No.573 O26の集団発生

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性感染症
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:福岡県保健環境研究所
発生地域:福岡県行橋市
事例発生日:1997年6月20日
事例終息日:
発生規模:
患者被害報告数:14名
死亡者数:0名
原因物質:不明
キーワード:腸管出血性大腸菌O26、保育園、集団発生、風邪様症状

背景:
福岡県での腸管出血性大腸菌(EHEC)の集団発生事例は、1996年6月に福岡市内の保育所で発生し、血清型はO157であった。この事例の時点では、食品衛生法で定められた給食の保存期間は4日間であり、原因の特定は困難であった。その後、保存期間などについて様々な改善がなされた。しかし、提供給食数の少ない施設の食品衛生指導の徹底は困難である。1997年6月福岡県行橋市内で発生した事例の原因施設は認可外保育所であり、提供給食数が1回50食以下であり給食の保存がされてなく給食についての原因調査が不可能であった。現在(1998年4月段階)これらの施設への指導を行うよう厚生省から通知され、今後の対応が待たれているところでる。

概要:
患児は6月13日(金)より発熱(37℃前後)、軟便、咳、鼻水等の症状のため医療機関を受診し、投薬を受けた。6月17日(火)耳鼻科医院を受診し、中耳炎の診断を受け両側鼓膜切開を受けた。
平成9年6月17日(火)管内の医療機関から大腸菌O26を検出したとの情報提供があり、家族及び男児が通う保育所の調査が開始された。6月20日(金)この患者のO26株がベロ毒素1型産生菌であることが確認された。6月20日(金)患者発生による対策会議が開催され、疫学的調査及び細菌学的な調査が開始された。

原因究明:
拭き取りなどの環境材料の検査は実施したが、原因施設は認可外保育所であり、調理食品及び原材料が保存されてなく原因究明は困難であった。

診断:

地研の対応:
1997年6月21日(土)行政(現:福岡県・保健福祉部・健康対策課)から本事例についての検査依頼があり、当日より検査を実施した。その後行政及び当研究所で検査の方向性及び方法等について検討を行った結果、本事例は原因施設が保育所であり接触者検便並びに原因究明検査等検査件の広がりがあると判断された。そこで、急遽検査担当保健所職員に検査方法のポイント等について研修を行うとともに、血清、培地等の手配を行ない保健所での検便体制がつくられた。以降当研究所では原因究明検査及び検出されたO26のベロ毒素の確認を行った。

行政の対応:
6/17: 保健所に医療機関より患者からの大腸菌O26分離(ベロ毒素未確認)についての情報提供がある。患児及び保育園の調査開始。
6/20: 保健所に医療機関よりO26株がベロ毒素1型産生菌である旨連絡を受ける。主治医から腸管出血性大腸菌感染症の届け出がなされた。腸管出血性大腸菌感染症対策会議が開催された。
6/24: 本庁(福岡県・保健福祉部・健康対策課)「対策本部会議」
6/25: 保健所(福岡県・京築保健所)「腸管出血性大腸菌O26集団感染現地対策本部会議」

地研間の連携:
特になし

国及び国研等との連携:
本庁にて厚生省との連絡が行われた。

事例の教訓・反省:
1) 人口の少ない地域での発生の場合、報道によって地域等の特定が比較的容易であるため、患者やその家族のプライバシーが保護され難い状況が多く、報道機関への公開の内容について検討の余地があると考えられた。
2) 認可外保育所の食品衛生指導のあり方について、見直しが必要と考えらた。

現在の状況:
・検査技術
腸管出血性大腸菌O157以外の血清型の検査方法については、分離培地上でのマーカーがないので分離培地上からのコロニー掻き取り法を用いた逆受け身ラテックス凝集反応(ベロ毒素検出)によるスクリーニング方法を保健所検査担当者に研修し、行政検査に取り入れた。また、代表的な腸管出血性大腸菌血清型O26、O111、O128菌株を各検査課に配布した。また、厚生省研究班での研究に参画し、これらの菌株のスクリーニングマーカーを発見し、効率的かつ正確な検査方法で実施している。
・検査体制
事例発生前
保健所:O157の分離同定及び血清反応
研究所:O157以外の血清型の分離同定及びすべての腸管出血性大腸菌のベロ毒素の確認(逆受け身ラテックス凝集反応)

事例発生後
保健所:腸管出血性大腸菌すべての分離同定・血清反応及びベロ毒素の確認(逆受け身ラテックス凝集反応)
研究所:菌株の収集及び分子疫学的調査

今後の課題:
細菌感染症の患者が医療機関を受診し、検査機関へ便の検査依頼がなされ確認同定までにかなりの日数を要す。特に、腸管出血性大腸菌の場合、菌の同定後ベロ毒素の確認にさらに日数を要す。本事例の場合、患者の発症から8日間が経過している。人から人への伝播の恐れのある細菌感染症の場合、感染症の特定がなされるまでの間に家族や保育所等の団体での伝播は免れない。
2)原因究明のあり方について
原因究明調査及び検査は、事件の拡大・二次汚染の防止のために実施するものであり、これらの調査を行うことによって事件発生の現場での異常な緊張や過剰な反応を伴う事例が多い。これらの理由の一つとして報道のあり方が挙げられ、今後検討の余地があると考えられた。

問題点:

関連資料:
1) 京築保健所管内における腸管出血性大腸菌(O26)幼児集団感染について・・・県庁内事例報告会資料(高橋正伸技術主査作成)
2) 腸管出血性大腸菌感染症の予防対策について(1997.6.16付け文書)県庁作成文書