[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:茨城県衛生研究所
発生地域:茨城県牛久市・取手市内の小中学校等
事例発生日:2006年4月
事例終息日:2006年7月
発生規模:計96名
患者被害報告数:入院患者18名
死亡者数:0名
原因物質:麻疹ウイルス
キーワード:茨城県 牛久市 取手市 麻疹ウイルス
背景:
麻しんは、感染力が極めて強い感染症で、特に小児にとっては重症度の高い疾患である。また、最近では、成人における麻しん患者も散発的に報告されている。麻しんウイルスは、全世界に分布するものの、麻しんワクチン接種率が高い地域での発生は希であるとされているが、我が国においては、毎年数千人の患者発生があり死亡例も報告されている。
概要:
006年4月、茨城県竜ヶ崎保健所管内の牛久市内のA小学校及び取手市内のB中・高一貫校を中心に麻疹患者の発生が見られ、最終的には竜ヶ崎保健所管内で散発例も含めて96名の麻しん患者が報告され、8月28日に終息した。96名のうち、麻しんワクチン接種歴が確認されたのは58例(60.4%)であった。竜ヶ崎保健所では、管内の保育所、幼稚園、小学校、中学校及び高校等に対し注意喚起を行うとともに、未接種未罹患者に対し麻しんワクチンの接種勧奨を行った。また、管内の全医療機関に対し、麻しん患者の全数報告を依頼した。
牛久市内のA小学校の患者数は1年生13人、3年性1人、4年生1人の計15名(確定例14人、疑い例1人)で全員ワクチン接種歴があった。当該小学校における未接種未罹患者に対し公費負担で麻しんワクチン接種を実施した。
取手市内のB中・高一貫校の患者数は中学生23人、高校生16人、職員4人の計43人(確定例42人、疑い例1人)で、うちワクチン接種歴有りは32名であった。当該学校における未接種未罹患者に対し学校負担で麻しんワクチン接種を実施した。
原因究明:
国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)の協力により、積極的疫学調査及びアンケートを用いた聞き取り調査等実施したが、初発患者の曝露源は不明であった。アンケート調査を実施したA小学校の1年生については、ワクチン接種率は97.7%であり、通常であれば集団感染を抑制できるレベルであるとされている。今回、集団発生は起こったものの、重症例は見られず重症化阻止効果はあったと考えられるが、過去に接種した麻しんワクチンによる免疫獲得状況については、さらなる検査及び詳細分析が必要であり評価が困難である。
また、B中・高一貫校については、全体のワクチン接種率は92.0%で、流行阻止効果が得られるのは95.0%以上といわれており、流行阻止には不十分であったと考えら
れる。
診断:
ウイルス分離・同定及びRT-PCR法によりウイルス特異的遺伝子を検出するとともに、患者より採取した血清から麻疹ウイルス特異的IgM抗体を検出した。
なお、分離された遺伝子型は全てD型であり、日本国内での流行型と考えられる。
地研の対応:
県内の医療機関で麻しんが疑われた患者について、麻疹ウイルスの分離・同定ならびに特異的抗体の検出を行った。
行政の対応:
・竜ヶ崎保健所管内における麻しん対策会議及び関係機関等連絡会議の開催
・竜ヶ崎保健所のホームページにおける患者情報の提供
・竜ヶ崎保健所管内の医療機関および近隣の一部医療機関に対して情報提供を行い、患者発生の際の迅速な報告を要請した。(麻しん患者全数報告)
・竜ヶ崎保健所管内の定期予防接種対象者に対し、速やかに予防接種を実施するよう接種勧奨を行う旨市町村に対し指導を行った。
・竜ヶ崎保健所管内の保育所、幼稚園、小学校、中学校及び高校学校の生徒等で予防接種未接種・未罹患者を把握するとともに、必要に応じ予防接種を行うよう接種勧奨を行った。
・医療機関従事者に対して、院内感染対策の徹底を周知した。
地研間の連携:
特になし
国及び国研等との連携:
国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)の協力を得て積極的疫学調査等を実施した。
事例の教訓・反省:
今回の初発例は、医療機関からの連絡により患者発生を探知したが、感染症発生動向調査事業による竜ヶ崎保健所管内の定点当たり患者数は増加せず、集団感染を反映していなかった。
現在の状況:
県では、今回の集団感染事例を受けて、7月に茨城県麻しん対策会議を開催し、1)未接種未罹患者の把握と予防接種の徹底、2)保育所・幼稚園・学校等における発生時の対応、3)行政機関における対応等を柱とする麻しんの発生及びまん延防止対策を定め、各関係機関に通知した。
今後の課題:
麻疹ウイルスは一般的に極めて伝播力が強く、免疫を付与されていない集団内における伝播は極めて早いと考えられる。このことから、通常時の定期予防接種の勧奨や施設における未接種未罹患者に対するワクチン接種勧奨等を行うとともに、患者発生時の施設等における迅速かつ的確な対応が望まれる。
問題点:
麻しんは、五類感染症の定点報告感染症であるため、患者を迅速に把握することが困難である。このため、本県では厚生労働省に対し施行規則の改正(全数報告)を要望した。
また、今回A小学校で発生した患者の多くは、典型的な麻しん症状を示さず、症状が比較的軽い「修飾麻しん」という形で発症した。そのため、医療機関では麻疹ウイルスIgM抗体検査を実施する必要があり、診断までの時間がかかった
関連資料: