[ 詳細報告 ]
分野名:その他
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:岐阜県保健環境研究所
発生地域:岐阜県恵那郡蛭川村
事例発生日:1972年3月
事例終息日:
発生規模:
患者被害報告数:健康障害は確認されず
死亡者数:
原因物質:ヒ素
キーワード:休廃止鉱山、ヒ素、魚類へい死、河川水、河川底質、環境汚染
背景:
宮崎県土呂久鉱山の亜ヒ酸鉱害が1972年1月問題となり、名古屋鉱山保安監督部が管内の一斉点検を実施した。蛭川村遠ケ根地区にある遠ケ根鉱山跡に90トン近くの粗成亜ヒ酸が山積みで放置されているのを発見し処理されたが、1972年3月岐阜県議会で人体被害の懸念が指摘され住民検診や周辺井戸水、河川水、河川底質の調査が実施された。
遠ケ根鉱山は大正年間錫を目的に採掘され、昭和10年代戦時中は軍の重要鉱山に指定されタングステンを中心に採掘された。敗戦後中止された採掘は昭和24年採掘が再開され硫ヒ鉄、亜ヒ酸を主に採掘されたが、大雨によるヘドロの流出による稲の枯死などあり昭和32年廃鉱となった。
概要:
昭和32年廃鉱となった後、鉱滓沈澱地のヘドロが大雨で流出し稲の枯死が数回あったほか、46年にはマスの養殖場に坑内水を取水し1,000匹ヘイ死している。
土呂久鉱山の問題を契機とした一斉点検と47年3月県議会で取り上げられ問題がクローズアップした。
住民検診では亜ヒ酸によると思われる特異所見は認められなかった。
ヒ素量0.005ppm以上含まれる井戸水や湧水は鉱山地域に集中しており、同地区から離れるにしたがって低い値となっている。
鉱山地区から出ている和田川水中のヒ素の濃度は通常0.03mg/l以下であったが、増水時には1.4mg/l以上にも及ぶことがあった。また、河川底質中のヒ素濃度は最高2,400mg/kgを示すなど鉱山の影響が各地点にみられた。河川底質からのヒ素の溶出は0.15mg/l程度であった。
原因究明:
概要参照
診断:
地研の対応:
井戸水、湧水については岐阜県衛生研究所において、また、河川水、河川底質については岐阜県公害研究所において岐阜県恵那保健所の協力の基に調査が実施された。
行政の対応:
鉱山保安法に基づいて、鉱業権者、名古屋鉱山保安監督部、蛭川村、恵那保健所等により対応された。野積みされていた粗成亜ヒ酸は日本鉱業佐賀関精錬所に運搬され精錬されたとされる。
昭和47年に実施された住民や元従業員の健康調査ではヒ素による特異所見は見られなかったが、元従業員については恵那保健所により3年間の追跡調査も実施された。また、周辺田畑への土壌汚染防止のため2年間にわたり鉱害防止工事も実施された。
地研間の連携:
国及び国研等との連携:
鉱山保安法に伴い名古屋鉱山保安監督部が関与しており、岐阜県衛生部との連携の上で事後処理されている。
事例の教訓・反省:
民間企業の終息には環境汚染など問題となる場合が多い。今回の場合も、経営者は採算がとれず鉱山をそのまま放置し転出したようであり、このような事例に類似するものは産業廃棄物処分場などでもみられるようである。県、市町村が連携し常時監視や事後処理策に万全を図るべきである。
現在の状況:
事件以降数年にわたり、環境調査や鉱害防止工事が実施されており、以後被害状況はみられない。
今後の課題:
昭和40年代廃鉱の環境汚染が全国的にクローズアップされ、当時一斉点検されているが、当時問題となった地域について今後も環境汚染のフォローアップがなされるべきと思われ、当時の一斉点検に落ちがないか、再チェックも必要かもしれない。
問題点:
関連資料:
1) 北野堅一ほか、恵那郡蛭川村の飲料水水質調査、岐阜県衛生研究所報 17、1~9、(1972)
2) 加藤邦夫ほか、休廃止鉱山のひ素による環境汚染、岐阜県公害研究所報 No.3、31~38、(1973)
3) 昭和47年第1回岐阜県議会会議録、(1972)
4) 中日新聞、昭和47年3月14日版、15、(1972)
5) 末木光、「蛭川村遠ケ根鉱山亜ヒ酸鉱害について」、第17回岐阜県公衆衛生研修会シンポジウム発表、(1972)
6) 恵那保健所、恵那保健所のあゆみ、79、(1994)