[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:山梨県衛生公害研究所
発生地域:山梨県大月保健所管内A村
事例発生日:2005年6月30日
事例終息日:2005年7月8日
発生規模:給水人口650名
患者被害報告数:患者数76名
死亡者数:0名
原因物質:カンピロバクター・ジェジュニ
キーワード:Campylobacter jejuni、簡易水道、食中毒
背景:
カンピロバクターは、大気や乾燥に極めて弱いが、湿潤な環境では長期間生存できることから、水が原因となることがあり、以前から井戸水、水道水、わき水による食中毒事例が発生している。
概要:
平成17年7月4日、医療機関から「下痢、発熱等の食中毒様症状を呈したA村の住民を診察した」との連絡が大月保健所にあった。保健所の疫学調査から、患者の発生は6月30日に始まり、7月2日を頂点とする一峰性のピークを示して、7月8日まで続き、最終的な患者数は76名となった。患者に共通食がないこと、患者はいずれもA村の住民で、さらに特定の区域内に患者が集中していること、A村に給水しているB簡易水道施設の調査で、水道水の残留塩素濃度が基準値を下回っていてこと等から、簡易水道が原因の一つとして疑われた。細菌検査用に当所に搬入された複数の患者糞便および簡易水道の原水からC. jejuniが分離されたため、簡易水道水が原因と推定された。
原因究明:
患者はいずれもA村の住民であったが、患者の生活行動パターンや食事に関する共通要素はなく、患者の年齢構成がA村の人口構成と類似していた。また、75名はB簡易水道給水区域の住民でもあった。B簡易水道施設の管理状況調査では水道水の残留塩素濃度が基準値未満もしくは未検査が一週間続いていた。細菌検査の結果、C. jejuniが簡易水道水からは分離されなかったものの、患者糞便7検体、原水1検体から分離された。診断に示したように分離菌の血清型、薬剤耐性型、PFGEによるDNA切断パターンが同一であり、簡易水道が原因と推定された。
診断:
分離された8株の血清型は、すべてLior型LIO7、Penner型O群であった。薬剤耐性型もすべてがSA,CET,CFX,LMOX,ST,NFLX,OFLX,CPFX,NAの9薬剤に耐性を示した。さらに、PFGEによるDNA切断パターンも同一であった。
地研の対応:
患者糞便8検体、簡易水道水3検体、簡易水道原水2検体について食中毒菌・ノロウイルス・クリプトスポロジウム・ジアルジアの検査を行った。
行政の対応:
今回の事例は簡易水道における塩素消毒が充分でなかったことに起因すると推定されたので、大月保健所長からB簡易水道施設の管理者であるA村長に対して水道の管理に万全を期するよう指導を行い、さらに水道法第22条に基づく衛生上の措置を徹底するよう文書で指導するとともに、改善計画書の提出を指示した。
地研間の連携:
分離された菌株について、Lior型およびPenner型の血清型別を東京都健康安全研究センターに依頼した。
国及び国研等との連携:
なし
事例の教訓・反省:
今回の事例は、簡易水道の衛生管理が不徹底で、なおかつ塩素消毒が不十分であったことにより、C. jejuniに汚染された原水が殺菌処理されずに給水されたことが原因で発生したと考えられた。水道水や井戸水を原因とする水系感染症は、カンピロバクター以外に病原大腸菌、赤痢菌、サルモネラなどでも発生している。これらの感染症は適切な浄水処理や塩素消毒など衛生管理を十分行うことにより防止することが可能である。とくに水道水は、一度汚染を受けると患者数が増大するため、水道管理者に対して、水道法を遵守し、衛生管理を徹底するよう指導、監視していかなければならない。
現在の状況:
A村長から衛生管理の改善計画書が提出され、塩素注入装置の動作確認、検査体制の整備、記録の整備など早急に必要な対応が示された。さらに、逆洗浄を浄水で行うよう応急工事を実施し、今後の抜本的対応として膜ろ過等の高度浄水処理方式に変更する事業計画が示された。
今後の課題:
なし
問題点:
関連資料:
山梨県衛生公害研究所年報 第49号 24~27頁 2005