No.559 老人ホームにおける腸管出血性大腸菌O157の集団発生について

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:山口県環境保健研究センター
発生地域:山口県
事例発生日:1998年11月14日
事例終息日:
発生規模:
患者被害報告数:18名
死亡者数:3名
原因物質:腸管出血性大腸菌O157:H7 (VT2産生)
キーワード:細菌、集団発生、食中毒、EHEC、O157、ベロ毒素、腸管出血性大腸炎、特別養護施設

背景:
国内の学校等集団給食施設において、腸管出血性大腸菌O157による集団発生事例が多発したことから、厚生省は種々対策通知を都道府県、政令市等に出した。
県下の保健所(9ヶ所)では、集団給食調理施設の調理責任者、調理従事者に対し、厚生省が定めた大量調理施設衛生管理マニュアルに基づいて食中毒を未然に防止するための指導を行った。一方、特別養護老人ホーム等社会福祉施設に対し、国からの通知に基づいて入所者間での集団感染の防止及び患者発生後の対策等についての指導を行っていた最中に当該集団発生が起きた。

概要:
平成10年11月16日、病院から特別養護老人ホームの入所者17名が11月14日、腹痛、下痢(血便)を呈し、そのうち13名が入院をしている旨、管轄する保健所に連絡があり、保健所は、直ちに施設調査を開始した。17日、患者便から腸管出血性大腸菌O157:H7(VT2産生)が検出され、腸管出血性大腸菌感染症と診定した。同日O157防疫対策本部、現地本部が設置された。24日、給食に提供されたサラダから腸管出血性大腸菌O157の検出がされたことから、サラダを原因食品とした。

原因究明:
患者から同一性状の腸管出血性大腸菌O157:H7(VT2)が検出されたため、原因菌として確定された。一方、給食施設で調理された検食について検査をしたところ、サラダから腸管出血性大腸菌O157:H7(VT2)が検出され、いずれの菌もDNAパターンが一致したことから、原因食品はサラダであることが確定された。

診断:

地研の対応:
平成10年11月17日、特別養護老人ホームで提供された給食食材、施設の拭き取り等の検査を開始し、628検体の内の1検体のサラダから腸管出血性大腸菌O157:H7(VT2産生))を検出、原因菌と断定した。

行政の対応:
「県庁」・・・平成10年11月16日、環境生活部生活衛生課へ通報が入った。
同日、O157防疫対策本部を県庁内に、管轄保健所内に現地本部を設置し、原因の究明、有症者の把握、発生の拡大及び再発の防止等を図るための活動を開始した。
平成10年11月17日、腸管出血性大腸菌の集団発生について、第1回目の記者発表(内容:16日の初動調査結果)を行った。
平成10年12月16日、腸管出血性大腸菌の集団発生の最終記者発表(第33報)を行った。
平成10年12月16日、防疫対策本部を解散した。

「保健所」・・・平成10年11月16日、午前11時、病院から特別養護老人ホームの入所者で血便を伴う患者が来診したとの連絡があり、11時30分から特別養護老人ホーム現地調査(概要把握)を開始した。午後から調理場の調査(検査)及び使用水、浄化槽等の調査(検査)を開始し、併せて、施設関係者への2次感染防止指導及び衛生指導を実施した。
平成10年11月17日、腸管出血大腸菌感染症と診定した。これと同時に防疫対策現地本部(保健所内)を設置した。
平成10年11月19日、特別養護老人ホームに対し、調理施設を使用禁止。
平成10年11月23日、町内の全戸に啓発用チラシを配布した。
平成10年12月16日、現地対策本部を解散した。

地研間の連携:

国及び国研等との連携:
本庁は、厚生省との連絡を行った。地研は、サラダからの分離菌株と患者からの分離菌株を国立感染症研究所に依頼して、遺伝子型別(PFGE法)が実施された菌株の全てが同一型であることを確認した。

事例の教訓・反省:
入所者の多くが80歳を中心とした高齢者であり、十分な聴き取り調査ができなかったこと、もともと他の疾患を有している者も多かったこと、これらのことからO157の症状かどうかの判断が難しく、その結果、何らかの症状を有する者すべてに対し入院措置を取らざるを得なかった。

現在の状況:

今後の課題:
厚生省は大量調理施設衛生管理マニュアルを策定し、検食の採取及び保管方法(50g以上、2週間以上、-20℃以下)を示した。当該特別養護老人ホームにおいても、規定どおり検食が保管されており、これらを細菌検査の材料とした。検食からO157を検査する場合は検体(検食)が凍結されているため、菌の損傷が考えられたので増菌培地としてヘトリプトソイブイヨンを用いて検討したところ、効果的であると考えられたが、更に検討を重ねたい。

問題点:

関連資料:
山口県食中毒事件録(1999)
山口県衛生公害研究所年報(1999)
微生物検出情報(20(5),1999)