[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:福岡県保健環境研究所
発生地域:福岡県およびその近隣他県
事例発生日:2003年9月11日
事例終息日:2003年9月16日
発生規模:
患者被害報告数:289名中171名が食中毒症状を示す
死亡者数:
原因物質:eaeA遺伝子を検出した大腸菌O20
キーワード:大腸菌、食中毒、eaeA、O20
背景:
下痢原性大腸菌による食中毒は、様々な病原因子によって多様な臨床症状を呈し、感染源も多様である。今回の事例は狭義の腸管病原性大腸菌(EPEC)を原因とする食中毒であった。EPECによる食中毒事例の報告数は少なく、また、今回の事例では比較的多数の患者が発生し、発生場所のある他県と連携しつつ病原菌の検索を行うなど、特徴のある事例であったので報告する。
概要:
県内の中学校において、1年生の生徒及び教職員等が、平成15年9月10日から12日にかけて、県外の民間施設に研修旅行に出かけた。その後、11日の正午ごろから、16日にかけて、食中毒症状を呈するものが現われ、289名中171名(59.2%)が腹痛、下痢、発熱、嘔気、嘔吐、頭痛、悪寒あるいは倦怠感のいずれかの症状を示した。嘔吐するものは比較的少なく、腹痛と下痢が主症状で、発熱を呈するものは30%程度、かつ37℃台の発熱を示す者が最も多く、39℃以上を示す者は少なかった。
原因究明:
PCRによる大腸菌遺伝子の検査で、eaeAと考えられる遺伝子を検出したので、eaeAを有する大腸菌の単離を試みた。その結果、27名中8名の糞便からeaeAを保有する血清型O20:H6を分離し、1名からO型別不能:H34を分離した。PCR産物の塩基配列を決定したところ既知のeaeAとほぼ一致し、PCRにて検出した遺伝子が真にeaeAであると同定した。eaeAを有する大腸菌は、腸管病原性大腸菌(EPEC)であると広く認知されていること、また他の食中毒細菌あるいはウイルスが検出されていないことから、この事例の病因物質は、腸管病原性大腸菌O20:H6であると結論付けた。他県にある原因施設の環境から分離された大腸菌とパルスフィールド・ゲル電気泳動による遺伝子型別を実施した。その結果、患者分離株と環境分離株は異なる遺伝子型を示した。
診断:
地研の対応:
食中毒細菌検査により対応した。この事例の病因物質は、腸管病原性大腸菌O20:H6であると結論付けた時点で、直ちに県庁主管課に連絡した(保健所[保健福祉環境事務所]には県庁主管課より連絡)。また、原因施設のある他県の衛生研究所と連携し、感染の実態把握、感染源調査に役立つ検査結果を得るため、原因施設から分離された大腸菌と遺伝子型を比較した。
行政の対応:
原因施設のある他県および当研究所と連携して原因究明に努め、結果を医療機関等の関係諸機関に周知した。
地研間の連携:
原因施設から分離された大腸菌の分与を受けた。
国及び国研等との連携:
本事例では特になし。
事例の教訓・反省:
他県との連携が比較的円滑に行われた。連携には日常の情報交換等が重要であることを再認識した。
現在の状況:
下痢原性大腸菌による食中毒は検査に比較的時間を要する。これは、遺伝子検査と菌分離の血清型との関連が整理されていないことも一因と考えられる。今後はこれらの情報をなお一層蓄積することが重要と考えられる。
今後の課題:
問題点:
関連資料:
第63回日本公衆衛生学会総会要旨集P15-005