[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:奈良県保健環境研究センター
発生地域:北葛城郡河合町
事例発生日:2004年9月6日
事例終息日:
発生規模:被害者数 157名 死亡者数 0名
患者被害報告数:157名
死亡者数:0名
原因物質:Salmonella Cerro
キーワード:Salmonella Cerro・集団発生・食中毒・学校給食・パン
背景:
ここ数年、食中毒の原因となる病因物質にはノロウイルスが高率に占めているが、サルモネラ属菌も事件数、患者数共にいぜん高率に検出されている。原因食品には、卵、食肉、牛乳、ケーキ類など多種多様であるが、今回、我々は、通常十分に加熱されているのであり得ないと思われた学校給食のチーズバーガー用パンより、Salmonella Cerro(以下S. Cerroと略す)を検出したのでその報告をする。
概要:
2004年9月7日、町教育委員会から小学校の児童が食中毒症状を呈して医療機関を受診しているとの届出があった。同時に、医療機関からも、腹痛、下痢、発熱等の食中毒症状の児童を診察した旨の連絡が入り、調査を開始した。その結果、有症者は5校にまたがり、原因食品として5校の生徒全てに共通する前日の6日に始まったばかりの学校給食が疑われた。メニューは、チーズバーガー、トマトと卵のスープ、フローズンヨーグルトであった。なお、チーズバーガーは、バーガー用パンが半分にカットされており、チキン照り焼きパティー、プロセスチーズを各自で挟んで食べるようになっていた。患者及び調理従事者の便、食品及び拭き取りについて細菌学的及びウイルス学的検索を行った。その結果、便からS. Cerroが検出された。更に、共通食であるバーガー用パンからも同一菌が検出された。汚染経路究明のため、パン工場の立ち入り検査、パン工場施設の拭き取り、パン材料の検査、全ての従業員の検便を行ったところ、シンク排水口からS. Cerroが検出された。
原因究明:
医療機関及び当センターにおいて有症児童57名からS. Cerroが検出された。従事者からも3名検出されたが、食材納入業者の便からは検出されなかった。5カ所の小中学校の給食は、3カ所の小学校調理場でそれぞれ調理を行っていたが、その食材は、同一業者が、同一食材を搬入したものであった。検査した3カ所の小学校に搬入されたバーガー用パン全てからサルモネラが検出された。3ヶ所の小学校のうち、1ヶ所の小学校に保存されていたバーガー用パンを検査した結果、サルモネラのMPN値は24/gであった。パンの材料である、ショートニング、脱脂粉乳、小麦粉、塩、砂糖、イースト等からはサルモネラは検出されなかった。工場内の拭き取り検査を行ったところ、シンク排水口の拭き取りよりサルモネラを検出した。又聞き取り調査の結果、当日工場で製造され出荷されたパンは、バーガー用パン以外に、コッペパン、ごまパン、キャロットパンと4種類で、総数3,011個あったことが判明した。各々の材料を単独でミックスし、第1発酵、分割成型、第2発酵、焼型、冷却、包装という過程を経ていくが、バーガー用パンのみに焼型の後で、一人の担当従業員が、包丁を用いてパンを半分にカットするという作業が加わっていた事が判明した。包丁及び鞘の拭き取り検査とともに、パンを、外側上部、外側下部、内側の3カ所に分けて検査した結果、包丁側からは検出されなかったが、パン外側上部のみにS. Cerro検出された。便及び、検食、拭き取りより検出されたサルモネラは全て、S. Cerroで、11種類の薬剤感受性試験を行った結果、全ての薬剤に感受性を示した。これらの結果から、5カ所の小中学校にまたがって起こったこの事例は、学校給食のパンを原因とするS. Cerroによる食中毒であったことが判明した。
診断:
地研の対応:
有症児童89名、調理従事者19名、給食食材を納入する業者等32名について検便を実施
した。他に吐物1件、検食17検体、食材7検体、拭き取り20検体も実施した。当センターで分離した菌株と、医療機関で分離された入院児童の菌株について、血清型別と11種類の薬剤感受性試験を行いその関連性を調べた。
行政の対応:
9月7日町教育委員会と、医療機関から連絡を受けて調査を開始した結果、町内にある3校の小学校の給食施設から提供された給食を食べた町内5校の小中学校の生徒157名が発症したことが判明した。患者及び、調理従事者の便、食品、拭き取りの検査を行った結果、患者の便及び、6日の給食で提供された学校給食パンよりサルモネラを検出したことから、パンを原因食品とする食中毒と断定した。原因施設のパン工場に、9月13日から18日まで営業停止処分を命じ、従業員の検便、施設の拭き取り検査を行い、製造所内部、使用機器、器具類の清掃、消毒を指導した。従業員の衛生教育を行い、手洗い設備の整備と、開封した原材料の廃棄の指導、実施を確認した。調理、製造、加工の方法及び摂取までのタイムテーブルを作成し、汚染経路の追求を計った。
地研間の連携:
国及び国研等との連携:
事例の教訓・反省:
原因食品として加熱済の給食パンは推定し難かったが、サルモネラを検出したことによって先ず考えられた事は、原材料汚染および加熱不足であった。しかし、搬入先のパンの汚染に偏りがなかったこと、原材料そのものにも汚染が認められなかったことにより否定された。カット時に何らかの汚染を受けたと推定して、パンを外側上部、下部、切り口である内側と分けて検査した結果、包丁による汚染を推定していたが、意外にもパンの外側上部が汚染されていたことが判明した。この結果から、汚染された手で上部を押さえながら作業していたことによってパンの汚染が拡大したものと推測された。聞き取り調査の結果、パンをカットした担当従事者は、拭き取り検査でS. Cerroを検出した排水口のシンクで手洗いをした後、パンのカット作業を素手で行っていたことが判明した。当該パンの製造日である9月5日は気温が30℃近くあり湿度も70~80%であった。鉄骨立てで作業場所が3階にあり、窯の上部に位置するという蒸し暑い状態の中でパンのカット作業を行っていた。体温に近い室温になっていたと想像され、担当従事者は、タオルで汗を頻繁にぬぐっていたということが判明した。この時使用していたタオルがサルモネラに汚染されていたのではないかと推測された。行政の綿密な疫学調査の結果、原因食材までは判明したものの、汚染源の究明まで至らなかったのは残念であった。
現在の状況:
今後の課題:
学校給食という教育現場における発生は、社会的な影響も大きい。今後、食品業者の衛生管理意識の向上と、厳しい衛生管理の徹底を望む。また、行政側も、監視、指導の強化を図ることが重要であると考えられた。
問題点:
関連資料: