[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:愛媛県立衛生環境研究所
発生地域:愛媛県松山中央保健所管内のI施設
事例発生日:2005年1月1日
事例終息日:2005年1月15日
発生規模:発症者数 50名/166名(入所者35名/97名、職員15名/69名)
患者被害報告数:
死亡者数:
原因物質:ノロウイルス
キーワード:感染性胃腸炎、高齢者入所施設、集団発生、ノロウイルス
背景:
県内の感染性胃腸炎は、例年晩秋から翌年の初夏にかけて流行がみられ、患者数がピークを示す12月はそのほとんどがノロウイルス(NV)感染症と考えられる。また、毎年冬季を中心にして、NVを主原因とする食中毒や胃腸炎集団発生事例が多く発生している。
特に今シーズンは、2004年12月の広島県福山市内の特別養護老人ホームでの、7名の死亡事例を含む感染性胃腸炎集団発症をはじめ、全国の高齢者施設において胃腸炎症状を呈する者の発生が頻発し、全国的に注目されNVに対する関心が寄せられていた。
概要:
平成17年1月1日から15日までの間に、介護老人保健施設「I」施設(入所者97名職員69名)において、嘔吐・嘔気(発症率84.8%)、下痢(76.2%)、発熱(31.9%)を主徴する胃腸炎を呈する患者が、入所者35名(うち1名死亡)および職員15名発生した。管轄保健所が疫学調査を行うとともに、当所で電子顕微鏡法(EM)およびリアルタイムPCR法(影山ら)による、ウイルス学的検査を行った。ウイルス検索の結果、患者糞便15件中12件、嘔吐物2件中2件、拭き取り検査15件中2件からノロウイルス(NV)が検出され、このウイルスによる集団発生と確認された。検出したウイルスの一部は、ダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定し、系統樹解析を行った。患者からの検出NVの遺伝子型は、G II4(Lordsdaleタイプ)で、その塩基配列は患者間では100%の相同性を示し、拭き取り検査から検出されたNV G II4ともほぼ100%の相同性がみられた。また、この時期に県内で散発的に流行していたNV G II4とも、高い相同性を示した。
原因究明:
患者便、嘔吐物および施設ふき取り検体からのNV検出によって、胃腸炎の原因物質と施設の生活環境の汚染が明らかにされた。これらのNV株の遺伝子解析より、患者検体・ふき取り検体のNV遺伝子の塩基配列はほぼ100%の相同性を示したことから、感染拡大要因として患者の排泄したウイルスによる施設内生活環境の汚染が考えられた。また施設内環境汚染と感染拡大には、職員の日常の介護作業が大きく関与していたことも推察された。
一方、地域内散発性胃腸炎患者のNV株と、この事例の検出株の遺伝子の相同性も、ほぼ100%に近いことが確認され、何らかの機会に施設内に侵入した地域流行ウイルスが発端となり、集団発生に繋がったことが示唆された。1名の死亡者検体から検出されたNVは、遺伝子解析の結果、同施設の他の患者株との相違はみられず、NV感染と死亡との因果関係は不明であった。
診断:
地研の対応:
松山中央保健所および県健康増進課の依頼を受け、施設内患者(入所者、職員)の検体(糞便、嘔吐物、ふき取り)について、ウイルス検索を実施するとともに、感染源究明、感染拡大の要因等の疫学的解析に関して、可能な範囲の知見を提供した。ウイルス検査では、EMおよびNV用リアルタイムPCRにより患者材料、ふき取り検体からNV(G II)を検出し、病因物質と感染拡大要因を明らかにした。また、検出されたNVの遺伝子解析を行い、この集団発生事例とその背景となった、地域内の散発性胃腸炎との関連性も明らかにした。
行政の対応:
県健康増進課では、厚生労働省各局長通知に基づき、県内の社会福祉施設等における感染性胃腸炎の発生・まん延防止の徹底と、発生時の保健所への報告を指示した。
松山中央保健所では、県内初発事例で死亡者がでたこともあり、施設立ち入り調査および衛生指導を7回にわたって実施した。その間にも患者が続発し収束がみられないことから、施設内住環境の汚染を考慮してふき取り調査を実施し、それらの汚染確認後は施設職員に対する衛生指導を細部にわたり徹底を図った。
県内の各保健所では、それぞれの管轄する施設を対象に講習会を開くなどして、施設職員の衛生指導と健康管理の徹底に努めた。
地研間の連携:
国及び国研等との連携:
事例の教訓・反省:
現在の状況:
保健所の頻回の立ち入り調査による、施設内感染防止マニュアルによる健康管理と感染予防の徹底の指導(特に汚物処理における消毒法、ディスポ手袋・ペーパータオルの使用など)により、感染拡大は約2週間で終息した。1名の死亡以外は全員症状は改善し、平常の生活を取り戻している。
今後の課題:
ウイルス性感染性胃腸炎は、毎年冬季を中心に散発的な地域流行を繰り返し、それらの原因ウイルスの大半を占めるNVは、しばしば食中毒や施設内での集団発生を引き起こしている。これらの制御のためには、地域におけるウイルスの流行状況を把握しておくことが重要である。また、施設内における感染拡大防止のため、確実で効果的な消毒法を徹底させることが、重要な課題であると考えられた。
問題点:
関連資料:
1)豊嶋ら:第21回中国四国ウイルス研究会(2005年 倉敷市)
2)豊嶋ら:第56回日本獣医公衆衛生学会(四国)(2005年 高松市)
1227新潟県保健環境科学研究所