No.940 具志川海岸皮膚炎発生

[ 詳細報告 ]
分野名:その他
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:沖縄県衛生環境研究所
発生地域:沖縄県具志川市具志川海岸
事例発生日:1968年7月21日
事例終息日:
発生規模:
患者被害報告数:推定患者数:242名
死亡者数:0名
原因物質:藍藻(Microcoleus lyngbyaceus)
キーワード:皮膚炎、藍藻、Microcoleus lyngbyaceus、swimmer’s itch

背景:
藍藻Microcoleus lyngbyaceusによる被害で最初に詳しく報告されたのは、ハワイのオアフ島北部の海岸で多数の遊泳者が皮膚に炎症を起こした事件である。遊泳後、数分から数時間後にかゆみや炎症が始まり、次いで発赤、水疱、表皮の剥離や痛みが起こった。
この皮膚炎の原因は外海の海底の有毒海藻がなんらかの原因でひきはがされ、風と潮流によって海岸に押し流され、遊泳者の皮膚に接触したためと推測されている。

概要:
1968年7月21日に那覇市内の小学校の職員37名、児童237名が沖縄県具志川市具志川海岸で水泳中、午後4時頃、職員11名、児童231名が皮膚炎を起こし、職員2名、児童12名が入院治療を受けた。
当日は強い風が海岸にまともに当たり、しぶきを吹き上げ、海岸にいた者の一部にも顔面が赤くなったり、眼が充血して涙を流す者がでた。
その症状は顔、脚、眼、頸部および上背部の皮膚の剥離、発赤、水疱形成およびびらん、陰のう、陰茎の発赤、水疱形成等であった。
原因究明のため、海水、土壌、工場排水、腔腸動物、藍藻などが調査されたが、原因物質は発見されず、米軍施設からの薬品の放出が強く疑われた。
1971年から東京大学農学部の橋本教授(水産化学研究室)らが現地海岸で調査を開始し、1973年9月に毒性の強い藍藻を採取し、同皮膚炎の原因物質として推定した。

原因究明:
東京大学農学部の橋本教授らは、1973年9月に具志川海岸で採取したM. lyngbyaceusで症状再現テストを実施した結果、接触部位の発赤、痛み、皮膚の剥離等を確認し、1968年7月の皮膚炎の原因物質と推定した。

診断:

地研の対応:
事件発生後、現場調査を実施し、海水、土壌、各種生物等の分析を行い、原因調査に努めたが、原因物質を推定するには至らなかった。

行政の対応:
一過性の事件で、原因不明のため、効果的な対策がとれず、現場付近を遊泳禁止措置にする一方、周辺工場の立ち入り、排水検査等を実施した。

地研間の連携:

国及び国研等との連携:
東京大学農学部の橋本教授らは、1973年9月に具志川海岸で採取したM. lyngbyaceusで症状再現テストを実施した結果、接触部位の発赤、痛み、皮膚の剥離等を確認し、1968年7月の皮膚炎の原因物質と推定した。

事例の教訓・反省:
当時は、米軍基地から発生する公害事例が多く、本件の場合も、まず米軍基地がらみの原因を疑い、新聞紙上でも連日そのような記事が掲載された。また、地方衛生研究所も細菌、化学の専門が多く、藍藻類が原因であると推定する技術的根拠を持ち得なかった。
今後、このような事例の場合、学際的分野のプロジェクトチームが必要と思われる。

現在の状況:

今後の課題:
M. lyngbyaceusは奄美から沖縄本島にかけて広い範囲で分布しているが、毒性が地域、系統によって相違することが知られている。どのような種が、どの時期、毒性の違いによるのはどうしてか、などの基本的な要因が明らかにされていない。今後の再発に備え、調査のマニュアル、治療法の確立等を考える必要がある。

問題点:

関連資料:
1)橋本芳郎他;南西諸島における有毒魚貝類の調査XIII.皮膚炎の原因となった藍藻Lyngbya majusculaについて、東京大学農学部水産化学研究室、1972年6月
2)橋本芳郎;魚貝類の毒、東京大学出版、pp.215-219(1977)