No.1184 保育園におけるYersinia enterocolitica血清型O8群による食中毒

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:奈良県保健環境研究センター
発生地域:北葛城郡新庄町
事例発生日:2004年8月
事例終息日:
発生規模:被害者数 40名 死亡者数 0名
患者被害報告数:40名
死亡者数:0名
原因物質:Yersinia enterocolitica
キーワード:Yersinia enterocolitica・集団発生・食中毒・保育園

背景:
Yersinia enterocolitica(以下Y. enterocoliticaと略す)による集団食中毒事例は少なく、1982年に食中毒菌として指定されてから、現在までに14例報告されているが、100名を超えるような大規模の集団感染は、ほとんどが学校などの集団給食が原因で発生している。発生時期に季節的偏りはなく、発生地域にも北は青森、南は沖縄までと広範囲で偏りはない。原因食品が判明した事例は少なく、ほとんどが不明である。血清型は、03群が多く、05、27群がわずかにあったのみである。今回、我々は国内では珍しいY. enterocolitica 08群という集団食中毒を経験したのでその報告をする。

概要:
2004年8月3日、T病院から食中毒症状を呈したA保育園の園児5名を診察したとの届出があった。調査の結果、患者に共通する症状は39℃~40℃の発熱、腹痛が強い、特に、終末回腸付近で強い痛みがあり、下痢を呈する者は少なく、CRP値が高いということであった。以上の臨床症状から、エルシニアの可能性が強く疑われた。その後、検便からY. enterocoliticaが検出され、当センターにおいて血清型別を行ったところ、08群に型別された。保健所による疫学調査の結果、保育園児182名中喫食者は154名で、発症者は42名、その内13名の入院が確認された。職員20名の内喫食者は16名であったが発症者はなかった。原因として、患者の共通食である保育園の食事(昼食及びおやつ)の可能性が強く疑われた。潜伏期間は約3日~10日であった。

原因究明:
有症保育園児の16名からY. enterocoliticaが検出されたが、同じように喫食していた保育士や調理従事者からは検出されなかった。食品からは、23日の昼食に提供されたリンゴサラダからY. enterocoliticaが検出され、この食材となるキュウリ、ジャガイモ、ニンジン、リンゴ、ハムのミックスからもY. enterocoliticaが検出された。しかしながら、サラダの食材を個別に分けて行った検査ではY. enterocoliticaは検出できなかった。又、拭き取り検査や、砂場の砂からも検出されなかった。分離されたY. enterocolitica菌株の血清型別を行ったところ、全て08群に型別され、生物型も全て病原性のある国内では珍しい1Bであった。PCRの結果は、ail、virF、yst遺伝子が検出され、PFGE解析の泳動パターンも一致した。薬剤感受性試験の結果は、全てアンシピリンのみに耐性がみられた。これらの結果から、T保育園におけるY. enterocolitica 08群の食中毒は、23日の昼食に提供された昼食のリンゴサラダが原因と推測された。

診断:

地研の対応:
有症保育園児32名、保育士17名、調理従事者3名について検便を実施。潜伏期間から推定した共通食である7月20日~23日までの4日間の昼食及びおやつの検食19検体、食材20検体、拭き取り15検体の検査も行った。当センターで分離された菌株と、医療機関において入院保育園児から分離された菌株ついて、血清型、生物型、PCR及びPFGE解析、更に薬剤感受性試験を行いその関連性を調べた。

行政の対応:
8月3日、病院及び保育園からの連絡を受け、保育園へ聞き取り調査に行った結果、体調
不良で欠席した園児が23名に及ぶことが判明し、発症者への聞き取り調査と、検便検査を実施した。発症者の便より、Y. enterocoliticaを検出したことから病因物質と特定し、8月5日から7日までの3日間の給食停止を命じた。その間に、調理室、設備等の洗浄、消毒の実施及び、冷蔵庫内の洗浄、殺菌と、開封されていた食材の廃棄を指導し、調理従事者に対しても、衛生教育を行った。その後、保存検食のリンゴサラダから、Y. enterocoliticaが検出されたことから、これを原因食材と断定した。

地研間の連携:

国及び国研等との連携:

事例の教訓・反省:
Y. enterocoliticaは低温に強い菌であり、又、培養にも日数を呈するという珍しい食中毒菌のため、医療機関から、「臨床症状からエルシニアの疑いがある」、という通報は、検査が迅速に行われるのに大変役に立った。直接培養と、増菌培養を平行して行ったが、培養1週目、及び2週目に検出した検体も数株あったことから、情報が遅れていたら、原因究明も大幅に遅れを取ったと思われる。今後も、行政、地研二者間だけでなく、医療機関等も含めた三者間の連帯が大変有用であると思われた。

現在の状況:

今後の課題:
原因食品をリンゴサラダと絞り込めたものの、個別で検査した食材から検出できなかったことから、リンゴサラダに付着していたY. enterocoliticaの菌数は極少量であったと推測された。リンゴサラダの食材のうち、キュウリ、リンゴは軽く水洗されただけで、未加熱調理されていたこと、ジャガイモ、ニンジンの加熱調理についても二次汚染の可能性が充分推察されたことから、食品衛生の三原則が徹底されていれば食中毒を防止する事も可能であったと思われたが、汚染源及び汚染経路の究明にまでは至らなかった。

問題点:

関連資料:
1)保育園におけるYersinia enterocolitica 08群による食中毒事例―奈良県保健環境研究センター年報,No39:89-90(2004)
2) Outbreak of Food Poisoning by Yersinia enterocolitica Serotype 08 in Nara Prefecture: the First Case Report in Japan-Jpn. J. Infect. Dis., 58:257-258(2005)