No.1114 営業自粛期間中の調理継続により被害が拡大したノロウイルスによる食中毒事例

[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性食中毒
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:福井県衛生環境研究センター
発生地域:福井県小浜市など
事例発生日:2004年3月26日
事例終息日:2004年4月2日
発生規模:
患者被害報告数:患者・被害者数 209名
死亡者数:0名
原因物質:ノロウイルス
キーワード:ノロウイルス、集団発生、食中毒、ホテル、会食料理、宿泊客、営業自粛

背景:
営業停止処分や営業自粛要請は、食中毒の感染拡大を防ぐ目的で出されるが、原因施設が営業自粛(調理業務の外注)に十分対応できず、同一調理人による調理を継続したことにより、被害を拡大させてしまったノロウイルス食中毒事例について報告する。

概要:
福井県小浜市内のホテルを原因施設とする食中毒事例であるが、3月25日夜の会席料理を原因食品とみなして要請された営業自粛期間中の3月30日に、同施設内の別の飲食店営業許可施設厨房において同じ調理従事者によって調理された食品が提供され、被害を拡大する結果となった。最終的には、送別会シーズンの会席料理喫食者のみならず朝食だけを喫食した宿泊客も含んだ209名が発症した。患者および無症状の調理従事者の糞便よりノロウイルスが検出され、その遺伝子解析の結果、同一の感染源である疑いが強かった。

原因究明:
事件探知当初は、3月25日夜に提供された会席料理の喫食者に高率の患者発生がみられたため、3月25日夜の会席料理だけを原因食品として調査していたが、3月25~30日の朝食しか喫食していない宿泊客においても有症者が確認された。そこで原因食品としては、3月25~30日にかけて提供された食品が疑われた。マスターテーブルを作成し原因食品の推定を行った結果、1%危険率および5%危険率において複数の食品で有意差が見られた。
加えて、調理従事者9名中3名からノロウイルスが検出されていること、拭き取り検査で厨房Aの二層シンク内側・刺身用冷蔵庫取手の2ヶ所からノロウイルスが検出されていること、手洗い設備に不備があったこと、厨房Bで同一調理人が調理した3月30日の提供食品喫食者にも発症者がいること、などからすると、提供された食品全般が調理従事者由来のノロウイルスに汚染されていた可能性が高い。

診断:

地研の対応:
所轄保健所経由で搬入された事例関連検体の食中毒菌および下痢症ウイルスの検査を行った。その結果、喫食発症者の糞便31/36名分・嘔吐物1/1名分、喫食無症状者(他の集団給食施設における調理従事者)の糞便0/1名分、調理従事者(無症状)の糞便3/9名分、拭き取り検査2/16ヶ所が、ノロウイルス陽性となった。そのうち、喫食有症者糞便2検体、調理従事者糞便2検体、拭き取り検査1検体に由来する検出遺伝子の塩基配列について、ダイレクトシークエンス法により決定して解析した結果、全てgenogroup IIに属するノロウイルス(GII/4型:Lordsdale類似株)と確認された。なお、各塩基配列の相同性を計算したところ、拭き取り検査由来の配列は96.7~97.4%とやや低かったが、その他の4検体由来の配列は99.7~100%と高い一致率を示しており、感染源が同一である可能性が高いと考えられた。

行政の対応:
3月29日夜には、3月25日夜の会席料理が原因食品とみられる患者発生を探知した所轄保健所が、3月30~31日の営業自粛(調理業務の外注)を要請していた。しかし送別会シーズンで外注先を容易に見つけられなかった原因施設側は、3月29日までの調理を行っていた厨房Aを閉鎖し、刺身などの生ものは外注したものの、同施設内5ヶ所で飲食店営業の許可を取得していたこともあり、同一の調理従事者が厨房Bで加熱調理した食品を3月30日に提供し、被害を拡大する結果となった。
そこで所轄保健所は、厨房Aに対し3月31日~4月2日の営業停止処分としたうえ、厨房Bに対しても4月3~7日の営業停止処分にするとともに、同施設内の全調理施設について4月3~7日の営業自粛を指示し、衛生指導を行った。
また喫食者に学校等の集団給食施設の調理従事者が含まれていたことから、関係学校に対し二次感染の防止措置を指導した。

地研間の連携:

国及び国研等との連携:

事例の教訓・反省:
営業自粛(調理業務の外注)を要請したにもかかわらず、施設側が十分に対応できなかったため、感染拡大の遮断に結びつかなかった。同一調理従事者による調理継続の危険性を、十二分に浸透させる必要性が確認された。

現在の状況:

今後の課題:
今後、今回の原因施設のように、複数の厨房を有する施設に対する営業自粛の指導については、原則として全厨房の使用禁止、調理従事者の調理禁止が望ましいと考えられる。どうしても調理を行う場合は、十分な手洗いの励行やマスク、使い捨て手袋の着用などを義務付けるなどの指導が重要である。

問題点:

関連資料: