[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性感染症
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:福岡市保健環境研究所
発生地域:福岡市J区
事例発生日:2002年6月26日
事例終息日:2002年7月27日
発生規模:
患者被害報告数:感染者数 112名
死亡者数:0名
原因物質:腸管出血性大腸菌O157(VT2)
キーワード:腸管出血性大腸菌,集団感染,O157,保育園,パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE),キュウリ
背景:
腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia coli)による感染症は,全国的に,毎年3,000人以上の報告がなされ,1996年の堺市の小学校での大規模な集団感染事例以降も小規模ながら依然として保育所,福祉・養護施設,病院等における集団発生や,牛タタキ・ローストビーフ,ビーフ角切りステーキや和風キムチを原因食品とする広域事例(diffuse outbreak)も報告されている.
福岡市においては,年間100人前後の腸管出血性大腸菌感染者が確認されているが,今回,市内保育園において「キュウリの浅漬け」が原因と推察された集団感染事例が発生し,感染者112名(初発患者含む)が確認されたので報告する.
概要:
2002年6月,福岡市内の某保育園において腸管出血性大腸菌O157の集団感染事例が発生した.6月26日,初発患者からの本菌検出に伴い,延べ1,540名の検便と調査を行い,112名の感染者(初発患者含む園児86名,職員14名,園児の家族12名)が確認された.保育園では給食を提供していたことから,保存食129検体(調理済み食品59検体,原材料70検体),給食室残品121検体,調理場のふき取り6検体,園が購入した食品の製造施設のふき取り等142検体,食品製造所従業員検便64検体および園内の使用水,砂場の砂,貸しおむつ,ペット等の飼育水等の検体21検体について検査した結果,6月21日の給食に供された「キュウリの浅漬け」から本菌が分離された.
すべての分離株はVT2を産生し,疫学的調査およびパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)等による解析の結果,すべて同一菌と推察された.
原因究明:
終息までの約1ヶ月間に園児,職員,園児家族等および園が購入した食品の製造所従業員等のべ1,540名の検便を実施し,園児80名,職員13名,園児家族等11名および給食に供された「キュウリの浅漬け」(保存食)からO157が分離された.分離菌はすべてO157(VT2)で制限酵素Xba IによるPFGEは同一のパターンを示した.
医療機関を受診して感染が確認された者を含めると感染者数は園児86名,職員14名,園児家族等12名の合計112名(初発患者を含む)となった.これら感染者112名のうち有症状者は90名(80.4%)と感染者の約8割を占め,有症状者のうち20名(園児19名,職員1名)が入院加療を要した.入院患者のうち11名(菌陽性者の9.8%,有症状者の12.2%)は溶血性尿毒症症候群(HUS)と診断され,6名(菌陽性者の5.4%,有症状者の6.7%)に脳症の合併が認められた.透析治療がなされた者は5名であった.
保存食である「キュウリの浅漬け」からO157(VT2)が分離されたが,「キュウリの浅漬け」の製造所から採取された85検体および従業員検便からはO157を検出することはできず,浅漬けの製造過程,保育園での保管状況および調理過程のどの行程で汚染されたのか解明することはできなかった.
診断:
地研の対応:
市内保育園に通園している6歳女児からO157(VT2)が検出されたことに伴い,全園児および職員の検便を実施した.また,保育園では給食を提供していたことから,発症日前日までの9日間の保存食129検体(調理済み食品59検体,原材料70検体),保存食以外の給食室残品121検体,給食施設のふき取り6検体,園内の使用水,砂場の砂,貸しおむつ,ペット(カメ)の飼育水等の環境調査と検体採取21検体,園が購入した食品の製造施設のふき取り等142検体についてもO157の検査を開始した.
行政の対応:
原因究明と再発防止を目的として感染症危機管理対策本部が設置された.対策本部は,防疫・臨床・感染経路の3班が組織され,各班それぞれ活動・検討をすすめた.
地研間の連携:
国立感染症研究所FETPに支援を要請。
国立感染症研究所へ食品由来株と患者由来株のDNA解析を依頼。
2003年10月,沖縄県で開催され第29回九州衛生環境技術協議会にて報告。
国及び国研等との連携:
事例の教訓・反省:
保育園としては,「キュウリの浅漬け」は生ものとして取り扱うべきで,本来,加熱,消毒をしていないものは提供してはならないものである.園の給食施設における取り扱いについても,食品衛生上,生ものの前日購入,保管,カットから園児が喫食するまでの時間的経過等,細菌汚染および増殖の可能性がいくつか見受けられたことも調査の結果判明している.今後は,「大量調理施設衛生管理マニュアル」に基づき,行政としてマニュアルの指導を徹底し,食中毒予防に最大の注意を払っていく必要があると思われた.
現在の状況:
今後の課題:
問題点:
関連資料:
1) 尾﨑延芳,他:「キュウリの浅漬け」が原因と考えられた保育園における腸管出血性大腸O157集団感染事例-福岡市.病原微生物検出情報,24, 6, 132~133,2003
2) 尾﨑延芳,他:「キュウリの浅漬け」が原因と推察された腸管出血性大腸菌O157の集団
感染事例,福岡市保健環境研究所報,28, 120~124, 2003