[ 詳細報告 ]
分野名:その他
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:長崎県衛生公害研究所
発生地域:長崎県南高来郡有明町
事例発生日:1986年6月
事例終息日:
発生規模:
患者被害報告数:0名
死亡者数:0名
原因物質:白アリ防除用エバーウッド乳剤C-200(クロルデン40%)
キーワード:クロルデン汚染事故、井戸水汚染、白アリ防除薬剤汚染事故
背景:
昭和50年代後半頃、白アリ駆除に使用されるクロルデンによる環境・食品等の汚染が注目されるようになった。
クロルデンは、難分解性で蓄積性があることから、1986年9月に化学物質審査規制法に定める特定化学物質に指定され、さらに同年11月に輸入禁止となり、白アリ駆除剤は有機リン系薬剤にかわりつつあった。
概要:
1986年6月、南高来郡有明町の一個人宅で白アリ防除の際の作業ミスにより、誤ってクロルデンが同宅の井戸に流入し、井戸水を汚染する事例が発生した。詳細な事故発生調査によると、白アリ防除のためエバーウッド乳剤C-200(クロルデン40%)を20倍に希釈し防除作業を実施中に、風呂場の床下に穿孔作業中誤って井戸水の給水パイプを穿孔損傷し、薬剤を注入したため薬剤が逆流入し井戸を汚染させた。
原因究明:
検水試料をヘキサンで振とう抽出し無水硫酸ナトリウムで脱水後、KD濃縮器で濃縮後、ECD-GCで分析した。
井戸水からは、trans-クロルデン、cis-クロルデン及びtrans-ノナクロルが検出された。クロルデンの濃度は、それぞれECD-GCで分析したピーク高和により定量した。
事故から6時間経過後の事故井戸のクロルデンは9,200ppbと高濃度であり、各組成別にみるとtrans-ノナクロル2,700ppb,<cis-クロルデン2,900ppb,<trans-クロルデン3,600ppbの順に高かった。また組成比も0.75:0.80:1となり使用した薬剤の原液であるエバーウッド乳剤C-200のクロルデン組成比の割合と一致した。
同時に採水した隣家井戸水からクロルデンは検出されなかった。しかし、翌日には隣家の2宅の井戸水から微量ではあるが、0.02ppbのクロルデンが検出されたが、3日経過後にはいずれも検出されなくなった。
事故より17日経過後、事故井戸からはまだ0.04ppbと微量ながら検出されたが、周辺井戸からは総て検出されなかった。
以上の原因究明の結果から、井戸の汚染原因は、白アリ防除に使用したエバーウッド乳剤C-200によるクロルデン汚染によるものであることが確認された。
診断:
地研の対応:
当研究所においては、事故発生から6時間後の事故井戸水のクロルデン濃度を測定するとともに、事故翌日、3日後及び17日経過後の事故井戸と周辺の井戸7ヶ所のクロルデン濃度を測定し、事故後それぞれの井戸水の安全性を経時的に調査確認した。
行政の対応:
事故発生は、白アリ防除作業後、6時間経過後に発見され、水中ポンプを用いて事故井戸水を側溝へ排水させるとともに、町当局が事故井戸周辺の各家庭へ井戸水の飲用中止を呼び掛け、管轄の保健所は事故井戸及び周辺井戸の水質検査を行う必要から採水を行い、当研究所へこれらの検水を搬入した。
17日経過後の事故井戸及び周辺の井戸7ヶ所の水質検査の結果、WHOの飲料水のクロルデンの水質基準(0.3ppb)以下となったため、町当局が飲用中止を解除し、当該事件は終了した。
地研間の連携:
当該事例に関連して、地研間における連携はなし。
国及び国研等との連携:
当該事例に関連して、地研間における連携はなし。
事例の教訓・反省:
町当局が、人への被害波及を防ぐため迅速に周辺住民に対して井戸水の飲用中止を呼び掛け、安全が確認されるまで管轄の保健所が町当局と連携して事故井戸と周辺の井戸の水質検査を継続して実施し、その水質分析には高度の分析機能を有する当研究所が即座に連携して対応しており、それぞれの行政機関と研究機関の素早い対応と連携が、周辺住民への被害拡大防止と混乱の防止に大いに貢献した。
また、このような事故の再発を防止するうえからも、家屋の壁、床等を穿孔して白アリ防除薬剤等を注入する場合には、作業施行者に電気配線、ガス配管及び給水配管を充分に確認させてから作業に取り掛からせる必要がある。
現在の状況:
白アリ駆除の薬剤が、クロルデンから有機リン系薬剤に変わった以外に特記すべき事項なし。
今後の課題:
特記すべき事項なし。
問題点:
関連資料:
「井戸水中のクロルデンの分析」益田宣弘ほか、長崎県衛生公害研究所報 28, 161~163 (1986)