[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性感染症
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:千葉県衛生研究所
発生地域:千葉県
事例発生日:2004年2月
事例終息日:
発生規模:家庭内
患者被害報告数:1名
死亡者数:0名
原因物質:Salmonella enterica subsp. Houtenae serovar O45:g,z51:-
キーワード:サルモネラ下痢症、Salmonella enterica subsp. Houtenae、血清型O45、イグアナ
背景:
近年のペットブームに伴い世界各地から野生動物が輸入され、家庭内で容易に飼育されるようになった。愛玩動物としての歴史が浅く、正しい飼育法や接し方等の知識不足による外来性動物由来感染症の増加が危惧されている。千葉県内で、生後3ヶ月の下痢症患者から分離されたサルモネラを精査し、菌種・血清型の特殊性からイグアナが感染源であると推定した1),2)。
概要:
2004年2月、千葉県内の病院に生後27日の乳児(男)が受診した。主訴は哺乳力低下、元気が無い等で、体温は37.2℃であった。特定の疾患は認められなかったが、その後も同様の状態が続いた。約2ヶ月後、発熱、水様便数回の後、粘血下痢便になり再来院した。ラックビーが処方されたが回復せず、翌日入院となった。細菌性腸炎が疑われ検便を実施したが、病原性細菌は検出されなかった。ラックビーとフォスミシンが処方され、5日後、軽快・退院となったものの、9日後、再び下痢を呈し外来で受診した。検便の結果、サルモネラが分離されたがO抗原血清型が不明であったため、当所に同定依頼があった。精査の結果Salmonella enterica subsp. Houtenae (IV)血清型O45:g,z51:-と決定した。
ヒトからのS. IV(O45:g,z51:-)の分離例は、日本では調べた限り無いが、米国、カナダで、イグアナがこのサルモネラを保菌していること3)、またイグアナから乳児への感染例4)が報告されている。本事例の患児の母親に患者宅のペットの有無を尋ねたところ、約1年前からイグアナを飼育していることが分かった。
原因究明:
患者宅で飼育しているイグアナを直接調べることは出来なかったが、他にペットはいないことや、患者は生後3ヶ月であり、成人の喫食品や家庭外の動物および環境中からの感染は考えにくいことから、患者宅のイグアナが感染源である可能性が考えられた。また、日本国内で飼育されているイグアナにおいて、S. IV(O45:g,z51:-)は腸管常在菌の一種であること2)から、本事例の感染源は患者宅のイグアナであると推定した。しかし患者宅の
イグアナの入手経路等は不明であり、また、国内で飼育されているイグアナから、患者からの分離株とパルスフィールドゲル電気泳動パターンが同一の株は検出されず2)、感染源の特定には至らなかった。
診断:
分離菌はDHLおよびCHROMagar Salmonella培地上に典型的なサルモネラのコロニーを形成し、TSIおよびLIM培地上で定型的性状を示した。Api20E同定キットではSalmonella spp.(%id97.6)であった。しかしO抗原は、市販の抗血清に凝集がなかった。試薬会社から供与された未市販抗血清では、O45とO50に凝集したが、加熱死菌はO45のみに凝集した。H抗原はgおよびz51に凝集した。以上から、血清型O45:g,z51:-と決定した。この血清型はKauffmann-Whiteのサルモネラ抗原構造表でS. enterica subsp. Arizonae (I IIa)またはS. IVに分類される。そこで、詳細な生化学性状を調べた。患者由来株はβ-galactosidase 、Malonate-、KCN培地での発育+、Galacturonate+であり、S. IIIaは否定された。Salicineは-であったが、Salicine+のS.IVは約60%であること、その他の生化学性状からS. IVと同定した
地研の対応:
分離菌の同定、血清型別、感染原因の解析、関係者への周知
行政の対応:
地方行政レベルは無し
地研間の連携:
無し
国及び国研等との連携:
本事例の第一報は病原微生物検出情報に掲載された1)。同報に「ミシシッピーアカミミガメ(ミドリガメ)との関連が強く疑われた小児重症サルモネラ感染症の2症例」(長野則之、他)も掲載され、これらを受けて平成17年12月22日、厚生労働省健康局結核感染症課長より健感発第1222002号「ミドリカメ等のハ虫類を原因とするサルモネラ症発生事例に関わる注意喚起について」が出された。
事例の教訓・反省:
現在の状況:
今後の課題:
近年、かつて旺盛を極めたS. EnteritidisやS. Typhimuriumの検出数の減少が顕著である。一方、非常に稀な血清型の検出が散見されるようになった。医療機関との関連を密にし、サルモネラの血清型別感染状況の把握に努め、新たな血清型の流行を感知したり動物由来サルモネラ症の実態を把握する必要がある。
問題点:
本事例で分離されたサルモネラは、抗血清が市販されていない非常に希な血清型であった。一般に、このようなサルモネラはO抗原不明と報告され、その由来を推測することは困難である。
関連資料:
1) 依田清江、内村眞佐子.イグアナが感染源と推定された乳児下痢症患者から分離されたサルモネラ. 病原微生物検出情報.2005;26:344-345.
2) 依田清江、内村眞佐子.乳児下痢症患者から分離されたSalmonella enterica subspecies Houtenae (O45:g,z51:-)について-ペットのイグアナからの感染が強く疑われた一例.千葉県衛生研究所年報2006;54:67-69.
3) Woodward DL, Khakhria R, Johnson WM. Human salmonellosis associated with exotic pets. J Clin Microbiol 1997;35:2786-2790.
4) CDC. Reptile-associated salmonellosis-selected states, 1998-2002. MMRW 203;52:1206-1209.