No.1101 A群溶血性レンサ球菌による集団感染

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性感染症
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:東京都健康安全研究センター
発生地域:東京都S区
事例発生日:2003年9月8日
事例終息日:2003年9月11日
発生規模:
患者被害報告数:推定患者数 66名(母集団96名)
死亡者数:0名
原因物質:A群溶血性レンサ球菌 T-28型
キーワード:A群溶血性レンサ球菌感染症・集団感染・咽頭

背景:
A群溶血性レンサ球菌(以下レンサ球菌という)咽頭炎の好発年令は幼児及び学童で、冬季に多く認められる疾患であり、主症状は咽頭痛、発熱などである。本事例の患者は中学生および教師等であり、9月の比較的高温の時期に発生した。

概要:
母集団は2003年9月8日から11日までの予定で、修学旅行に来ていた生徒86名と教師等10名で、8日はS県から電車に乗り、O駅で新幹線に乗り換えた。車内で昼食をとり、到着後都内2施設を見学ののちAホテルに入った。9月8日の夜から66名が発熱及び咽頭痛を呈した。発症者は8日22時に1名、9日に24名、10日に36名、11日に3名、12日に1名、不明は1名で1峰性の患者発生がみられた。60名が医療機関を受診し(東京39名、川崎7名、横浜14名)都内の病院で受診した39名中12名が入院した。9月10日12時10分、Aホテルから管轄のS保健所食品衛生担当に「発熱、咽頭痛の修学旅行生がおりその対処法について」の相談があり本事例が明らかとなった。ほぼ同じ時刻に、病院からも保健所の感染症担当に、レンサ球菌の簡易検査を実施した39名中36名が陽性であると相談があった。

原因究明:
入院した患者12名中10名の咽頭拭い液からレンサ球菌T-28型が検出された。しかしながら宿泊施設の保存検食、ふき取り検体、調理従事者の咽頭拭い液からレンサ球菌は検出されなかった。また、新幹線内の昼食用弁当を製造した業者施設のふき取り検体からも、レンサ球菌は検出されなかった。

診断:

地研の対応:
保健所からの依頼にもとづき原因究明のため細菌検査を実施した。

行政の対応:
S保健所の感染症担当と食品衛生担当が共同で調査を実施した。宿泊施設の調理関係のふき取り、収去、食品の取り扱い状況、調理従事者の健康調査及び咽頭拭い液の採取、修学旅行生および教師等には聞き取り調査とアンケート調査を行った。東京都健康局の食品監視課食中毒調査係は新幹線内で食べた弁当にレンサ球菌汚染の疑いがあるとして、O市保健福祉局に調査を依頼した。O市保健福祉局は弁当製造業者に対し各種聞き取り調査及び調理場、調理者の手指ふき取り検体からの食中毒原因菌検査を実施した。

地研間の連携:

国及び国研等との連携:

事例の教訓・反省:
調査を担当したS区保健所は1998年にレンサ球菌による食中毒を経験しており、また医療機関からレンサ球菌簡易検査の結果報告もあったことから、レンサ球菌食中毒を考慮し調査を開始することが可能であった。食品を介したレンサ球菌集団感染が疑われる場合、食品からの菌分離は困難であるが、調理従事者は無症状であっても咽頭から分離される可能性が高く、調理従事者の咽頭拭い液検査は必須である。本事例では8日の昼食用弁当を製造した業者は検食を保存しておらず、調理従事者の咽頭拭い液検査も実施されなかったことが反省点としてあげられる。さらに、この様なレンサ球菌による集団感染事例の場合咽頭拭い液採取等医療行為的な面もあり、感染症担当及び食中毒担当の両者で調査を行うことが重要である。

現在の状況:

今後の課題:

問題点:

関連資料:
1)笹井勉,他:修学旅行生のA群溶血性レンサ球菌による集団有症事例について.平成16年度・東京都食品衛生監視員協議会研究発表会抄録,7,2004