No.1112 給食用パンが原因として疑われるノロウイルスによる食中毒事例

[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:福井県衛生環境研究センター
発生地域:福井県高浜町
事例発生日:2002年1月28日
事例終息日:2002年1月31日
発生規模:
患者被害報告数:患者・被害者数 254名
死亡者数:0名
原因物質:ノロウイルス
キーワード:ノロウイルス、集団発生、給食用パン、食中毒、食品取扱者

背景:
かつてノロウイルスによる食中毒事例は、カキなどの二枚貝を生または加熱不十分で摂食し発症するパターンが典型例とされていたが、事例の集積にともない、調理従事者などの食品取扱者が排出するウイルスで汚染された食品が原因とみられる、二枚貝に無関係な事例が次々と明らかになってきた。疫学調査により給食用パンが原因食品と判断された、大規模なノロウイルス食中毒事例を経験したので報告する。

概要:
2002年1月28~31日にかけて、福井県高浜町内のA保育所・B保育所・C中学校の254名(届出患者数130名)が食中毒様症状を呈した。唯一の共通食品であったD製造所製造の28・29日給食用パンが原因食品と考えられた。発症者の内訳はA保育所97名(含む職員4名)、B保育所78名(同9名)、C中学校79名(同6名)で、給食用パン喫食者における発症率は、それぞれ66.9%、60.0%、21.6%であった。症状としては嘔気・嘔吐を訴える率が非常に高く、次いで腹痛、下痢、発熱、頭痛、悪寒、等の順であった。潜伏時間はA・B両保育所で約30時間前後、C中学校で約34時間と算出された。また2月1日には、既発症者の兄弟姉妹が下痢症状を呈し、医療機関を受診しているとの連絡があり、最終的に39名の二次感染を確認した。
発症者およびD製造所従事者(無症状)の糞便より検出されたノロウイルスが原因病原体とされたが、D製造所内の作業用手袋・調理台拭き取りからもノロウイルスが検出されており、D製造所内全体がノロウイルスにより汚染されていたことが疑われた。

原因究明:
調査の結果、共通食品として町内のD製造所が納入した給食用パンが推定された。このD製造所は、A・B両保育所およびC中学校の給食用パンのみを専属的に製造・納入しており、28日給食用パンがA・B両保育所へ、29日給食用パンがA保育所およびC中学校へ、それぞれ納入・喫食されていた。A・B両保育所の給食用パン以外の副食は、献立内容こそほぼ同じであるが、食材納入業者も調理過程も別々(それぞれ独立した給食室で調理)であった。C中学校における給食用パン以外の副食は、T町内の他の7小学校・2中学校と同じく町立学校給食センターで調理されていた(約1,400食)が、他の9小中学校で患者発生は見られなかった。なお、患者発生のなかった1保育所および9小中学校への給食用パンの納入は他の製パン業者が担当していた。これらのことから所轄保健所では、原因食品はD製造所製造の28・29日給食用パン以外にないとの結論に至った。
なお糞便(2月1日採取)がノロウイルス陽性を示したD製造所従事者は、必要量より多めに焼いて余ったパンを自宅に持ち帰り喫食することが習慣となっており、原因食品と目された28・29日給食用パンと同ロットのパンも喫食している。したがって、直接の感染源として製造時にパンを汚染した可能性もあるが、別の要因で汚染されたパンを喫食した後に感染した可能性も否定できない。いずれにしろ、D製造所内の拭き取りや調理用物品からもノロウイルスが検出されたこと、A・B両保育所の給食用パンはD製造所内で個包装されており以後汚染される機会が少なかったこと、を考慮すると、28・29日給食用パンがD製造所内でノロウイルスに汚染された疑いは強い。

診断:

地研の対応:
所轄保健所を通して搬入された事例関連検体について、食中毒菌および下痢症ウイルスの検査を行った。喫食発症者の糞便13/14名分・嘔吐物5/8名分、喫食無症状者の糞便0/3 名分、二次感染者の糞便3/3名分、D製造所従事者(無症状)の糞便1/2名分が、ノロウイルス陽性となった。さらに検出遺伝子配列の解析を、喫食発症者の糞便由来3検体(A保育所・B保育所・C中学校で各1検体ずつ)、喫食発症者の嘔吐物由来1検体(A保育所)、二次感染者の糞便由来1検体、D製造所従事者の糞便由来1検体の計6検体について行ったところ、完全に塩基配列が一致し、genogroup IIに属するノロウイルス(GII/4型:Lordsdale類似株)と確認された。また、D製造所内の拭き取りや調理用物品についてノロウイルス検出をRT-PCR法(nested)で試みたところ、作業用手袋1検体から発症者由来塩基配列と完全に一致するノロウイルスが検出された。さらに別の作業用手袋1検体・調理台拭き取り1検体からは、異なるタイプのノロウイルス(GII/3型:Mexico類似株)が検出された。

行政の対応:
2002年1月29日午後、A保育所の園児が食中毒様症状を呈しているとの連絡を受けた所轄保健所が、町内の他の教育機関に問い合わせた結果、B保育所での患者発生を確認した。所轄保健所でA・B両保育所の共通食品を調査したところ、4品目が共通しており、中でもD製造所製造の29日給食用パンはC中学校でも喫食されたことが、30日夜に判明していた。そこでC中学校での患者発生の可能性を想定、関係者に万が一発生したときの迅速な連絡を依頼した。C中学校での患者発生が確認された31日には、翌2月1日のC中学校の給食を停止し、感染拡大防止を図った。さらにD製造所に対し、2月1~2日を食品衛生法に基づく営業停止処分にするとともに、施設の清掃・消毒の実施および衛生講習の受講を指示した。

地研間の連携:

国及び国研等との連携:

事例の教訓・反省:
まだまだ二枚貝以外の食品における検出が難しいノロウイルスが、給食用パンという食中毒原因食品としては見過ごされがちな食品を介して感染を拡大したことを、綿密な疫学調査によってつきとめ、迅速な対応で感染拡大を遮断した好例で、初動調査の段階での正確な疫学調査がいかに効果的であるかが示された。

現在の状況:

今後の課題:
今後の課題、問題点
ノロウイルスによる食中毒では、いくら十分な加熱過程があっても汚染機会がその後であれば、あらゆる食品が原因食品となりうることが推定されるが、パンのような食品はどうしても見過ごされやすい。そのような思いこみを捨て疫学調査にあたることが重要である。

問題点:

関連資料:
2保育所および1中学校にまたがり発生したノーウォーク様ウイルスによる食中毒事例-福井県病原微生物検出情報月報,vol.23,No.10