No.1237 家庭裁判所異臭事件(排水系(沈殿槽)の沈殿物が気温上昇に伴い腐敗し、発生した悪臭による被害事件)

[ 詳細報告 ]
分野名:
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/03/09
衛研名:熊本市環境総合研究所
発生地域:熊本市千葉城町3-31
事例発生日:2005年4月6日
事例終息日:
発生規模:家庭裁判所敷地内
患者被害報告数:2名
死亡者数:0名
原因物質:含硫黄炭化水素化合物
キーワード:悪臭、異臭、ニンニク臭、にんにく臭、含硫黄炭化水素、硫化ジメチル、二硫化ジメチル、アリルメチルスルフィド、硫化ジアリル、二硫化メチルプロピル、嘔気、脱力感

背景:
近年、人為的な異臭事件が多発しており、当初は本事例も場所柄事件性が疑われ警察、消防も出動する騒ぎとなった。結果的には、建物が昭和40年代に建てられたものであり、し尿系を含む敷地内の生活系排水施設も当時のままで溜ますが非常に旧式の物(下水道部局の見解)であったこと、溜ますに流入する水量が少なかったこと、晴天が続いたことなどの要因が重なり、溜ますの一部で有機物が腐敗してガス(含硫黄炭化水素類)が発生しそれがトイレ内に逆流・充満し健康被害が発生した稀有な事例であった。

概要:
2005年4月6日(水)16時3分に熊本家庭裁判所より熊本市保健所に「トイレでの異臭により職員2名が嘔気、脱力感を訴え救急車により病院に搬送された。」旨の電話連絡があった。
調査の結果、泥だめ構造を有する溜ますから発生したニンニク臭を有するガス(硫黄化合物)がトイレに逆流充満し、そのガスにより家庭裁判所職員2名が嘔気、脱力感などの体調異状を起こしたものと推察された。
なお、患者2名は軽症であったため、翌4月7日(木)には搬送先の病院から退院した

原因究明:
1)県警科学捜査研究所の調査では青酸化合物、ヒ素化合物、リン化合物などの毒物は不検出であった。
2)環境総合研究所で分析の結果、採取気体試料から硫化ジメチル、二硫化ジメチル、アリルメチルスルフィド、硫化ジアリル、二硫化メチルプロピルの5種類の硫黄化合物が検出された。
3)現場調査の結果、敷地内の生活系排水路の途中に設置してある溜ますの一部で沈殿物の腐敗が原因と考えられるニンニク臭を有するガスの発生が認められた。

診断:
これらの結果と事件発生前は晴天が続いていたことなどから、敷地内溜ますの一部から発生した含硫黄炭化水素を含むガスがトイレに逆流・充満し、このガスにより職員2名が体調異状を起こしたものと推察した。

地研の対応:
1)保健所地域医療課の通報を受け、環境総合研究所職員2名が17時30分現地でトイレ排水系のマンホール内の空気をテドラーバッグに採取。
2)シアンガスの定性試験と同時にガスクロ(FPD)及び低温濃縮装置付GC/MSで物質検索を開始。
3)4月7日午前2時5種類の含硫黄炭化水素化合物を同定。保健所地域医療課に検出物質の毒性情報とともに連絡。
4)直ちに、検出された5物質のうち悪臭防止法規制物質である硫化ジメチル、二硫化ジメチルの定量試験を行い濃度を確定した。
5)4月7日午前10時、市関係課及び家裁職員とともに原因究明調査を実施。
6)4月7日午後3時、保健所地域医療課とともに報道発表。

行政の対応:
1)家裁からの電話連絡後、直ちに現場及び患者搬送先に職員を派遣。
2)環境総合研究所に検査依頼の連絡を行うとともに、関係行政機関への情報の提供、報道対応を行う。
3)現場でビニール製の袋で空気を採取。
4)関係課とともに現場調査。
5)環境総合研究所とともに報道発表。
6)熊本県(健康危機管理課、薬務課、保健環境科学研究所)、熊本県警(捜査一課、科学捜査捜査研究所)、熊本市(地域医療課、消防局救急課、環境総合研究所)、大学(熊大大学院法医学教室)からなる検査機関等会議を開催し、本事例を参考に原因物資究明に係る連携等について協議。
7)今回の事例を踏まえ健康危機管理連絡会議の構成メンバーに下水道管理課を加える。
8)家庭裁判所に対し、調査結果と再発防止のための施設改善等を文書で通知。
9)熊本県主催の健康危機管理講習会において事例報告。

地研間の連携:
特になし

国及び国研等との連携:
特になし

事例の教訓・反省:
1)現場に最初に到着する消防隊員等対する検体の採取法等の情報提供が不十分であった。
2)1)と関連するがビニール袋に採取した気体試料は夾雑物が多く原因物質検索が不可能であったことから関係部局に対する検体採取用具(気体、液体、固体)の事前配備が必要と考えられた。

現在の状況:
1)簡易に気体試料が採取できるよう加工したテドラーバッグ等の採取用具を消防局に整備した。
2)健康危機管理主管課主催による検査機関等会議の開催

今後の課題:
事件、事故の事例は希少であり、現場情報等を迅速・的確に判断整理し、原因物質究明のための分析法をシステマティックに組み立てられる高度な技能を持った経験豊富な技術者が異動や退職で年々減少している。

問題点:

関連資料:
菅本康博、他、熊本家庭裁判所における異臭事件について、第31回九州衛生環境協議講演要旨集、15~16(2005)