵ないし卵製品の関与が明らかにされている。
概要:
平成4年(1992年)4月28日大阪府門真市の給食業者が調製した給食弁当を喫食した多数の事業所の従業員のうち、2,643名(喫食者3,250名)が腹痛、下痢、発熱等の食中毒症状を呈した。これに引き続きゴールデンウイークをはさんだ5月8日までに、2府2県2政令市において合計9件の食中毒事件が発生した。患者の喫食調査、検便、食品の検査等疫学的調査の結果、喫食者数6,235名、患者数3,606名で、いずれの事件においても病因物質がS. Enteritidisであり、京都府下の卵加工食品製造会社が製造した卵加工食品が使用されていることが判明した。
原因究明:
原因施設の汚染は、現在世界的にS. Enteritidisによる食中毒が卵のサルモネラ汚染によっていることなどから、原材料の卵に由来する可能性が高いことが容易に推測された。しかしながら、卵加工食品の製造において加熱を充分行うことで卵加工品のサルモネラ汚染を軽減することは可能である。このことから一連の事件の主要な原因は、当該製造施設における製品の衛生上の取り扱いが充分でなかったことと言わざるを得ない。また、製造された卵加工食品は再加熱をせずに消費されるにも関わらず約2日間にわたる流通時に低温保存等の措置がなされていなかったことから、これらの加工食品の流通時の取り扱いについて衛生上の注意を喚起する必要がある。
診断:
地研の対応:
平成4年4月30日午前9時過ぎ、大阪府門真市を中心に、給食弁当を喫食し、腹痛、下痢、発熱等の食中毒症状を呈している患者が多数いる旨の連絡が大阪府門真保健所から当所にあった。当日、事故原因究明のため患者便、検食、食品残品、拭き取り等の検体が当所食品細菌課に搬入され、直ちに検査を開始した。
細菌学的検査の結果、患者便からS. Enteritidisが検出され、また4月25日から29日までの検食の検査の結果、4月28日に調整された給食弁当の卵製品(目玉焼き)から直接当該菌が検出された。
行政の対応:
平成4年4月30日午前9時頃、大阪府門真市の給食業者より、自社が調整した給食弁当を納入している事業所から、多くの社員が腹痛、下痢、発熱等の食中毒症状を呈している旨の連絡が大阪府門真保健所にあった。保健所は事件の規模を把握すべく、4月26日から4月29日までの弁当調整数(約4,000食/日)及び配達箇所(約700箇所/日)等の事情聴取を行い、ただちに検食の確保及び営業の自粛を指示するとともに、配達先別食数リストを作成するよう指示した。
1) 原因食品の推定
一連の事件のうち喫食調査が行われたものから求めた食品ごとのカイ二乗値は、調査が行われた各事件ともに目玉焼き、だし巻きおよび錦糸卵入り炊き込みごはんの卵加工食品が高い数値を示したことから、各事件の原因食品はこれら卵加工食品であることが推定された。
2) 病因物質の検出
大阪府では担当の保健所は患者便、検食、食品残品、拭き取り等検査材料の採取を行い、原因究明のため、当所に検体を搬入した。
3) 卵加工食品製造会社に関する調査
従業員、施設および食品の細菌学的検査において、従業員の手指、便、施設のうち液卵分注機、食品(目玉焼き、だし巻きおよび液卵)からS. Enteritidisが検出された。(京都府における検査)
4) 卵加工製品の流通状況の調査
製品は、消費までに少なくとも1日から2日の流通過程を経ており、また流通時に冷蔵等の処置がなされていなかった。
地研間の連携:
この事件に限らず、食中毒事件が複数府県にまたがる場合は地研の細菌検査担当者間で情報交換を行って検査を進められている。
国及び国研等との連携:
わが国において1989年にはS. Enteritidisよる食中毒が急激な増加を示し、全国地研から国立感染症研究所(以下感染研、当時の国立予防衛生研究所)病原微生物検出情報事務局へ報告された検出数は、1982-1988年の平均検出数の6.5倍に達した。このような実態を国際的視野で解析するために、1990年から感染研ではS. Enteritidisのファージ型別システムが導入された。全国地研等で分離されたS. Enteritidis>はファージ型別のために感染研に送付され、分析されている。従来の疫学的調査では原因が解明されなかったと考えられる事例が、ファージ型別等の結果によって解明された事例もあり、感染研との連携の重要性が益々高まるものと考えられる。
事例の教訓・反省:
1988年に北海道において錦糸卵を原因食品とするサルモネラ食中毒事件(患者数10,467人、原因物質S. Typhimurium)、また1889年以降、前記にある一連の食中毒など卵加工食品を原因とする食中毒事件が多発していたが、これらの教訓は生かされていなかった。
また、この事例は大規模且つ2府2県2政令市にまたがる広域食中毒事件で、原因食品の製造は他府県が所轄する施設であったこと等が、調査を進めるうえにおいて多くの問題を生じた。
現在の状況:
今後の課題:
問題点:
関連資料:
卵によるサルモネラ食中毒の発生防止について(報告書)(平成9年12月5日)
平成9年6月に開催された食品衛生調査会食中毒部会食中毒情報分析分科会において、わが国における最近のサルモネラ等による食中毒に関する分析及び評価が行われた。
「最近の食中毒発生状況をみると、事件数及び患者数ともにサルモネラによる食中毒が著しく多いこと、また、近年サルモネラによる食中毒が増加傾向を示していること、なかでも、S. Enteritidisによる食中毒が増加傾向にあること、原因食品については、平成6年以降、「卵類及びその加工品」が増加していること等が指摘された。このため、サルモネラによる食中毒を予防するための衛生管理について、原因究明、汚染実態調査の結果等を踏まえ、必要な対策を食品衛生調査会でさらに検討する必要があるとの勧告がなされた。
この勧告を踏まえ、食品衛生調査会に「卵によるサルモネラ食中毒の発生防止に関する分科会」が設置され、平成9年に7月から10月に3回の検討が行われた。その検討結果を受け、乳肉水産食品、食中毒合同部会として卵及び卵加工品によるサルモネラ食中毒を防止するための報告がとりまとめられた。
1)サルモネラ食中毒の概要及びS. Enteritidisの汚染状況
(1)卵及び卵加工品が原因と疑われるサルモネラ食中毒の概要
(2)卵のS. Enteritidis汚染状況
2)国際機関、諸外国における卵及び卵加工品の衛生対策の概要
我が国における卵及び卵加工品の衛生対策の基本的な考え方
3)具体的な衛生対策
(1)殻付き卵の衛生対策につて
(2)液卵の衛生対策について
(3)家庭におけるたまごの衛生対策について