No.1035 巻貝による食中毒事例

[ 詳細報告 ]
分野名:自然毒等による食中毒
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:都府保健環境研究所
発生地域:大阪府寝屋川市(購入場所:京都府網野町)
事例発生日:2002年12月
事例終息日:
発生規模:
患者被害報告数:被害者数 4名(うち入院1名)
死亡者数:0名
原因物質:テトラミン
キーワード:巻貝、エゾボラモドキ、唾液腺、テトラミン、神経症状

背景:
平成14年12月に巻貝(エゾボラモドキ等)が原因と考えられる食中毒事例が発生した。

概要:
京都府内の魚介類販売業者から生の巻貝を10個購入し、当日7個を大阪府内の自宅で塩ゆでにし、4名で分けて喫食した。家族のうち、貝を食べたもののみ1~1.5時間後、目の焦点があわない、ふらつく、しびれなどの神経症状を発症した。4名のうち3個食べたもの1名は入院、他3名は翌日には回復した。患者が購入した場所での巻貝の仕入れ・販売状況、巻貝が貝毒テトラミンを有するエゾボラモドキ等か否かを調査した。食中毒の再発防止のために、旅館営業者・魚介類販売業者に巻貝の貝毒テトラミンによる食中毒の予防方法についての啓発を行った。

原因究明:
喫食した巻貝がエゾボラモドキかチヂミエゾボラで食中毒の原因食品ではないかと疑われたことから、購入場所で当該食品エゾボラモドキを収去し、テトラミン含有量を比色法により測定した。

診断:

地研の対応:
残食の検査は大阪府で行われた。京都府では、患者が巻貝を購入した場所で当該食品を収去し、テトラミン含有量の検査を行った。その結果、次のような結論が得られた。
1)巻貝の毒性成分テトラミンの含有量は、エゾボラモドキ1個(貝全体130~156g、唾液腺2.2~4.4g)あたり10.8~30.4mgであった。
2)過去に報告されている中毒を起こす量は10~450mgとなっており、検査した当該食品1個あたりには報告されている最低中毒量を上回るテトラミンが含まれていたので、1個の喫食で中毒を起こす可能性があると推定された。

行政の対応:
入院した病院が大阪府内であったことから、大阪府に届けられ、大阪府から京都府に通報連絡があった。喫食した巻貝がエゾボラモドキかチヂミエゾボラで食中毒の原因食品ではないかと疑われたことから、京都府に1)購入場所の特定、2)患者が購入した日前後の当該食品の仕入れ・販売数量、3)仕入先、4)エゾボラモドキ等の貝毒を有する貝であるか否かの確認調査の依頼があった。
原因究明のために行った検査の結果から、巻貝の貝毒テトラミンによる食中毒であり、魚介類販売業者の販売時の説明が不十分であったことが示唆されたので、同種事件の発生予防に資するために、唾液腺を除去して販売、または、処理方法を十分説明して販売するよう、当該食品販売所を所管する保健所から管内の飲食店営業・魚介類販売業の営業者に対して通知を行った。

地研間の連携:
京都府保健環境研究所で行った当該食品の検査結果を大阪府立公衆衛生研究所へ報告した。

国及び国研等との連携:

事例の教訓・反省:
巻貝の貝毒テトラミンによる食中毒は、京都府では平成12年、13年にも発生しており、昨今の食品流通の広域化、販売方法の多様化に伴い、当該食品に含まれる毒性成分についての知識が十分でない消費者が購入・喫食する機会が増えていると考えられることから、広報紙(京都府保健環境研究所だより)や京都府保健環境研究所ホームページで府民啓発を行っていた。今回、唾液腺を除去するよう販売時に説明することを飲食店営業・魚介類販売業の営業者に保健所から通知した。事例の発生した食品販売所のある保健所管内だけでなく、広く啓発を行うことが望まれる。

現在の状況:
巻貝による食中毒事例については、京都府保健所職員を対象とした研修や府、市町村及び民間の保健福祉・環境衛生関係者を対象とした調査研究発表会で報告し、知識の普及に努めている。また、京の食”安心かわら版”ホームページでも知識の普及を行っている。

今後の課題:
本食中毒の予防のための販売業者、消費者への啓発活動による知識の普及。
魚介類の同定を行うための関係機関との連携。

問題点:
本食中毒の予防のための販売業者、消費者への啓発活動による知識の普及。
魚介類の同定を行うための関係機関との連携。

関連資料:
1) 八島哲、茶谷祐行、棟久美佐子、北野隆一、大藤升美、井上知明、小松正幹:巻貝による食中毒事例について、京都府保環研年報、第45号、1(2000)
2) 北野隆一、茶谷祐行、大藤升美、八島哲、井上知明、小松正幹:HPLCによる巻貝中のテトラミンの定量、京都府保環研年報、第45号、5(2000)
3) 大藤升美、茶谷祐行、北野隆一、八島哲、井上知明、小松正幹:比色法による巻貝中のテトラミンの定量、京都府保環研年報、第45号、9(2000)
4) 京都府保健環境研究所だより:66号(2000)
5) 内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療-(改訂第2版)、483、南江堂、東京(2001)
6) 塩見一雄、長島裕二:海洋動物の毒-フグからイソギンチャクまで-、127、成山堂書店、東京(1997)
7) 新藤哲也、牛山博文、観公子、齋藤寛、桒原康裕、上原真一、安田和男:イオンクロマトグラフィーによる巻貝(軟体動物)中テトラミンの分析及び調理による消長、食衛誌、41、1、11(2000)
8) 橋本芳郎:魚介類の毒、24、学会出版センター、東京(1977)
9) 成田弘子:巻貝による食中毒、食衛誌、26、549(1985)
10) 小林香夫:巻貝によるテトラミン中毒、食衛誌、31、424(1990)
11) 京都府保健環境研究所ホームページhttp://www.pref.kyoto.jp/hokanken/
12) 京の食”安心かわら版””ホームページhttp://www.pref.kyoto.jp/shoku-kawaraban/

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