No.1102 Vibrio cholera O8感染事例(福岡県)

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性感染症
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:福岡県保健環境研究所
発生地域:福岡県三潴郡
事例発生日:2003年8月21日
事例終息日:2003年8月30日
発生規模:
患者被害報告数:1名
死亡者数:0名
原因物質:Vibrio cholera O8
キーワード:Vibrio cholera O8、NAG、コレラトキシン、食中毒

背景:
血清型O1及びO139でコレラトキシン(CT)産生性あるいはCT遺伝子保有V. choleraeの感染症は2類感染症のコレラとなる。しかし、O1及びO139に凝集しないV. choleraeは、CT産生性あるいはCT遺伝子保有であっても2類感染症ではなく5類感染症の感染性胃腸炎及び食中毒菌として取り扱われる。本事例の場合、菌分離当初は行政的に2類感染症として取り扱われた。しかし、当該菌株がO1及びO139非凝集であることが判明し、2類感染症としては取り扱われなかった。

概要:
患者は昭和39年に胃の部分切除を行っている78歳男性であった。2003年8月21日頃より下痢ないし軟便(2~3回/日)を呈していたが、軽症であったため、医療機関を受診していなかった。しかし、8月26日から発熱(38.5℃)を伴うようになり医療機関を受診し、同日検便を行った結果8月28日当該菌が検出された。医療機関で点滴とホスホマイシンが投与され、8月28日時点では熱も下がり、下痢も見られなかった。患者は渡航歴がなく、食事は外食などなく家庭で調理したものを喫食していた。患者家族5名に同一症状を呈したものはなかった。

原因究明:
菌株のCT遺伝子保有の有無については、PCR法に拠って実施した。また、O1及びO139についての凝集試験は非加熱菌及び加熱菌を用いてデンカ生研の仕様書どおりに実施した。

診断:

地研の対応:
2003年8月29日、所轄保健福祉環境事務所からコレラO1血清に凝集せず、O139にわずかに凝集が認められるV. choleraeが検出されたのでコレラ毒素の確認をして欲しい旨の連絡があった。送付された菌株は生化学性状検査の結果、V. choleraeであることが確認された。しかし、当該菌は市販のコレラ菌免疫血清(デンカ生研)による凝集検査ではO1混合血清に凝集せず、O139にもほとんど凝集が認められなかった。一方、当該菌はPCRによりCT遺伝子保有株であることが確認されたので、国立感染症研究所にO群血清型別を依頼した。その結果当該菌株はO8でありヘモリジン活性保有株でエルトール型であることが判明した。

行政の対応:
8/28:所轄保健福祉環境事務所に医師から疑似コレラの届け出があり、同日患者や家族について調査。
8/29:10:00所轄保健福祉環境事務所から当研究所に、接触者検便の搬入方法について相談がある。CT検査が未実施であるため、早急に菌株を搬入し、CT検査を実施することを勧める。
8/29:12:50本庁(福岡県・保健福祉部・健康対策課)からCT及びコレラ菌検査依頼がある。
同時に所轄保健福祉環境事務所から菌株及び検便が搬入される。
8/29:16:00当該菌株がCT遺伝子保有株であるが、O1及びO139血清に非凝集である旨を本庁に連絡する。
8/29:17:15接触者検便は中止され、同時に同事務所で準備されていた入院措置等の協議会は中止された。

地研間の連携:
特になし

国及び国研等との連携:
当該菌のO群血清型別等は、国立感染症研究所に依頼し実施した。

事例の教訓・反省:
早急な菌株の確保により、2類感染症としての入院措置前に当該菌株がO1及びO139非凝集菌であることが判明した。このことにより患者や行政的負担を少なくすることができた。
感染症発生時には早急な菌株の確保が望まれる。

現在の状況:
特になし

今後の課題:
1)O1及びO139非凝集V. choleraeの感染症法上の取り扱いについて
山井ら1)はO1及びO139非凝集V. choleraeについてO群血清型別を行い、血清型O8は1,898株中72株(3.8%)であると報告している。また、1,898株中37株(1.9%)がCT産生株であり、血清型O8は72株中2株(2.8%)がCT産生株であった。今後、腸管出血性大腸菌と同様にCT産生性あるいは遺伝子保有のV. choleraeを2類感染症として扱うべく検討が必要であると考えられる。

2)原因究明のあり方について
海外渡航歴のないV. cholerae感染症が近年増加しているが、原因物質や感染経路が究明されていない事例が多い。発生防止・二次感染拡大防止の観点からも積極的な原因究明調査が望まれる。

問題点:

関連資料:
山井志朗,沖津忠行,島田俊雄,勝部泰次:Vibrio cholerae non-O1, non-O139の血清型分布、その毒素産生性および新血清型の追加について.感染症誌,71, 1037-1045, 1997.