[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:福岡県保健環境研究所
発生地域:福岡県京築保健福祉環境事務所管内
事例発生日:2006年3月26日
事例終息日:2006年4月25日
発生規模:1施設
患者被害報告数:48名
死亡者数:2名
原因物質:ヒトメタニューモウイルス
キーワード:ヒトメタニューモウイルス、呼吸器感染症、高齢者福祉施設、集団発生
背景:
インフルエンザ、SARS以外のウイルス性呼吸器感染症では、重症者が多数発生するような集団感染事例は少なく、地研で検査を行う機会もあまり多くはない。しかし、2006年3月に福岡県内の高齢者福祉施設で起きた事例は、2名の死亡者を出す集団発生で、検査の結果ヒトメタニューモウイルス(hMPV)が原因と考えられた。hMPVは、2001年にオランダで発見されたウイルスであるが、その後の研究では、小児の間では、以前から一般的な呼吸器ウイルスであることが明らかになっている。また、国内において、高齢者福祉施設での集団発生が数例報告されている。
概要:
平成18年4月6日に当該施設から京築保健福祉環境事務所へ、「入所者18名が呼吸器感染症状を呈し、うち8名が入院、1名が死亡した」との報告があった。症状の内訳は、咳18名、発熱(37℃以上)17名、喘鳴6名、肺炎4名であった。入所者及び職員について調
べると、3月26日に初発例が認められた。4月11日に有症者10名より採取された咽頭ぬぐい液が当研究所へ搬入され、ウイルス分離とmultiplex RT-PCRによるウイルス検査を実施した。その結果、multiplex RT-PCRで10名中6名よりhMPVが疑われるバンドが検出され、塩基配列を決定できた5件はhMPVと同定された。その後、4月25日以降は新たな発症者の発生が無いことから、hMPVによる集団発生は終息したと判断された。この期間中、入所者41名、職員7名の計48名が発症し、そのうち入所者2名が肺炎で死亡した。ただ、発症者は高齢(平均88歳)で、その多くは様々な基礎疾患を持っていたことから、hMPVに感染したことが直接的な死亡原因になったとは断定できない。発症者が呈した主な症状は、咳83.3%、発熱75.0%、喘鳴12.5%、肺炎12.5%であった。
原因究明:
Multiplex RT-PCRはS. Bellau-Pujolらの方法を用い、RSウイルス、hMPVを含む12種類の呼吸器感染症の病原体を対象に検査を実施した。その結果、multiplexRT-PCRで10名中6名よりhMPVが疑われるバンドが検出された。塩基配列を決定できた5名の遺伝子はNCBIのデータベースに登録されている塩基配列と一致したことからhMPVと同定され、5件の塩基配列は100%一致していた。さらに、分子系統樹解析により、遺伝子型はB1型と決定した。また、その後、4月19日に2例目の死亡例が確認され、4月17日に採取されていた喀痰からもhMPV(遺伝子型B1型)が検出された。なお、ウイルス分離もFL、HEp-2、RD-18S、Vero、LLC-MK2、MRC-5、MDCKの7種類の細胞を用いて実施したが、全て陰性であった。
診断:
地研の対応:
前述のとおり、搬入された咽頭ぬぐい液について、ウイルス分離とmultiplex RT-PCRによるウイルス検査を実施した。
行政の対応:
保健福祉環境事務所が、検体採取を行うとともに、感染拡大防止策について指導を行った。その結果、施設を有症ゾーンと健康ゾーンの2つに分離した4月11日以降には、発症者数は大きく減少した。
地研間の連携:
この事例に関しては、九州衛生環境技術協議会において報告し、九州内の地研には情報提供を行った。
国及び国研等との連携:
病原体微生物検出情報オンラインシステムにより、国立感染症研究所感染症情報センターへ報告するとともに、依頼に基づき病原体検出情報にも報告を記載した。
事例の教訓・反省:
今回の事例では2名が死亡したが、発症者は高齢(平均88歳)で、その多くは様々な基礎疾患を持っていたことから、hMPVに感染したことが直接的な死亡原因になったとは断定できない。しかし、インフルエンザ、ノロウイルスと同様に高齢者福祉施設でのhMPVの集団発生対策を十分に行う必要があると認識させられた。
現在の状況:
今回用いたmultiplex RT-PCR法は呼吸器ウイルスの検出に優れ、今後も同様な集団発生事例や、トリインフルエンザ、SARS疑い事例発生の際の、原因究明にも用いる予定である。
今後の課題:
hMPVについてのウイルス分離率の向上や、中和試験の方法を確立する。
問題点:
関連資料:
1.病原微生物検出情報月報 Vol.27,No.7,p.178-179(2006)