[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性感染症
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:千葉市環境保健研究所
発生地域:千葉市内小学校
事例発生日:2004年6月12日
事例終息日:2004年6月16日
発生規模:
患者被害報告数:63名
死亡者数:0名
原因物質:腸管出血性大腸菌 O121:H19(VT2)
キーワード:EHEC、O121、VT2、牛、小学校、
背景:
腸管出血性大腸菌(EHEC)による感染症は、「感染症法」では全数把握の3類感染症であるが、原因が食品に起因する場合にあっては、食中毒としても食品衛生法に基づく対応がなされるものである。
EHECは血清型に分類されるが、発生の比率はO157が約70%、O26が約20%、O111が数%を占めており、O121等他の血清型も散見されている。
概要:
2004年6月18日、市内医療機関から千葉市保健所に同一小学校の児童2名が血便を呈しており、食中毒の疑いがある旨の連絡があった。保健所の調査から、患者はいずれも千葉市内U小学校の6年生で、同学年の児童に下痢・腹痛等の症状を呈している者が多数いることが明らかとなった。児童2名からは、O血清型不明VT2産生のEHECが検出された。また、U小学校の6年生は、6月9日~11日に千葉県内のK市で林間学校を行っており、発症者は、林間学校に参加した110名(児童101名、教員9名)のうち、児童63名に限局していたことから、この期間の食事または行動が原因である可能性が考えられ、千葉県に調査の協力を依頼した。一方、同時期、K市の管轄保健所に幼稚園児のO血清型不明EHEC患者発生の届けがあった。U小学校児童と幼稚園児が利用した共通場所が、千葉県内の酪農啓蒙施設であるR施設であることが判明し、さらに調査が進められた。千葉県は6月29日R施設の現地を調査し、6月30日には感染源調査のため当該施設の環境(棚、土壌)及び飼育牛の糞便について検査を実施した。その結果、採取した6頭すべての牛糞と牛舎の土壌からO121が検出され,一部の牛糞と土壌からはO157も検出された。なお当初、血清型が不明であったEHECは、国立感染症研究所及び秋田県衛生科学研究所によりO121であることが判明した。また、U小学校児童、K市の幼稚園児及び酪農啓蒙施設の飼育牛から検出された分離株O121はパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)によるパターン解析の結果、同一パターンを示した。
原因究明:
千葉県の調査により次の4点が明らかになった。
1)児童はR施設で昼食をとり、体験学習としてバターやきなこ飴つくり等を行なった。
2)施設内では観光用に白牛が飼育されており、容易に牛や棚に触れることが出来る環境であった。
3)施設内には手洗い場が少なく、全児童が手洗いをするには不十分であった。
4)牛舎周辺には牛糞が認められ、清掃不十分であった。
これらの結果及び本市での調査内容から千葉県は、本事例を飼育牛が感染源となったEHEC:O121による集団感染であると断定し、以上の要因が重なり、汚染された手指を介して感染した可能性が高いとした。
診断:
地研の対応:
林間学校行事の参加者110名及び患者の家族等を含む関係者総計121名の糞便検査を実施した。当所での検査は、分離培地にクロモアガーO157培地、CT-SMAC培地及びDHL培地を用い、直接培養とTSBブロスによる増菌培養を併用し、実施した。一方当該菌には型別判定用の市販血清がなく、免疫血清によるスクリーニングは不可能であった。これらのことから、DHL培地上で白色を示す集落を中心に疑わしいコロニーの釣菌を試み、コロニースイープ・ポリミキシンB抽出も併用した。最終的には、発症者15名と非発症者2名からO121:H19(VT2)が、発症者2名からO157:H7(VT1+2)が検出され、そのうち1名はO121とO157の両菌種が検出された。U小学校児童,K市の患者及び飼育牛から検出された分離株について、Xba Iを用いたPFGEによるパターン解析を行ったところ、ほぼ同一のパターンを示した。
行政の対応:
1)千葉市の対応;千葉市保健所はU小学校において患者らの行動及び摂食調査などの疫学調査、並びに保存食や給食施設のふきとり検査(検査実施機関は千葉市環境保健研究所)を実施した。また、児童保護者に対し説明会を実施して、状況説明や健康管理指導を行った。
2)千葉県の対応;K市を管轄する保健所は、患者らの立ち寄った施設及び患者である幼稚園児の疫学調査を実施した。県は本集団発症事件について厚生労働省及び庁内関係部局に報告するとともにプレス発表を行った。また、原因となった施設に対し衛生指導を実施し、あわせて県民に注意を喚起した。
3)国(厚生労働省)の対応;結核感染症課長及び監視安全課長連名で全国衛生主管部局長あて、注意の喚起を促す内容の文書を発出した。
地研間の連携:
本市と千葉県衛生研究所は、情報の共有化等密に連携をとるとともに、千葉県衛生研究所は秋田県衛生科学研究所の協力を得て本事例のEHEC血清型を特定した。
国及び国研等との連携:
当所は、国立感染症研究所にEHEC血清型分類の依頼を行った。
事例の教訓・反省:
このような事件の再発を防止する為には、施設管理者はもとより、施設を利用する一般市民に対し、牛と人とが接触する環境は感染のリスクがきわめて高いことを認識させ、施設の消毒及び手洗いの励行など衛生管理面での注意を喚起することが重要である。
現在の状況:
O121による集団感染はまれであるが、近年秋田県や佐賀県からも報告されている。本事例は、特殊な血清型によるEHEC感染症であったが、医療機関が早期に適切な判断をしたこと、そしてその情報を基に各関係機関が密接に連絡をとりあい迅速に対応したことで早期の感染源特定に至ることができた。
今後の課題:
型別診断血清の早期市販が望まれる。
問題点:
関連資料: