[ 詳細報告 ]
分野名:化学物質による食品汚染
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:静岡市衛生試験所
発生地域:全国
事例発生日:2002年7月
事例終息日:2003年2月8月
発生規模:
患者被害報告数:健康被害事例671名
死亡者数:3名
原因物質:N-ニトロソフェンフルラミン、甲状腺ホルモン
キーワード:健康食品、未承認医薬品、健康被害、N-ニトロソフェンフルラミン(N-NFA)、甲状腺ホルモン、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)
背景:
概要:
2002年7月、中国から個人輸入した健康食品の飲用後に肝機能障害等の健康被害を発生した事例について、複数の医療機関から厚生労働省に情報提供があった。調査の結果、関連する3製品からフェンフルラミン(食欲抑制剤)の誘導体であるN-ニトロソフェンフルラミン(以下、「N-NFA」という。)がいずれも高濃度で検出され、医薬品である乾燥甲状腺を含有する製品も確認された。厚生労働省は、N-NFAは医薬品成分ではないが、フェンフルラミンと類似の効果も考えられることから医薬品類似成分として扱うのが適当であると判断し、直ちに商品名を含めて報道発表して国民に注意を喚起した。また、同省は都道府県等に対し、医薬品成分または医薬品類似成分を含有する健康食品は未承認医薬品として取扱い、その指導・取締りを徹底するよう通達を出し、併せて医薬品成分の分析法についても通知した。
市内のA業者が中国から輸入した原材料で製造したダイエット食品によると思われる健康被害が、大阪府、東京都、兵庫県などで発生したとの通報があり、静岡県環境衛生科学研究所に同製品の検査を依頼した。その結果、N-NFAが約1.5%検出されたため、行政による調査指導と並行して、当所でも早急に液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)で分析を行える体制を整え、その後、同製品がN-NFAを約1.5%含有することを確認した。
2003年8月27日現在、厚生労働省発表による全国の健康被害事例は671人、うち死者3人(A業者の製品によるものは、うち34人、死者0人)である。
原因究明:
調査の結果、業者が故意に当該成分を混入させたわけではなく、中国側の業者が製品の効果を追求するあまり混入させた可能性が高いが、それがどの段階であるかは不明である。
診断:
地研の対応:
当所においては、設置後間もなく熟練不足であったLC/MSを用いて、早急に検査に対応できるようにした。当所での検査状況は次のとおりで、うち、A業者の製品や原料混合バルクからN-NFA、甲状腺ホルモン(甲状腺組織、チログロブリン結合型チロニンおよびチロキシン)が検出された。
・A業者の製品、その原材料8種類および原料混合バルク(H.14.8)
・市内のB業者が中国産の原材料で製造した別製品(H.14.8)
・痩身効果を標ぼうする中国産健康茶(H.15.6)
・健康食品による健康被害ではないかと医療機関から指摘された患者の飲用品10検体(H.15.8)
行政の対応:
薬務担当課は、静岡県環境衛生科学研究所の検査結果を受け、未承認医薬品として薬事法違反でA業者に同製品の販売中止を指示し、商品の回収を命令した。また、同社の製造受託先である市外の業者には静岡県が製造中止を指示した。
食品衛生担当課は、薬務担当課と合同で、ほかに未承認医薬品に該当するような事例がないか、管内の健康食品製造業者に立入検査するなどの監視指導を行った。
両課とも市民等からの相談に応じるなどする一方、未承認医薬品に該当するおそれのある製品や健康被害との関連が疑われる製品については、当所に検査を依頼した。
地研間の連携:
査できる体制になかったため、静岡県環境衛生科学研究所に検査をお願いした。また、同所からは検査方法の指導や情報の提供を受ける一方で、当時市販されていなかったN-NFAの標準品の代替として、同所において合成したものを提供していただいた。なお、甲状腺の組織学的検査は市立静岡病院臨床検査技術科に検査をお願いした。
国及び国研等との連携:
事例の教訓・反省:
輸入食品の増加に伴う食品の安全性に対する市民の不安は根強く、その要因として日本と他国の規制が異なることや他国の状況が把握しにくいことがあげられる。
衛生研究所等においてはルーチン検査に留まらず、不測の事態を想定した人的・機器的な検査体制の整備が望まれる。また、情報のネットワーク化による迅速な情報伝達や、関連する試験研究機関の協力体制の充実なども重要である。
現在の状況:
流通する食品の多様化・国際化をはじめ、個人輸入による食品摂取など、地方行政機関単独ではその安全性の確保はできない状況にある。そのため、早期の情報入手に努めるなど、適切な対応がとれるよう心がけている。
今後の課題:
公的試験検査機関としては、緊急事態発生時には迅速に対応できるように、分析技術者の研修、分析機器等の整備、情報の早期入手と共有化などが望まれる。
問題点:
関連資料: