No.1061 SARSが疑われた症例の診断

[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:富山県衛生研究所
発生地域:富山県
事例発生日:2003年4月18日
事例終息日:2003年5月6日
発生規模:散発
患者被害報告数:被験者1名
死亡者数:
原因物質:ラチフスA
キーワード:SARS、危機管理

背景:
SARSに関する十分な臨床情報、疫学情報がなく、医療現場においての対応策に関しても体系的なものができていなかった。

概要:
3月24日から27日まで中国上海に滞在し、帰国した56歳男性が帰国後9日目(4月5日)に悪寒・発熱を呈し(病院受診なし)、4月10日37.5℃の発熱、病院を受診した。その後、発熱は39.2℃(4月18日)まで上昇し、呼吸器症状(咳、痰)があったため、担当医が感染症2種指定医療機関に相談するも、可能性例ではない(胸部レントゲン(-))ため現場での対応を求められた。
4月18日、「SARSであれば院内感染が懸念されること。」から、担当医より保健所への問い合わせがあり、「中国の情報が矮小化されている可能性があり、上海が当時伝播確認地域でなかったが、情報に信頼性がなかったこと。」、「患者の発熱原因が不明であること。」などから適切な対応を求められた。保健所においては情報収集とそれまでの情報の提供、県庁担当課では連絡調整、衛生研究所では検査対応を行った。
4月19日、衛生研究所職員が病院に出向き、病室内でインフルエンザ、アデノウイルス、RSウイルス、レジオネラ、マイコプラズマ抗体のキットを用いた迅速診断を行うもすべて陰性。必要な臨床検体、咽頭拭い液、血清を研究所に持ち帰り、レジオネラ、クラミジアについて抗原検査を実施、陰性。ウイルス分離(VeroE6、LLC-MK2、MDCK、Hep2細胞)を実施した。
約2週間後、病院検査室でパラチフスAが検出され、感染症2種指定医療機関に移送、パラチフスに適切な治療を実施したことにより、患者は寛解・退院。
衛生研究所での分離培養は2代継代後もウイルス陰性。パラチフスAの報告より、分離培養を中止した。

原因究明:
患者の疫学情報の解析を行うとともに、各種病原体診断を実施。

診断:

地研の対応:
各種呼吸器感染症の迅速診断キットの提供と実施、SARSコロナウイルスを含めた各種ウイルスを対象としたウイルス分離を実施した。

行政の対応:
保健所と本庁担当課が連携し、情報収集ならびに提供、各機関の調整を行った。

地研間の連携:
なし

国及び国研等との連携:
なし

事例の教訓・反省:
事例発生時は、情報が混乱し、各機関の連携が体系化されていなかった。迅速診断キットに関しては医療機関で実施することとしていたが、実際にはキットの使用実績がないことから衛生研究所職員が検査を行うことになった。N95その他の個人防御資材は完備していたものの、衛生研究所職員が病室に入室し、患者の前で検査を行うことになったのは、病院現場での感染防御等の指示体制が十分整備されていなかったことを意味する。
また、今回の事例のように非定型的に呼吸器症状を呈するような場合、SARSに限らず緊急の健康危機事例に対して現場が混乱する恐れがあることを示しており、感染症に対する十分な経験のある医師の確保が望まれる。

現在の状況:
富山県SARS対応計画に従って各機関が連携する。各機関の必要資材、施設、訓練は継続して充実させている。

今後の課題:
臨床現場、検査担当機関、行政担当を調整できる部門(例、地方感染症情報センター)の強化、また、臨床現場に出向き、現場で適切な指示、連絡調整ができる実地疫学の専門家の育成、確保が課題と考えられる。

問題点:

関連資料:
なし