[ 詳細報告 ]
分野名:化学物質による食品汚染
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:三重県科学技術振興センター保健環境研究部
発生地域:三重県桑名市
事例発生日:2002年2月
事例終息日:
発生規模:
患者被害報告数:1名
死亡者数:0名
原因物質:次亜塩素酸ナトリウム(台所用漂白剤)
キーワード:梅ワイン空瓶,オルトトリジン,キッチンハイター,残留塩素,次亜塩素酸ナトリウム
背景:
次亜塩素酸ナトリウムを原因物質とする苦情事例には、製造ラインの消毒洗浄に用いた次亜塩素酸ナトリウムの残存による異味異臭などが多いが、本件は、飲食店の管理の不備と店員の不注意により商品の空瓶に台所用漂白剤を移し替えたものを客に誤って提供したことによる事例である。
また、本件の場合、検体搬入までの間の保健所の聞き取り調査によりほぼ原因物質等が特定されており、本研究部ではその確認試験を行った。
概要:
2002年2月、桑名市内の飲食店にて客が「梅ワイン」を注文し、瓶からグラスについで一口飲んだところ、喉が焼けつくように痛くすぐに嘔吐した。直ちに医療機関に行き、胃洗浄等の処置を受けたが、入院せずにその日は帰宅した。しかし、翌日も体調不良が続いた。
保健所が飲食店の立ち入り調査を行った結果、調理場内に置いてあった「梅ワイン」の空瓶に移し替えた漂白剤(キッチンハイター)を誤って客に提供した可能性が高いことから確認試験を本研究部にて行った。
原因究明:
本件の原因物質は、保健所の調査により検査開始時までに次亜塩素酸ナトリウムであることがほぼ特定されていたため、確認試験を行った。
試験品の量が少なく、複数の試験を実施することは困難であった。官能試験を行ったところ、対照に用いたキッチンハイターと同様の臭気が瓶に残った液体から認められ、ほぼキッチンハイターである事が推定され、オルトトリジン法での残留塩素測定でも、発生からだいぶ時間が経過したにもかかわらず、塩素量は5,000mg/Lを示した。一方、胃洗浄液については液が黄色に着色しており、他の臭いで臭気も確認できなかった。
以上の結果と保健所の調査から、瓶に残っていた液体は次亜塩素酸ナトリウム溶液であると断定した。
診断:
地研の対応:
検体の搬入までの間の保健所との連絡のやり取りで、検体が少量であること、混入物がキッチンハイターである可能性が高いことが判明したため、その時点での検査員数、試薬在庫等を考慮して試験法を選択した。当日は、食品担当検査員のうち半数以上が出張等で不在であり、環境部門等の他部門と連携し、試薬の確保および検査を行うこととなった。
保健所が搬入した検体は瓶に残った液体15mLおよび医療機関より提供された胃洗浄液5mLのみであり、複数の検査に供する量が確保できないため、色・臭いなどの一般的な官能検査およびオルトトリジン法による残存塩素検査を行った。
行政の対応:
通報後、すぐに保健所が飲食店の立ち入り調査を行った。聞き取り調査と同時に検査品として被害者に提供された瓶に残った液体および医療機関から胃洗浄液を入手し、本研究部へ随時連絡を入れると共に検査を依頼した。
地研間の連携:
国及び国研等との連携:
事例の教訓・反省:
本件は、店内で提供している商品の空き容器に商品と似た色をしている消毒液を入れ、何も表示・区別等を行わなかったことが原因である。
現在の状況:
今後の課題:
今回のケースも検体が少量であったが、危機管理による検査の多くは検体の量が限られており、少量で多くの項目を検査する必要がある。そのためにも危機管理に応用できる検査技術を開発・習得し、これまで対応した事例に関しても各検査員が情報を共有、活用できるようにデータの蓄積をする必要がある。また、今後も行政や他部門との綿密な連携を心掛け、迅速な検査対応に努めていくことが大切である。
問題点:
関連資料:
衛生試験法・注解1990 日本薬学会編 p949