[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:青森県環境保健センター
発生地域:茨城県日立市
事例発生日:1978年
事例終息日:
発生規模:
患者被害報告数:366名
死亡者数:0名
原因物質:ホタテガイによる下痢性貝毒
キーワード:ホタテガイ、下痢性貝毒、食中毒
背景:
1978年6月茨城県日立市において、ホタテガイによる食中毒が発生し、原因物質は下痢性貝毒であった。また、同年7月、北海道噴火湾産ホタテガイから高濃度の麻痺性貝毒が検出され、漁協、加工場に対して、出荷停止、製品回収の行政措置がとられた。当時我が国においては、貝毒の安全基準値がないため大きな社会問題になった。
概要:
1978年6月茨城県日立市において、ホタテガイによる食中毒が発生した。被害者数366名であり、原因物質はホタテガイに含まれていた下痢性貝毒であった。最初は青森県陸奥湾ホタテガイと報道されたが、事実は岩手県産ホタテガイであった。以後、陸奥湾産ホタテガイの安全性確保が緊急の課題になった。
原因究明:
貝類毒化の原因究明のため、水産庁は赤潮対策として実施されていた情報交換・予察調査事業の中に緊急に「特殊プランクトン予察調査研究班」を組織し、毒化原因究明を図った。本県も当研究班に加わり、陸奥湾産ホタテガイの毒化原因究明を行っている。下痢性貝毒については、原因プランクトンの種類および貝毒成分等についてはほぼ解明されているが、プランクトンの毒化メカニズムについてはまだ究明されていない状況である。
診断:
地研の対応:
1977年5月東北大学安元教授より県衛生部に対して、陸奥湾産ホタテガイについて貝毒検査を実施すべきとの助言があった。そのため当所では職員を安元教授のもとに派遣し、下痢性及び麻痺性貝毒分析法を習得させた。1977年7月以降、陸奥湾産ホタテガイの安全性確保のため継続的に陸奥湾産ホタテガイの貝毒検査を実施している。なお、陸奥湾産ホタテガイは下痢性貝毒だけで麻痺性貝毒は認められていない。
行政の対応:
厚生省はホタテガイの食品としての安全性の確保と流通の円滑を図るため1978年7月「ホタテガイ等の貝毒について」の長官通達を出し、貝類の毒化に対する監視点検体制を強化することおよび毒量の暫定的指導値を定めた。暫定的指導値として、ホタテガイの可食部1g当たり毒量を麻痺性4MU、下痢性0.05MUと設定した。その後、環境衛生局長による「麻痺性貝毒等による毒化した貝類の取り扱いについて」などの通知を出し、食品衛生法第4条に基づいて毒化した貝類の販売などの禁止する措置をとった。
地研間の連携:
下痢性貝毒分析の公定法はマウスを用いるバイオアッセイ法である。しかし、バイオアッセイ法は分析に長時間を要すること、操作が煩雑、動物の飼育管理が必要等の欠点がある。そのため大阪府立公衆衛生研究所とヤトロンKKより開発された下痢性貝毒迅速分析法(ELISA法)を用いて、公定法との比較検討を大阪府立公衆衛生研究所と協同で実施している。
国及び国研等との連携:
下痢性貝毒分析法のバイオアッセイ法及びHPLCによる機器分析法を習得させるため、当所職員を国立公衆衛生院および東北大学に派遣した。また、今年度より水産庁の研究費により、下痢性貝毒迅速分析法(ELISA法)を用いて陸奥湾ホタテガイの毒化状況について調査する予定である。
事例の教訓・反省:
ホタテガイによる食中毒に関しては、マリントキシンの権威者である安元教授の指導を得ることができた。今後、突発的な事例に対応するためには、常に情報の収集、解析が行うとともに国及び国研等の連携が必要である。
現在の状況:
陸奥湾のホタテガイについては、厚生省で定めた「対EU輸出ホタテガイ等二枚貝の取扱い要領」に従って、貝毒、細菌、有害金属および残留農薬等を定期的に検査し安全性確保を図っている。
今後の課題:
下痢性及び麻痺性貝毒検査法として、マウスを用いるバイオアッセイ法から機器(HPLC法、ELISA法)を用いる方法が国際的になりつつあり、そのためHPLC法、イライザ法にについて検討している。また、下痢性及び麻痺性貝毒以外マリントキシン(ドウモイ酸、シテガラ等)についても今後問題になる可能性があるため、それらの検査についても検討している。
問題点:
関連資料:
1) T. YASUMOTO, YOSHIMA and M. YAMAGUCHI: Occurrence of a new type of shellfish poisoning in the Tohoku district, Bull. Japan. Soc, Sci. Fish., 44, 1249-1255, 19782)
2) 福代康夫編:貝毒プランクトンー生物学と生態学-.日本水産学会監修、恒星社厚生閣刊。
3) 飯田寛:貝類の毒化現象と行政及び研究の課題.研究ジャ-ナル、5(9)、31~36、1982。