[ 詳細報告 ]
分野名:その他
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:東京都健康安全研究センター
発生地域:東京都多摩地区
事例発生日:2002年2月
事例終息日:
発生規模:
患者被害報告数:患者・被害者数0名
死亡者数:0名
原因物質:レジオネラ属菌
キーワード:レジオネラ、公衆浴場、浴槽水、循環式浴槽、塩素処理
背景:
2001年12月27日、板橋区内の普通公衆浴場(銭湯)の薬湯槽に入浴中の同区内の男性(77才)が、意識障害をおこし浴槽水を嚥下した。この男性は同区内の大学病院に救急搬送された。同病院で慢性硬膜下血腫が発見され、直ちに手術の処置を受け、29日に一旦病状回復がみられた。
しかし、翌年1月2日に呼吸困難をおこし、X線所見からレジオネラ肺炎の疑いと診断
され、1月5日にレジオネラ肺炎による呼吸不全で死亡した。
1月10日、板橋区保健所では4類感染症発生届を受け、同日に当該施設の浴槽水を採取し、レジオネラ属菌検査を実施するとともに、11~12日に施設設備の洗浄、消毒を指示した。
その結果、1月17日薬湯から84CFU/100mLのレジオネラ(Legionella pneumophila)が検出された。1月20日、遺伝子検査の結果、本菌は患者の尿から分離された菌株(L. pneumophila SG1)と遺伝子パターンが一致した。このような疫学的調査及び細菌学的検査成績により、本事例は、銭湯の薬湯槽に生息していたレジオネラ属菌による肺炎死亡事例と断定され、1月21日プレス発表された。
概要:
背景に記載した全国でも初めての、銭湯におけるレジオネラ肺炎死亡事例を契機に、東京都衛生局生活環境指導課(現:健康局地域保健部環境衛生課)は、公衆浴場業及び旅館業における入浴施設の衛生指導の徹底(13衛生指第385号平成14年1月18日)を図るとともに、緊急監視指導を行った。
調査対象は、「公衆浴場の設置場所の配置及び衛生措置等に関する条例」に基づき分類された東京都多摩地区の「普通公衆浴場」113施設(全数)及びソープランドを除く「その他の公衆浴場」151施設(ほぼ半数)、計264施設であった。
264施設の浴槽水の採取は、プレス発表した翌日の1月22日~2月1日にかけて行なわれ、当研究科に搬入後直ちに供試された。なお、レジオネラ属菌を2CFU/100mL以上検出したものについてはそれぞれ対策を講じた後、再検査した。調査結果の概要は以下の通りである。
1)「普通公衆浴場」からのレジオネラ属菌検出率は23.9%であった。
2)「その他の公衆浴場」からのレジオネラ属菌検出率は36.4%であった。
3)分離されたレジオネラ属菌を同定したところ、全てL. pneumophilaでその血清群は6群、5群、1群の順に多かった。
4)「普通公衆浴場」では浴用剤使用の浴槽水からの検出率は39.3%であり、不使用では
18.8%と低率であり、浴用剤使用の有無とレジオネラ属菌の検出率の間に有意差が認められた。
5)レジオネラ属菌が検出された各施設について改善対策を実施した結果、最終的には
264施設のうち、90.2%(238施設)が不検出(2CFU/100mL未満)となった。対策としては配管・ろ過器の洗浄・消毒が有効であり、塩素処理の強化や浴槽の洗浄、換水等では不十分であった。
原因究明:
診断:
地研の対応:
行政の対応:
東京都健康局は、これらの緊急調査を活用し、2003年4月1日にレジオネラ症防止対策を目的として「公衆浴場の設置場所の配置及び衛生措置等に関する条例」及び「旅館業法施行条例及び旅館業法施行細則」の一部改正を施行した。
地研間の連携:
国及び国研等との連携:
事例の教訓・反省:
現在の状況:
今後の課題:
高齢者が利用する社会福祉施設及び公共性の高いプール施設等を対象に、レジオネラ属菌の主要な生息場所の解明を行い、維持管理のポイントを施設管理者等に情報提供する必要がある。
また、現在の試験方法では菌を検出するのに時間が長くかかるため、迅速検査法の開発が望まれる。
問題点:
関連資料:
1) 「多摩地域における入浴施設水のレジオネラ属菌汚染緊急調査とその対策事例(平成13年度)」楠くみ子他、東京都立衛生研究所研究年報、第53号、14ー19(2002)
2) 「公衆浴場浴槽水のレジオネラ属菌調査とその対策事例」岩谷美枝他、病原微生物検出情報、第24巻、第2号、7ー8(2003)
3) 「銭湯を感染源とするレジオネラ肺炎による死亡事故について」上野邦夫、生活と環境、第47巻、第6号、24ー26(2002)