[ 詳細報告 ]
分野名:その他
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:東京都立衛生研究所
発生地域:1994年10月、防水スプレーが原因で千葉県内の男性(56)が死亡
事例発生日:1992年末~1994年 呼吸困難、咳などの呼吸器系中毒症状を主訴とした急性中毒事故が多発
事例終息日:1994年頃
発生規模:
患者被害報告数:推定患者数 入院48名,1994年(H6)11月23日朝日新聞では1992年の冬以来,170件の事故が起き,48名が入院と報道
死亡者数:1名
原因物質:厚生省は家庭用エアゾル防水剤(防水スプレー)に使用されている溶剤による頭痛、めまい等の神経系中毒症状とともに、撥水剤樹脂を含む噴霧粒子による呼吸困難、咳等の呼吸器系中毒症状が引き起こされたことが原因と報告
キーワード:家庭用エアゾル防水剤、防水スプレー、はっ水、防水、溶剤、はっ水剤樹脂、フッ素樹脂
背景:
家庭用エアゾル防水剤に使用されている溶剤は、トリクロロエタンはオゾン層破壊物質であるとして、国際的に使用が制限、中止された。そのため、代替溶剤として石油系溶剤、アルコール系溶剤等が主に使用されるようになってきた。
また、撥水剤成分はシリコン樹脂よりフッ素樹脂使用がほとんどになったため、上記の様な溶剤の変更は、相溶性が激しく変化し、製品の防水効果に影響したと考えられる。この様な背景時期に多く事故が発生している。
中毒事故はスキーウェアやレインコートなど衣料品に使用している際に多く発生している。この時期に流行ったスキーウエアは従来のウエアと異なり、防水性が悪い繊維で、ふわっとしたものが使われたウエアのため、スキーをする前に防水スプレーを用いて防水をしなければならなかった。
概要:
国内における防水スプレーによる中毒事故の発生状況について、次のとうりです。
1) 中毒事故はスキーシーズンに頻発していて,ほとんどがスキーウェアの防水をしている時に起こっている。
2) 中毒事故が発生した場合は、ではスキーシーズンでは車の中、地下の乾燥室、スキー宿などであつた。その際、狭い所や暖房をしていて換気がきちんとできていなかった場所が多かった。梅雨の時に発生した事故例も、窓を閉め切って使用した場合、玄関で使用した場合等換気が十分でだはなかったためと考えられた。
3) 中毒事故はスキーウェアやレインコートなど衣料品に使用している際に多く発生している。防水スプレーの使用量が、傘や靴では数十mlであるのに対し、衣料品では数百mlと多量となるため、大量使用が事故発生の要因の一つとなっていると考えられる。
原因究明:
診断:
地研の対応:
行政の対応:
都衛生局薬務部薬事衛生課は「防水スプレー 使い方にご注意を!!吸い込まないで!!」リーフレットを平成6年12月作成配布した。
地研間の連携:
溶剤については都衛研,大阪市立環境科学研究所および神奈川県衛生研究所が全国衛生化学技術協議会年会で報告している。
国及び国研等との連携:
1)平成5年厚生省科学研究の特別研究事業として「防水スプレーの取扱い及び中毒機構に関する研究」が実施され、平成6年5月に「防水スプレーによる健康被害の防止に関する研究報告」の要旨が発表された。中毒事故の発現要因は特定されていないが、製品の安全性に影響を及ぼすと考えられる幾つかの要因について考察がせれている。
2)1994年10月防水スプレーが原因で、千葉県内の男性(56)が死亡した。そのため、厚生省はスプレーは屋外で使うよう改めて注意を呼びかけるとともに、使い方を誤ると呼吸困難を起こす恐れのある製品名を公表した。その製品名は(1)アクアガード(ミズノ)(2)ウェットガード(ニチバン)(3)ボースイ(ソニーケミカル)(4)パーサーライン,白キャップ(ジャパーナ)(5)いいウェアを持っている人の防水スプレー(カーメイト)(6)防水スプレーウォタープルーフ,青キャップ(コージン)であった。
3)家庭用品による健康被害の防止方法に関する研究、防水スプレーの取扱いに関する研究;防水スプレーによる中毒機序に関する研究、(平成5年度(1993年)厚生科学特別研究事業)
防水スプレー関連業者へのアンケート調査、中毒事故事例の発生状況、症状等を解析し、防水スプレーによる中毒機序に関する検討を行った。
1)かって撥水剤成分として主に使用されていたシリコーン樹脂の使用量は減少しており、撥水剤成分としてフッ素樹脂を使用した製品が圧倒的に多かった。
2)中毒事故は、フッ素樹脂を含む噴霧粒子が、肺深部(肺胞)まで達したことによって引き起こされたものと考えられる。
3)中毒症状は、樹脂量が多くなるほど重篤であった。
4)粒子径が細かく、防水対象製品への付着率が低い製品ほど、中毒事故が発生する可能性が高かった。
4)防水スプレーの噴霧粒子径の簡易測定法に関する研究、(平成7年度(1995年)厚生科学特別研究事業)
1992年に中毒事故を引き起こした防水スプレーに配合されていた反応性シリコーン樹脂が、事故発生にどのような影響をおよぼしたかを検討した。
1)市販製品の付着性は概ね良好であった。
2)粒子径10μm以下の粒子の存在率が、数%に及ぶ製品があった。
3)靴用スプレーでは、付着性が噴霧直後でも50%以下と悪く、かつ10μm以下の粒子の存在率が数%に及ぶ製品があった。
5)シリコーンオイルを含有する家庭用エアゾル製品に関する研究、(平成8年度(1996年)厚生科学特別研究事業)
1996年にシリコーンオイルを配合したさび止めスプレーで、防水スプレーと同様な呼吸器系症状を呈する中毒事故が発生したことから、防水・撥水、さび止め・防錆、滑り・潤滑、艶だし、離型等の用途に使用されるシリコーンオイル(ジメチールシリコン化合物)について、中毒事故発生に対する影響を検討した。
シリコーンオイルの配合量及び噴霧粒子径がそれぞれ異なる試作スプレーと市販スプレー製品を用いて、付着性試験及び噴霧粒子の光学的粒子径の測定を実施した。
噴霧直後の付着率が60%以上であることが安全性の目安値とされている。
6)3),4),5)の研究結果のまとめ
1992年末に中毒事故を引き起こした防水スプレーに配合されていたフッ素樹脂、シリコーン樹脂(反応性タイプ)、1996年に同様の中毒事故を引き起こしたさび止めスプレーに配合されていたシリコーンオイルの3種の撥水剤成分を用いて調整した試作スプレーについて、マウスを用いたスプレー使用実験により肺障害性の強度を検討した。その結果、フッ素樹脂配合防水スプレーはシリコーン樹脂(反応性タイプ)配合防水
スプレーに比べてかなり強い肺障害を示した。
また、シリコーン樹脂配合防水スプレーでは、顕著な肺障害は認められなかった。
事例の教訓・反省:
防水スプレーではこの様な事故が続くものと考えられる。スプレータイプをやめ、ほかの方法でウエアに防水する方法を開発することが必要と思う。他の家庭用品用エアゾル製品もなるべくエアゾル式は少なくする事が必要である。
現在の状況:
今後の課題:
問題点:
関連資料:
1)山下衛:防水スプレー吸入による肺病変、医学のあゆみ、176, 666-667,1996
2)田中淳介、山下衛:防水スプレーに入っているシリコン樹脂による肺障害について、中毒研究8、459-460, 1996
3)山下衛、田中淳介:防水スプレーについて、中毒研究8、225-233, 1995
4)石沢淳子、辻川明子:防水スプレー吸入による急性中毒、日本医事新報、(第一報)No.3638, 47-50, 1994、(第二報)No.3680, 49-52, 1994.
5)深堀すみ江、原邦夫:防水スプレー噴霧時の気中有機溶剤濃度について、労働の科学48、300-303, 1993
6)厚生省生活衛生企画課生活化学安全対策室監修:MSDS用語集、化学工業日報社、東京、1995.
7)厚生省生活衛生企画課生活化学安全対策室監修:OECD毒性試験ガイドライン、薬業時報社、東京、1993