[ 詳細報告 ]
分野名:その他
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:大阪府立公衆衛生研究所
発生地域:大阪府
事例発生日:2004年11月
事例終息日:2004年12月
発生規模:給水人口3,607名(平成15年度統計データによる給水人口)
患者被害報告数:不明
死亡者数:0名
原因物質:軽油
キーワード:軽油、簡易水道、水道水源、汚染
背景:
水道事業者等が通常予測できない水道原水の水質変化により、水道水を供給するにあたり問題が生じ、取水・給水の停止や特殊薬品(粉末活性炭等)の使用等を行った水質汚染事故は、わが国において平成10年度以降過去6ヵ年平均で年間約146件にのぼっている。このうち油類を原因とする事故が最も多く、平成10年度以降毎年度全体の40%を上回る状況が継続している
概要:
平成16年11月19日(金)より11月21日(日)にかけ、複数の住民から、府内町営簡易水道の水道水から油臭がするとの苦情が寄せられた。11月22日(月)、町より連絡を受けた大阪府保健所による調査(臭気試験)の結果、原水に使している4系統の水源のうち、O川を水源とする第4水源に臭気の原因があると特定され、簡易水道はこの水源からの取水を停止する措置を講じた。11月24日(水)、保健所により、O川での臭気原因究明調査が開始され、翌11月25日、O川の支流上流域で、発電機より軽油を流出した事業所を発見し、この事業所が排出源と特定された。町は支川の汚染除去と簡易水道施設の清掃を施し、約1ヶ月後に取水を再開した。
原因究明:
本事例で、異臭原因油は、保健所の臭気検査による追跡調査により事業所から流出した軽油であることがほぼ確定されていたが、当所においても、その原因油の種別を科学的に特定することを目的とし、汚染浄水場内沈殿フロック等の分析を行った。分析方法は、n-ヘキサン抽出物のガスクロマトグラフ-質量分析法(GC/MS)およびパージ・トラップ-ガスクロマトグラフ-質量分析法(P&T-GC/MS)を用いた。両法による浄水場内沈殿フロックの結果を、油試料(レギュラーガソリン、ハイオクガソリン、灯油および軽油)の結果とそれぞれ比較し、油種の特定を試みた。その結果、P&T-GC/MSによる結果では、浄水場内沈殿フロックから微量のトルエンを検出したものの油種の特定はできなかった。しかし、n-ヘキサン抽出物のGC/MS結果では、浄水場内沈殿フロックのトータルイオンクロマトグラムおよびマスクロマトグラムは軽油のそれらと酷似していた。従って、簡易水道油汚染の原因油は軽油であると特定された
診断:
地研の対応:
当所には、11月22日(月)、保健所より、臭気の原因物質特定法に関し相談があり、VOC測定のみならず溶媒抽出によるGC/MS測定を試みるよう回答した。また、11月24日(水)、大阪府健康福祉部環境衛生課より、臭気の原因物質を特定してほしいとの依頼があり、浄水場内沈殿フロック(黒っぽく油臭あり)の分析を試みることにした。汚染フロックは11月26日(金)に当所に搬入された。この時点で、臭気原因物質は、保健所の臭気追跡調査により、事業所より流出した軽油であることが明らかにされたが、科学的データをとり今後の参考とするため、汚染フロックの分析を行った。また、12月21日に原因事業所内で採取した排水に含まれる油分も分析した。その結果、汚染フロック及び排水の油分は、いずれも軽油であることを確認し、行政に報告した。
行政の対応:
(1)町
発生源であるO川からの取水(第4水源)停止、浄水場濃縮槽及び沈殿池の清掃作業、発生源となる支流に活性炭を設置及び地区住民への広報
(2)大阪府保健所の臭気検査による汚染源究明調査
行政による簡易水道および軽油流出事業所への指導
地研間の連携:
国及び国研等との連携:
事例の教訓・反省:
現在の状況:
今後の課題:
今回、汚染油種特定のための標準試料(レギュラーガソリン、ハイオクガソリン、灯油および軽油、重油は入手できず)を保管していなかったことや、GC/MS分析情報を保有していなかったため、分析に時間を要した。
油類分析によりGC/MS機器の汚れがひどく、通常の分析業務を再開するためにはインジェクション部等のクリーニングが必要であった。
臭気検査で油臭が認められる水試料でも、GC/MSでは十分なクロマトグラムが得られなかった。n-ヘキサン抽出液の窒素吹きつけによる濃縮も試みたが、溶媒と共に低沸点の油分の揮発が認められ、水中の油分成分が正確に反映されない恐れがあることを認めた。より低濃度の水試料の分析方法の確立が必要である。
問題点:
関連資料:
上水試験方法(2001年版) 28ヘキサン抽出物 日本水道協会 566-571剣持堅志他:油汚染時における化学成分のスクリーニング分析、環境化学、7、561-576(1997)