[ 詳細報告 ]
分野名:自然毒等による食中毒
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:大阪府立公衆衛生研究所
発生地域:大阪府など
事例発生日:2006年5月7日
事例終息日:2006年5月17日
発生規模:日本全国
患者被害報告数:日本全体で約1,100名(東京放送調査報告より推定)
死亡者数:0名
原因物質:白インゲン豆類に含まれるレクチン
キーワード:白花豆、白インゲン豆、レクチン、ダイエット、テレビ
背景:
多くの国民がダイエットなど健康情報に関心を持ち、人気テレビ番組で健康に良いという情報が紹介されるとそれを実践していた。
概要:
平成18年5月6日に、株式会社東京放送系列で放送されたテレビ番組「ぴーかんバディ!」で紹介された調理法により調理した白インゲン豆を摂取した人が、嘔吐、下痢等の消化器症状を呈した。
保健所を通じて持ち込まれた試料について、赤血球凝集試験を行ったところ、患者が加熱調理した白インゲン豆(白花豆)は、未調理品に近い強度の陽性反応を示した。不十分な加熱ではインゲン豆中のレクチン(腸粘膜などに炎症を起こす)は失活しないので、加熱不十分なインゲン豆摂取による食中毒であると推定された。インゲン豆は煮豆として食べられることが多いが、煮豆は調理過程で十分に加熱されているので食べても中毒にはならない。
原因究明:
白インゲン豆などには元々レクチンが含まれている。本中毒事例では、加熱調理が不十分であったために、レクチン活性が失活しておらず、調理後の豆を食べても中毒症状を呈してしまった。
テレビ番組では、一般にインゲン豆と呼ばれる豆の中で大福豆をフライパンで約3分間炒って加熱調理した。一方中毒症状を呈した多くの消費者は、白花豆を食べていた。その後の調査で白花豆中には大福豆よりも多くのレクチンが含まれ、番組の加熱法ではレクチン活性の失活に20分必要なことが判った。
また当所での実験で、加熱方法として250度で炒ると熱湯中で煮るのを比較した。同じ3分間の加熱でも焙煎では白花豆のレクチン活性は失活しないが、煮ると失活するがことが判った。このことから煮ることの方が熱の伝わりが良く、焙煎では熱の伝わり方が不十分と推察された。
本中毒の原因は、豆の種類により毒性成分の含有量が異なり、レクチンが多い場合は番組で示された加熱法では十分に失活させることができなかったことであると推察された。
診断:
赤血球凝集試験によるレクチン活性の定量的検出。豆試料を粉砕後、水を加えてホモジナイズしレクチンを抽出し、その抽出液を赤血球凝集試験に使用した。
地研の対応:
複数の地研が摂食者の食べ残し豆などについて、赤血球凝集試験(レクチン活性の指標)を行い、当該食品にレクチン活性が残っていたことを確認した。
行政の対応:
厚生労働省は、5月22日に白インゲン豆の摂取による健康被害事例について報道発表し、また同省ホームページに関連情報を紹介し不十分な加熱調理に関して注意を喚起した。東京放送を担当する総務大臣は東京放送に対して文書による警告を行った。それに対し東京放送は中毒の原因調査を行うと共に、「食品の安全性に関する番組制作ガイドライン」を制定したことを6月20日に報告した。
地研間の連携:
5月12日に厚生労働省(国立衛研)からインゲン豆中のレクチン活性試験法(赤血球凝集試験)について情報提供された。その方法を参考にし、当所でも赤血球凝集試験などを行った。
国及び国研等との連携:
5月12日に厚生労働省(国立衛研)からインゲン豆中のレクチン活性試験法(赤血球凝集試験)について情報提供された。その方法を参考にし、当所でも赤血球凝集試験などを行った。
事例の教訓・反省:
テレビにより全国的に放送されたために、全国的な規模で同時多発的に中毒事例が発生した。手軽な調理によるダイエット効果が強調されており、多くの視聴者が番組で紹介されたダイエット法を実践することにより中毒症状を示した。患者は自分で加熱調理した豆
を食べており、不十分な加熱調理が危険性の高い食品であることを認識していなかった。放送番組からは、不十分な加熱は危険が高いこと、豆の種類により有毒成分の量が異なることなど、安全性に関わる重大な情報が消費者(視聴者)に確実に伝わっていなかった。一方通行の不確実な情報が大量に発信されることにより、同時多発的に被害が発生してしまったことは、情報発信者の安全確認が不足していたことを示した。
現在の状況:
当所では本中毒を、食品の理化学部門が担当した。担当者はこの中毒以前に赤血球凝集試験の経験が無く、微生物担当者の指導を受けて実験を行った。健康被害が起こるような場合の取り組みは、通常行っているルーチン以外の試験により解決できることも多く、的確な技術情報の入手は非常に重要である。
今後の課題:
問題点:
赤血球凝集試験のように生物材料を用いて危険因子を確定する実験では、試薬(赤血球)の入手に時間を要することが問題であった。これは今回だけの問題ではなく、日常的に使用しない試薬や機器類を使用しなければ問題を解決できない場合に起こる問題である。
関連資料:
野村千枝 他 白花豆のレクチン活性に対する消熱調理の影響 大阪府立公衆衛生研究所研究報告 44,55-59,2006