[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:姫路市環境衛生研究所
発生地域:兵庫県他2府3県(11自治体)
事例発生日:2002年4月27日
事例終息日:2002年5月15日
発生規模:
患者被害報告数:45名
死亡者数:0名
原因物質:腸管出血性大腸菌O157
キーワード:腸管出血性大腸菌、O157、焼肉チェーン店、広域食中毒、遺伝子解析
背景:
人や物の流れが大量かつ瞬く間に行われるようになった現代、腸管出血性大腸菌、サルモネラ、赤痢菌等による腸管感染症の大規模化あるいは散在的集団発生(diffuse outbreak)が見られるようになった。
外食産業においても、食材の流通には一括仕入れを行い系列店への定期的な配達を行うなど、食品が流通の初期段階で汚染されていればその被害が広範囲なものとなる素地があった。
概要:
平成14年4月下旬から5月にかけて兵庫県および大阪府で、姫路市内に本社をおく「A社系列の焼肉店」を利用した腸管出血性大腸菌O157患者が発生し、5月7日姫路市保健所に、系列店舗における他の患者発生の有無についてそれぞれ照会があり、調査を開始した。
近隣府県市の協力を得て調査をした結果、事件終息までに把握したOO57陽性者は19店舗で喫食した6府県の29グループ45名であった。
30名の菌株および食肉から分離した菌株1件について遺伝子解析(PFGE)を行った結果、食肉由来の1株およびO157陽性者由来の25株(14施設)が同一のパターンを示した。
広い地域(2府4県)にまたがる焼肉店で喫食しているにもかかわらず、O157陽性者由来株は同じ遺伝子解析パターンを示し、O157陽性者に共通する食材は姫路市内の食肉処理施設で処理された食肉類であったことから、姫路市保健所は「A社カットセンター」を原因施設とする食中毒事例と断定し、5月18日に営業禁止処分とした(5月24日解除)。
原因究明:
・流通経路より事件発生時の「A社カットセンター」では、生食メニュー用食肉、焼メニュー用食肉、
内臓肉の処理を1つの処理室で行っていた。
O157陽性者が高率に喫食していたのは、ロース(77%)、ユッケ(62%)、塩タン(46%)であったが、全員が共通して喫食したメニューはなく、数種類の食肉類への汚染が疑われた。
「A社カットセンター」で取り扱う食肉類は、食肉センター、食肉処理業者、輸入業者等を経由する5つのルートがある。
高率に喫食した3品については、多くが「食肉センター→食肉処理業者→カットセンター」のルートであった。
カットセンターより以前の流通段階で菌の汚染拡大があったとすれば、他からも多数の患者が発生したものと思われる。
調査の途中で本事例のPFGEパターンと平成13年12月から14年1月に本市内の「A社系列店舗」利用者で発生したO157陽性者5名とのパターンが一致したことが判明した。
平成13年12月からのカットセンターでの食肉類の処理と流通を調査したところ、該当する食肉類はすべて数日間に処理され、本事例発生時には系列店で提供されたことはなかった。
・遺伝子解析より
「A社カットセンター」の食品79検体および施設ふきとり33件並びに「A社系列店舗」施設ふきとり10件の細菌検査を実施した。
「A社カットセンター」の食品3件より菌を検出したが、O157陽性者由来株と同一パターンのものはなかった。
兵庫県内の「A社系列店舗」カルビより菌を検出し、O157陽性者由来株と同一パターンを示した(この店舗でのO157陽性者はなかった)。
広い地域(2府4県)にまたがる14店舗の焼肉店で喫食しているにもかかわらず、O157陽性者由来株は同じ遺伝子解析パターンを示した。
今回の腸管出血性大腸菌O157による集団食中毒事例は、O157陽性者等の発生状況、喫食調査、細菌学的検査および遺伝子解析の結果から、原因食品の特定はできなかったものの、共通する食材は姫路市内の食肉処理施設で処理された食肉類であったことから、「A社カットセンター」を原因施設と断定した。
診断:
地研の対応:
2府4県11自治体で分離されたO157陽性者由来の30菌株のほとんどが、兵庫県立健康環境科学研究センターに集められ、遺伝子解析(制限酵素Xba Iを用いたPFGE型別)が行われた。
兵庫県内「A社系列店舗」カルビ由来の1株がO157陽性者由来の25株と同一のPFGEパターンを示した。国立感染症研究所に菌株を送付し、解析を依頼したが結果は同じであった。
本市においては、ふきとり,食品,便等の細菌検査および遺伝子解析は姫路市環境衛生研究所で実施した。
行政の対応:
・国及び関係自治体との連携
5月7日の兵庫県等からの情報をもとに「腸管出血性大腸菌感染症発生状況票」を作成し、5月8日「A社系列店舗」98店舗に関係する自治体に情報の提供を依頼した。
5月10日厚生労働省監視安全課に報告し、被害拡大防止策の指導を受けた。兵庫県と対応を検討し、協力を要請した。
5月13日遺伝子解析実施のため菌株の分与を依頼した。
・相談窓口の開設と予防対策会議の開催姫路市保健所は、腸管出血性大腸菌感染症として届られた5月10日以降相談窓口を開設した。
10日には、姫路市食中毒・感染症対策実施要領に基づき「調整会議」を開催し対応を検討した。
相談窓口の開設により3店舗14名より相談がよせられ検便を実施した。
・消毒その他の措置
「A社カットセンター」施設内の清掃、消毒の徹底、従業員の衛生教育、作業区分の確認、冷蔵庫の温度確認、提供時の焼き肉用トングの用意、消毒液の設置等を指示し、報告書を提出するよう指導した。
・健康診断の実施
聞き取り調査で把握したO157陽性者の家族等接触者について、健康状態の確認及び検便を実施した。
管内2家族17名及び関連施設喫食者14名を対象に延べ35検体の検便を実施した。
検査の結果、親戚から1名の菌陽性者を発見した(中学生、焼肉を喫食)。
地研間の連携:
国及び国研等との連携:
事例の教訓・反省:
詳細な疫学解析を目的に、PFGEによる遺伝子解析を行った。その結果、今回の事例に関連したとされるO157陽性者から分離された菌株は、同一のパターンであった。
このことから、広域的な集団発生事例では行政間の連携を密にし、PFGEを用いた疫学調査システムを構築し活用することが有効と思われた。
統計学的に原因食品を追及するためには、O157陽性者の同行者の喫食調査も行うべきであるが、当初は、各々の系列店での感染症発生に伴う調査が実施されていたため、喫食調査はO157陽性者にしか行われず原因食品の追及ができなかった。
今回のように、喫食者が不特定で追跡調査が困難な事例の場合、症例対照研究で調査を行う方法もあった。
O157患者発生に際しては、感染症担当者が先行して調査を開始するため、食品担当との連絡調整が不可欠である。
今後、食品衛生・感染症行政および地研間の連携をよりいっそう密にすることが重要と思われる。
現在の状況:
今後の課題:
問題点:
関連資料: