No.966 中国製ダイエット食品による健康被害

[ 詳細報告 ]
分野名:化学物質による食品汚染
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:愛知県衛生研究所
発生地域:愛知県
事例発生日:2002年7月
事例終息日:2002年8月
発生規模:
患者被害報告数:118名
死亡者数:0名
原因物質:甲状腺末、N-ニトロソ-フェンフルラミン
キーワード:中国製ダイエット食品、健康食品、健康被害、甲状腺末、N-ニトロソ-フェンフルラミン

背景:

概要:
2002年(平成14年)7月12日の新聞に、中国製ダイエット用健康食品による死亡者の発生が報道されたことを契機として、ダイエット用健康食品による健康被害が全国的な問題となった。
中国で製造されたいわゆるダイエット食品を個人輸入等の方法により購入、服用した東京都、千葉県、神奈川県、兵庫県、福岡県等の男女12名が相次いで肝障害を起こし、この中の東京都内の女性1名が5月末に死亡していたことが判明した。同日厚生労働省は、これらの事例に共通するものとして、「御芝堂減肥◇コウ◇嚢(オンシドウゲンピコウノウ)」及び「紆之素◇コウ◇嚢(センノモトコウノウ)」の2品目を被害の拡大を防止する意味から未承認医薬品(承認と許可を得ていない医薬品)として公表した。
一方、本県においては上述新聞発表の約1月前の6月l9日に、名古屋市内の医療機関から肝機能障害患者の原因として中国産ダイエット食品が疑われる旨の情報堤供があった。そこで、当該品を入手し、当衛生研究所において検査を実施したところ、医薬品成分(甲状腺末)が検出された。当該品は県内の業者が中国から「茶素◇コウ◇嚢」(中国湖南省 美康保健品有限公司)を個人輸入して、容器を移し替えて商品名「オロチンチャス」として販売していたものであった。このため、当該業者に対し7月l6日付で販売済の製品全てを対象として回収を命じるとともに、県政記者クラブに発表し、県民に中国製ダイエット食品に対する注意を喚起した。また、7月26日には、相談者から堤供された3品目(茶素◇コウ◇嚢、ニューシティング、ダイヤモンドスリム)のうち「茶素◇コウ◇嚢」と「ニューシティング」から甲状腺末及びN-ニトロソ-フェンフルラミンを、「ダイヤモンドスリム」からN-ニトロソ-フェンフルラミンを検出した。また、「オロチンチャス」からも新たな医薬品成分としてN-ニトロソ-フェンフルラミンを検出した。平成14年11月末現在、県内の健康被害者は118名、死者なしとなっている。
その後の全国的な調査で、多くの中国製ダイエット食品に、甲状腺末、フェンフルラミン、N-ニトロソ-フェンフルラミンなどの医薬品成分が含有されていることが明らかになり、11月29日現在、全国的には未承認医薬品に分類されるものだけでも51品目から医薬品成分が検出されており、健康被害事例は854人、うち4人の死者が報告されている。

原因究明:
甲状腺末の確認は顕微鏡による組織学的検査及び液体クロマトグラフィ-/質量分析法(LC/MS)により行なった。顕微鏡による組織学的検査は、第14改正日本薬局方の乾燥甲状腺の確認試験(ヘマトキシリン・エオジン染色)によった。その結果、エオジンで赤色に染色された数ミクロンから最大50ミクロン径の不整形な細胞の破片が認められた。また、LC/MS分析における試験溶液の調製はアメリカ薬局方24の甲状腺の試験方法の前処理法に従った。すなわち蛋白質と結合したチログロブリンを蛋白分解酵素(Protease)を加えて加水分解処理を行ない、試験溶液を調製して分析した。その結果、検体から試験溶液中にリオチロニン(L-T3)標準品及びレボチロキシン(L-T4)標準品と同様の保持時間及びマススペクトルを確認した。以上の結果から当該品が甲状腺末を含有していることが判明した。
N-ニトロソ-フェンフルラミンの確認は、厚生労働省医薬局監視指導・麻薬対策課(事務連絡、平成14年7月24日)、N-ニトロソ-フェンフルラミンの分析法に従った。すなわち、試料をメタノ-ルで抽出して試料溶液とし、液体クロマトグラフィー/フォトダイオードアレー(LC/PDA)による紫外部吸収スペクトルの確認、及びガスクロマトグラフィ
-/質量分析法(GC/MS)によるマススペクトルの確認を行なった。その結果、LC/PDA法では、保持時間約9分に210nm及び234nm付近に極大吸収波長を有するピークを認め、N-ニトロソ-フェンフルラミンが確認された。また、GC/MSでは、保持時間約13分に、m/zが186、159、及び101のフラグメントイオンが観察され、N-ニトロソ-フェンフルラミンであることが確認された。

診断:

地研の対応:

行政の対応:

地研間の連携:
すでに甲状腺末の研究発表をしている地研の抄録を参考に、また、地研間で分析法について情報交換をした。

国及び国研等との連携:
国立医薬品食品衛生研究所(国衛研)からは、事件発生後速やかに、N-ニトロソ-フェンフルラミン分析法についての情報提供があった。

事例の教訓・反省:
健康被害や死者が発生している今回の事例では、迅速かつ正確に原因究明(試験検査)をする必要があった。すでに、ノウハウを持っている地研や国衛研からの情報、資料を参考にして、分析法の検討を行なうことになったが、今回、地研・国衛研間の情報交換が速やかに行なわれたことから、迅速かつ適切な試験が可能となり、健康危機事例に適切に対応できた。このような健康危機事例の発生時に原因究明に迅速・適切に対応するためには、日頃から、研究会、協議会、学会等に参加して人を知ることや情報収集しておくことが大切なことと痛感された。

現在の状況:
技術的には甲状腺末、N-ニトロソ-フェンフルラミンの分析についてはメソッドが確立している。また、当所では、LC/MS等の機器を保有しているのですぐに対応可能な体制である。

今後の課題:

問題点:

関連資料:
1)甲状腺末を含有する痩身用健康食品の監視指導について(平成13年6月20日医薬監麻発第785号)
2)痩身用健康食品と称した未承認医薬品等の監視指導について(平成14年7月17日 医薬監麻発第0717004号)
3)健康食品による健康被害事例に対する取組みについて(平成14年7月19日食新発 第0719002号)
4)中国未承認医薬品による健康被害について(平成14年7月22日医薬監麻発第0722008号)
5)いわゆる健康食品と称する無承認無許可医薬品の監視指導について(平成14年7月29日医薬監麻発第0729009号)
6)いわゆるダイエット用健康食品による健康被害の防止に当たっての留意点について(平成14年8月28日医薬発第0828003号)
7)健康被害が報告されている未承認医薬品等の輸入時の取扱いについて(平成14年8月28日医薬発第0828011号、医薬発第0828012号、医薬発第0828013号)
8)個人使用目的で輸入される健康被害事例が報告されている健康食品の取扱いについて(平成14年8月28日食検発第0828001号)
9)無承認無許可医薬品の監視指導について(平成14年9月5日医薬監麻第0905001号)10)「健康食品・無承認無許可医薬品健康被害防止対応要領」について(平成14年10月4日医薬発第1004001号)
11)個人輸入された無承認無許可医薬品の監視指導について(平成14年10月31日医薬監麻発第1031001号)
12)「N-ニトロソ-フェンフルラミンの分析法について」厚生労働省医薬局監視指導・麻薬対策課(平成14年7月24日、事務連絡)
13)Kosaka, T., Hamada, H., Analysis of thyroid harmones in health foods by LC/MS. Shokuhin Eiseigaku Zasshi (J. FoodHyg. Soc. Japan), 43, 25-229(2002).
14)"The United States Pharmacopeia" 24th, United States Pharmacopeial Convention Inc., 2000, p.1655-1656.
15)日本薬局方解説書編集委員会編“第14改正日本薬局方解説書”東京,廣川書店,2001, p. D-359-D-363.